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【完結】マジックペンで異世界探訪(たんぽう)~ペンは剣よりも強し  作者: 言納智大
第2部 第1章 ダンジョン都市サラヴィ編
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31 昔語り

 自宅に戻ると勇馬はダイニングキッチンのテーブル席に腰を下ろした。


 幸い、勇馬たちと入れ違いでアイリスたちは夕飯の材料の買い出しに出掛けたので今はパーティーハウスには勇馬とセフィリアの二人だけだ。


 話が長くなりそうだからとセフィリアは紅茶の用意を始める。


 そして、セフィリアはテーブルに2客のカップを置くと一旦椅子に座り、テーブルを挟んで勇馬と向かい合った。




「そうですわね、どこからお話ししたらよいでしょうか……」


 勇馬はセフィリアを急かすことなく彼女の言葉を待った。


「最初にユーマ様はエクレールをどの様な女性だと思っておられますか?」


「ん~、そうだな。社交的で活発で茶目っ気もあって、あとエロに寛容? というよりも本人そのものがエロい」


 勇馬の回答にセフィリアが苦笑する。


「まあ、そうでしょうね。まず、最初に言っておきますが元々のエクレールは、今ユーマ様がおっしゃったことと全く正反対ですわ」


「はっ? えっ? だって……」


 勇馬は目の前のセフィリアが言った言葉の意味が理解できなかった。


 勿論、言葉としての意味は理解できているがそれが意味することを脳が受け入れることを拒否した。


「わかります。わかりますわ。ユーマ様がおっしゃりたいことは痛いほどよ~くわかりますわ。ただ、取り敢えずはユーマ様が認識している姿は虚像だということを前提としたお話になりますのでそのつもりでお聞き下さいませ」


「ん、わかった」


 勇馬の言葉を確認するとセフィリアは訥々と話し始める。


「わたくしが初めてエクレールに出会ったのは今から4年くらい前でしょうか。レスティの街でわたくしはシスターを、彼女は冒険者をしていました」


 勇馬は頷いて話を促す。それは普通に想像できる過去だ。


「エクレールはそのころからクレアとパーティーを組んでいました。ユーマ様はクレアが足を痛めていることはご存知ですか」


「ああ、知ってる。ちょうど怪我の療養をしているということでアイリスの家庭教師をやってもらえたからな」


 勇馬はクレアが足を怪我していて足を引くように歩いており、俊敏な動きができないことを自分の目でも見ている。


「それではクレアがいつ怪我をしたのか、どのくらいの期間療養しているのかはご存知ですか?」


「……いや、それは知らないな。アイリスの家庭教師を始める1、2週間前くらいじゃないのか?」


 療養というからには怪我をして間もないくらいだろう。勇馬はそう当たりをつけた。


「2年前、正確にはもうすぐ2年になるかどうかくらいでしょうか」


「2年!?」


 思いがけない期間に勇馬は絶句した。怪我の療養で2年というのは流石に長過ぎる。


「それってつまり……」


「ええ、今後自然に治る見込みはまずないと言っていいでしょう」


 セフィリアは物悲しい表情でそう言った。




 怪我をして完治せず、かといって自然経過でそれ以上良くなる見込みがない。


 その様な状態を症状固定という。


 そしてその治りきらなかったものこそが『後遺障害』と呼ばれるものである。


「クレアはその間、どうやって生活してたんだ?」


 冒険者が怪我で活動できない場合収入は途絶えることになる。蓄えがある程度あったかもしれないが異世界には現代日本のような労災保険や障害年金、生活保護はない。


「簡単な仕事はしていたようですが、エクレールが渡していた生活費が主だったようです」


「なるほど。しかし、元々仲が良くて同じパーティーメンバーというだけでそこまでするものなのか?」


「それはどうしてクレアが怪我をすることになったのかという事情が深く関わっていますわ」


「事情?」


「はい。まず、最初にしておく話として以前のエクレールはそれはそれはおとなしい子でした。胸は昔から大きかったのですけれど今みたいな痴女めいた服装は勿論、人目を引くような派手な格好すらも見たことがありませんでしたわ」


「そうなのか。じゃあなんであんな……」


「まあ、そう急がれませんこと。エクレールは魔法使いとして才能があったみたいですけれど性格は自分に自信がなくて引っ込み事案で人と交わることが苦手でした。そんな彼女だからこそ大きな胸を目当てに男に近寄られたくはなかったのでしょう。服装は肌の露出はなく、胸の大きさを隠す様にダボダボのローブを着ていてとにかく地味な服装をしていました。それにエクレールは性的な話が苦手で潔癖とまではいかなくてもそれに近い様なところはあったみたいです」


「へー、何か意外だな。今の様子からは想像もつかないな」


 ちょうど紅茶を蒸らし終わったためセフィリアは席を立った。


 そして2客のカップに紅茶を注いだ。


「勇馬様、どうぞ」


「ああ、ありがとう」


 セフィリアが再び座ると、2人は淹れたての紅茶の入ったカップを手に取った。


 そして無言のまま少しずつ冷ましながら紅茶を口に含んだ。

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