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【完結】マジックペンで異世界探訪(たんぽう)~ペンは剣よりも強し  作者: 言納智大
第2部 第1章 ダンジョン都市サラヴィ編
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25 自業自得

 

「えーと、財布の中身をあげますから勘弁してもらえませんかね?」



 金目当てだろうと思った勇馬はそう提案して解放を働きかけた。


「すまねーが金はどっちでもいいんだ。いや、もらえるならもらうけどな」


 目の前の大柄な男がそう答えた。


「お前にはこの街から出ていってもらいたい。なに、命まではとる気はないさ。約束どおり出ていってくれるならな」



(金目当てじゃない? 俺のことを知っているやつの差し金か?)



 勇馬はへらへらした表情を浮かべながらも目の前の男の言葉を冷静に分析する。



(まあ、別にこの街にこだわる理由はないし、出て行っても全然構わないんだけど……何かしゃくだな)



 どう答えようか勇馬が悩んでいると後方から人が走ってくる足音がした。


「ちっ、誰かきやがったぞ!」

「んっ、女か? しかもガキじゃないか」


 男たちの目に入ったのは身軽であり機動力に優れた獣人のシェーラとケローネの2人だ。


「それくらい相手にならんだろう。やっちまえ!」


 大柄な男がそう指示すると他の2人の男たちはシェーラたちに向かって剣を抜いた。


「そっちがその気ならこっちも本気でいくよ」


 低い声でシェーラがそう口にすると一気に加速して男の1人に向かった。


「はっ、はや……」


 男がセリフを全て言い切る前にシェーラは腰の剣をあっという間に抜くと目の前の男に一撃を加えた。


「アイスアロー」


 速度重視の短い詠唱で魔法を唱えたのはケローネだ。


 氷の矢は同じく向かってきていた別の男の右太ももに突き刺さり、男は足を止めた。


「くそっ」


 大柄の男は2人の加勢のためシェーラたちに向かって行く。


主様あるじさまへの危害は許しません!」


 少し遅れてシェーラたちに追いついたアイリスが魔法を打ち終えたばかりのケローネの横を追い抜き腰の剣を抜いて大柄の男に向かった。


「ふんっ、小娘が!」


 大柄の男がアイリスを迎え撃とうと数歩アイリスに近づくと自身の武器である大斧を振り上げる。


「アイリスっ!」


 勇馬の心配する声が路地裏に響くがアイリスが表情を変えることはない。


 アイリスは勇馬がこの隙に大柄の男から離れたのを確認すると一旦抜いた剣を鞘に戻した。


「ファイアーボール」


 アイリスが選択したのは魔法による攻撃だった。


 狭い路地での近接戦闘ともなればどうしても正面からの打ち合いとなり、力の大小が大きく影響しかねない。


 細腕のアイリスとしてはその選択をとることは憚られた。


 炎の玉は大柄の男に直撃し、男は動きを止めた。それなりのダメージが入っているようだ。


「くそっ、こうなればあの男を人質にとって……」


 大柄の男はそう言って勇馬に視線を向ける。


「戦闘中によそ見をするだなんて失礼ではありませんこと?」


 いつの間にか追いついていたセフィリアがフライパンを手に持ったまま大柄の男との距離をあっという間に詰めると男の頭にフライパンを叩きつけた。







「これで逃げ出せないでしょう」


 セフィリアは3人の男たちを武装解除させると縄で縛り地面に転がした。


「こっちだ!」


 ちょうどそのとき、路地の先から5、6人の衛兵たちが勇馬たちの元へと駆け寄ってきた。


「通報があったが何ごとか!」


 衛兵たちの隊長と思われる男からそう話し掛けられ勇馬はようやく力を抜くことができた。






「あなたたちが被害者であることは確認できました」


 衛兵の詰所で事情を訊かれた勇馬たちは思ったよりも早く解放された。


「これからどうなるのですか?」


「あなたたちに迷惑を掛けることはありません。こちらで奴らから背後関係を尋問して然るべき罰を与えることになります」


 この異世界においても3人の男たちがしたことは犯罪である。


 日本とは違いこの世界には人権はおろか三権分立という概念も存在しない。


 捜査機関と司法機関は同一であり弁護人なしの断罪という名の裁判が行われるのだ。端的に言えば治安を乱すならず者を支配者たる権力者が処分するのだ。



(まあ、必ずしも異世界特有ってことでもないのか)



 日本の法制度に慣れていれば異世界のシステムはとんでもないと感じるかもしれない。


 しかし、裁判制度が形骸化している国は現代の地球においてもそこかしこに存在する。

 

 まだこの異世界の方がマシだという国も実際には多く存在しているだろう。


 勇馬は話はこれまでとアイリスたちを連れて衛兵の詰所を出た。






「まったくとんでもないことをしてくれたものだ」


 ダンジョン都市サラヴィの代官クライスは執務室の椅子に深く腰掛けると身体を反らして天井を仰いだ。


「尋問の結果、依頼者はこの街の付与魔法ギルドに所属する付与師とのことです」


「何でだ? 理由は?」


「逆恨みのようです。彼が来てから仕事が減ったとかで……」


「今までが調子に乗り過ぎだ、馬鹿どもが!」


「それで処分はいかがされますか?」


「実行犯については任せる。指示をした付与師どもは犯罪奴隷にしてギルドに買わせろ。仕事をしたいらしいから好きなだけさせてやれ、報酬は出ないがな」


 結局実行犯も冒険者資格を剥奪されて犯罪奴隷に落とされることとなった。


 もっとも、結果的に被害はなかったことと元々が脅す予定でしかなく殺害をしようとしたわけではなかったことから鉱山行きについては免れることになった。


 それでも犯罪奴隷として僻地で過酷な労働を強いられることになる。


 生きて年季明けを迎えること自体はできるかもしれないが、それは当分先の話である。

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