24 ならず者
「仕事だ」
ここは街外れにある一軒のボロ屋。
一応はDランク冒険者の肩書を持つ大柄な男はそう言っていつもつるんでいる仲間2人に声を掛けた。
「どうせまたやばい仕事なんだろ?」
「いや、今度はそこまでじゃない」
この街では多くの冒険者たちが活動している。
しかしその中にはどうしても素行の悪い者たちが存在する。
それらの者たちは非合法の依頼も報酬次第で受けるというならず者だ。
「ある男をこの街から出て行くように脅して欲しいそうだ。多少痛めつけることは問題ないが、大事にならない程度にしてくれってことだ」
「なんだ、大した仕事じゃないな。どうせ安い仕事だろ?」
「いや、報酬はそこそこ出してきている」
男はそう言って今回の仕事の報酬額を仲間たちに耳打ちした。
「マジか!? ということは相手はやばいやつなのか?」
「いや、ただの平民で元々この街の者じゃないらしい。最近きたばかりという話だ」
「だったらいい話じゃないか。いっちょやってやるか!」
ならず者たちはそう気勢を上げた。
「お疲れ様でした」
勇馬は仕事を終えて受付嬢からそう労いの言葉を受けると付与魔法ギルドの建物を出た。
この日はいつもよりも時間がかかり、ギルドを出たのは夕方を過ぎた時間だ。
(みんなはそろそろ家に戻っている時間だろうな。ちょっと近道をして帰るか)
勇馬はこの異世界に来た当初は身の安全のために人目の付かない裏路地には近づかないように注意していた。
しかし良くも悪くもこの世界に慣れてしまい、いつの間にか日本にいたときと同じような感覚に陥ってしまっていた。
街の外は魔物や魔獣がいて危険という意識は持ち続けていたものの街の中にある危険についての意識は希薄となっていた。
そのため、この日は安易に近道のために裏路地をとおるという選択をしてしまった。
「さっそくチャンスだぜ」
遠くから勇馬の動向を窺っていた3つの影。
どうやってターゲットである勇馬を人目につかない場所に連れて行くかが一番の懸念であったがこうも最初からそういう機会が訪れたことに影たちは笑みを浮かべた。
ちょうどそのころ、ダンジョン探索を終えたアイリスたちは勇馬を迎えに付与魔法ギルドを訪れていた。
「何か嫌な予感がするんだよね」
そう訴えるシェーラによっていつもより早く探索を切り上げ、勇馬との合流をはかろうと付与魔法ギルドへとやってきたのだ。
しかし、アイリスたちが付与魔法ギルドに着いたのは勇馬がギルドの建物を出た後であった。
「ユーマさんの匂いがまだ残ってる。これなら追いかけることができるよ」
狼獣人であるシェーラはそう言って他の3人を連れて勇馬の後を追っていく。
「主様は随分人通りのない道を行かれたのですね」
「この道は危ないですわね」
アイリスとセフィリアが薄暗い裏路地を見回しながら進む。
道の両側には廃屋一歩手前の古い建物がひしめき合い、建物の壁にもたれて座り込むホームレスがときおり目に入る。
「ううっ、わたしもちょっと怖いです。早く行きましょう」
ケローネの足取りも夜が近づくことによるものかそれとも場の空気がそうさせるのかいつもよりも早いものとなっている。
「あれっ? ちょっとおかしいな……」
「どうしたんですか?」
「あのね、勇馬さんの匂いの他に勇馬さんを追うような他の匂いが続いているんだ」
シェーラとアイリスの話を聞いていたケローネが口を挟む。
「どちらにしても急いでユーマさんに合流しましょう。こんなところに少しでもいたくないです」
ケローネが走り出すと他の3人もそれを追った。
「えーと、財布の中身をあげますから勘弁してもらえませんかね?」
裏路地の中ほどで勇馬は覆面をつけた3人に囲まれていた。




