26 護衛
「主様を1人で行かせるわけにはまいりません!」
勇馬が襲われて以降、周りは勇馬に対して常に護衛を付けるようにと言うようになった。
「でもそしたらダンジョンには3人で行くことになるよ? 3人じゃあパーティーとして足りないんじゃない?」
「であればもうダンジョンに行きたいだなんて言いません。主様の側にいるようにします」
元々勇馬はアイリスに冒険者だなんて危ないことをして欲しくはないし、アイリスには近くにいて欲しいとも思っている。
しかし、アイリスに自分のやりたいことを我慢させて縛るということはしたくはなかった。
勇馬とアイリスのやり取りを他の3人が傍から様子を伺っている。
「それなら仕方がない。もう1人奴隷を買うことにしよう」
「「「「えっ!?」」」」
勇馬の言葉に4人は驚きの声を上げた。
勇馬の考えは新しく奴隷を買い、その奴隷も合わせてローテーションを組み、勇馬の護衛1名とダンジョンに潜るその他というようにしてはどうかというものだ。
「候補となる奴隷は女性ですか?」
「勿論。アイリスに他の男とパーティーを組ませるとかあり得ないからな」
「本音は?」
「男の護衛だなんてむさ苦しくてお断りです」
「はぁ、流石は主様ですね……」
「というわけで今日は奴隷商館に行こう!」
結果的には芳しくなかった。
今回は勇馬の琴線に触れる人材がいなかったのだ。
それに加えて予算の面でも障害があった。
護衛や冒険者もできて容姿もよくてあっちの方もできるとなればその値段はアイリスを買ったときとは桁が一つ違ってくる。
「しばらく奴隷はあきらめるか」
アイリスには悪いがダンジョンについてはしばらく休んでもらうことになった。
結局、勇馬が外出するときには誰か1人は勇馬の護衛をすることになりそれはローテーションにすることが決まった。
ちなみに本来勇馬を護衛する義務のないセフィリアもローテーションに入っているのは、「ユーマ様にお仕えします」と言い張り護衛をしたいと言ったからだ。
勇馬は自由にしていいとは言ったものの当のセフィリア自身が希望する以上は断る理由はなかった。
「それで今日の護衛はアイリスか」
勇馬は付与魔法ギルドに向かうためアイリスと一緒に自宅を出る。
アイリスはレスティの街で冒険者の基本を学び、この街ではダンジョンに潜ってまがりなりにも魔物と戦ってきた。
アイリスは奴隷として勇馬の元に来た当初とは違い表情は引き締まり、身体の動きもシャープである。
(これはアイリスと喧嘩したら負けそうだな)
体格だけでは勇馬に分があるかもしれないが、身体の使い方や戦闘慣れといった点を加味すればあながち的外れなことではない。
もっとも主人と奴隷という関係で普通は喧嘩すること自体起こり得ないのであるがそう考えること自体が勇馬らしいと言える。
「主様と2人だけというのは久しぶりですね」
確かにこの街に来てからは1人でいるかみんなといるかのどちらかが多かった。
勿論宿では当初アイリスと2人部屋ではあったが寝るまでの時間、他の面子が部屋に来ることも多かったのでアイリスがそう感じるのも無理はない。
「そうだね。じゃあ、今日は前の様に仕事を手伝ってもらおうかな」
「付与魔法ギルドの中も危ないかもしれませんからね」
アイリスはそう言って足取り軽く勇馬の後をついていった。




