33 寝耳に水
「奴隷商の買取金額以上の金額を出せばエクレールを買えるのかな?」
エクレールと奴隷商との契約内容にもよるだろうが同じ売るのであればより高い買い取り手に売ることは商売として当たり前の話だ。
「ユーマ様、まさかエクレールを買おうと思っておいでですか?」
「そうだね。知らない仲じゃないんだし、誰ともわからない連中に買われるかもしれないのなら俺が買いたいってのはあるかな。でも一体いくらくらいなんだろうか」
「今日のオークション相場から恐らく1000万ゴルドは下らないでしょう。奴隷商との取引に介入するのでしたら相応の手数料も考える必要もあるでしょうから1500万ゴルドは欲しいところですわね」
セフィリアは勇馬が本気でエクレールを買おうとしているとは思っていない。
例えるならば宝くじが当たったら何を買いたいかというIFの話と同じ様な認識だった。
「正直全然足りないな」
勇馬は取り敢えず今できる仕事をやっていくことにした。
翌日、付与魔法ギルドにやってきた勇馬はこれまで以上に仕事をこなそうと意気込んだのだがそれどころではない話が待っていた。
「ユーマさん、ギルドマスターがお話したいことがあるそうです。マスタールームまでお願いします」
受付でそう言われてやってきたマスタールームでギルドマスターであるコランから告げられたのは勇馬に回す仕事量の制限と勇馬が自分で始めた他国出身者対象の臨時窓口開設の中止だった。
勇馬にとっては正直、寝耳に水な話だ。
「先日のユーマくんへの襲撃事件は恥ずかしながらうちの身内が犯人だった。どうやら仕事が減ったことへの逆恨みらしい。ユーマくんは被害者で別に落ち度だってあったわけじゃない。正直、ギルドとしてはユーマくんに入ってもらって助かってはいるんだが、他の付与師たちはどう思っているのかはわからない。今後も同じ様なことがあったらお互い困ることになると思ってそういうことになった」
コランの話では、臨時窓口開設を中止する代わりに通常の受付自体、自国民に限定するという制限を撤廃するという。
つまり、普通の付与魔法ギルドと同じ受付体制に戻すということだ。
普通に戻るだけで勇馬としてはいつもであれば文句はないところだが今日は事情が違った。
少しでも多く仕事をして稼ぎたいという思いがあった。
勇馬が不満そうな表情を隠さないのをみてコランは苦笑した。
「不満があるのは当然だろうと思うけれどギルドとしてはこれが決定なんだ。ただ、私一個人として言わせてもらえば、ユーマくんは上級で付与師としての能力は十分だと思う。だったら自分の工房を構えて自分で集客して稼いではどうだろうか? それであればギルドも他の連中も文句は言えないと思うよ」
「工房か……」
メルミドにいるときからその存在自体は見聞きしていた。
また、建築ギルドの仕事を請け負う際にも直接契約についての話も聞いたことはあった。
もっとも当時は指名依頼にした方が面倒がないということであまり熱心に考えたことはなかったがこれもいい機会かもしれない。
「興味があるなら職員に説明させるけど聞いて帰るかい?」
勇馬はコランの言葉に「お願いします」と言って頭を下げた。




