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【完結】マジックペンで異世界探訪(たんぽう)~ペンは剣よりも強し  作者: 言納智大
第2部 第1章 ダンジョン都市サラヴィ編
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32 エクレールの事情

 セフィリアは紅茶で口の中を潤すと話を続ける。


「あるとき、エクレールとクレアのパーティーがクエストで魔獣と遭遇したときのことです。エクレールが攻撃を受けて、彼女のローブが大きく破けてしまったそうです。破けた場所が上半身のちょうど胸のあたりだったのでしょう。パーティーのメンバーに男性もいてエクレールは周りからの視線を気にして自分の胸を隠すことを優先してしまったそうです」


 勇馬は一つ頷き、セフィリアに続きを促す。


「エクレールは詠唱中の魔法を中断してしまったばかりか、胸を隠すことに気をとられて無防備となり、さらに魔獣から攻撃を受けそうになりました。そしてそんなエクレールを守ろうと……」


「クレアがエクレールを助けに入って怪我を負ったと」


「ええ。エクレールのミスがクレアを危険にさらし、その結果としてクレアは怪我を負いました。クレアも他のパーティーのメンバーも彼女を責めませんでしたが、元々が真面目な彼女でしたから。それで余計に責任を感じたようです」


「なるほど。その怪我も完全に治ったのならよかったんだろうけどな」


「はい。1か月経って2か月経ってもクレアの足は完全には治りませんでした。当初はクレアのパーティーの他のメンバーたちもクレアの生活を気遣ってくれていました。しかし、まだCランクになったばかりの冒険者では他人の生活を助けるまでの余裕もなく、クレアとは次第に疎遠になっていきました。そして最終的にはエクレールがクレアの生活をみるという状態になっていました」


「エクレールが今の様に変わったのはその頃ということか?」


「そうですわね。まだ始めのころはそこまでではなかった様に記憶しています。まず、彼女は何で自分がああいうミスをしたのかを反省したようです。そして吹っ切れたようですわね。『私のこの胸に隠すだけの価値はあるのか』って」


 エクレールは自分の胸が他人の目にさらされることを恐れたばかりに自分の命ばかりか仲間の命をも危険にさらした。


 その結果クレアに取り返しがつかない障害を負わせてしまった。


 その事実を振り返ったときに自分の胸に隠すだけの価値があるのか、潔癖なまでの慎みに何の意味があるのか、そんなものを守るために本当に大事な物を危険にさらすのか、そう自問自答を繰り返した。


「で、結局それをこじらせてしまったわけか……」


「何といいますか。そうなりますでしょうね」


 セフィリアはそう言って溜息を付いた。





(極端というか何というか。)


 潔癖に近いエクレールはその事件の反動で痴女になってしまったようで勇馬は苦笑いする他なかった。


 結局はその事件をきっかけとしてエクレールは根本的に考え方が変わってしまった。見られても減るものではない、見られることを恐れて何かを失うくらいなら見られることを恐れないようになればいい。

 エクレールは自分への戒めとして、そして再び同じミスをするようなことがないよう謂わば人の目に晒されることに慣れるために露出の多い服を着るようになった。


「それで、服装も変わってそれに合わせて性格も変わったというところかな?」


「ええ。開き直ってやっていたらだんだん今の様な性格になってきましたわね。そして次第に殿方の反応が面白くなってきたとも言っていましたけど」


「なるほど。しかしエクレールが痴女になった理由はわかったけど、それと奴隷商館に行くことと何の関係があるんだろうな? おもちゃにする男でも探しにいったのか?」


「いえ、それはあり得ません。エクレールの最終的な目的はただ1つ。エリクサーを手に入れてクレアの足を治すことですから」


 今日のオークションで話題になったばかりの代物である。


 自分には縁がないと思っていた物が話の鍵になることに勇馬は運命めいたものを感じた。


「エリクサーを手に入れることと奴隷商館に行くことはどう関係するんだ?」


「今日オークションをご覧になってお分かりになったと思いますがエリクサーは大変高価です。そして、ダンジョンで入手可能ですが、Aランク以上の高ランクでなければ行けないエリアでしか入手できません。それ以上に厄介なのはダンジョンで入手した特定のアイテムは全てオークションへの出品を強制されることです。エリクサーは常時強制出品対象アイテムですので自分で使うために入手することはできません」


「つまりオークションで買うしかない、ということか」


「その通りです。そしてオークションで買おうとすると大変高額なお金が必要となります。そして奴隷商館では奴隷の売買ができますが、『自分を』売ることもできます」


「まさか……」


「はい、エクレールは奴隷商で自分を売っているのです。とはいっても今の時点でエクレールは自由民であり奴隷ではありません。おそらく奴隷商との間で条件付売買契約を結んでいるのでしょう」


「なるほど。つまりエクレールは自分を売れば得られる見込のお金をエリクサーの購入原資としてオークションに参加しているわけだな」


「ええ、とはいってもエクレール自身はオークションには参加せず奴隷商が代理入札しているようですが。オークションに参加している間はエクレールは奴隷商館にいることになっているようです」


「確かにエクレールを担保にしたお金で落札したのに、当の本人が逃げてしまったら奴隷にできず回収できないもんな」


 思いもかけない人物の思いもかけない状況に他人事(ひとごと)ながら勇馬は頭が痛くなるのを感じた。

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