23 逆恨み
「仕事がないってどういうことだ!」
この街、ダンジョン都市サラヴィの中級付与師であるヘイルは受付のアンナにくってかかった。
ヘイルはこれまでこのサラヴィの付与師ギルドで仕事をしてはいたもののその仕事ぶりは決してまじめなものではなかった。
勿論ギルドに所属しているとはいっても付与師には毎日仕事をする義務はない。
冒険者ギルドにおいて冒険者がどのクエストを受注するかを自分で選べるように付与魔法ギルドでもどのレベルのどの仕事をどれくらい受注するかはあくまでも本人の意思次第である。
とはいえサラヴィの付与魔法ギルドでは近年、付与師の不足から受注業務が回らない状態が続いていたためギルドからは度々協力要請がされていた。多くの付与師はギルドからの要請に応じてできる限りの仕事をこなしてきた。
しかし、中にはそうではない者たちも当然存在する。
ヘイルもその中の1人であった。
元々付与師は付与魔法という魔法を使える魔法使いであり自分の魔力を使って仕事をできるという者はこの異世界においても少数派だ。
それは付与師という職業が一種のエリート職であるということでもある。
その様な業種であるため一部の者は自尊心をこじらせた傲慢な者もいる。
元から「仕事をやってやる」という態度の者もいたがそれは付与師の不足によってよりエスカレートしていた。
ヘイルは仕事は自分の気の向いたときにやる、納期は守らないなどの問題行動があり、ギルドにとって頭の痛い存在であった。本音では資格停止としたいところであったがただでさえ付与師が不足していた状況にあっては処分することができず、宥めすかしながら仕事をさせてきたというのが実情である。
しかし、今や誰かのおかげで無理に仕事をやってもらわなければならない受注状況にはない。
ギルドと付与師の力関係は正常なものに戻っていた。
通常業務の配点において過去にギルドに煮え湯を飲ませた者にはそれ相応の対応が下される。
仕事がない付与師は収入を得る術のないただの人である。
この日ヘイルは結局仕事をすることなくギルドから立ち去ることとなった。
「くそっ! 一体どうなってやがるんだ!」
ヘイルは手にもったジョッキに入ったエールを半分ほど口に流し込むとそう叫び持っていたジョッキをテーブルに叩きつけた。
その日の夜、仲間の付与師たちとつるんで酒場に入った直後のことである。
「まったくだ。最近、仕事がめっきり少なくなった」
「納期にもうるさくなってめんどくさい限りだ」
類は友を呼ぶというべきか。
ヘイルとつるんで飲んでいる付与師たちもヘイルほどではないにしても仕事ぶりは決してほめられる連中ではない。
これらの者もギルドからいわば干されていた。
「結局、あの新しく来た奴のせいなんだろ?」
「ああ、あの髪と目が黒い奴な」
勇馬の活躍によってこれまで上手い汁を吸っていた者たちは苦境に立たされていた。
「あいつさえいなければこれまでどおりに戻るんじゃないのか?」
「そうだな。しかしどうする? この街の奴じゃないんだったらそのうちどこかにいくだろう。それまで待つのか?」
「まさか。今すぐ出て行きたい何かが起これば出ていくだろうさ」
ヘイルはそう言って口元を歪ませた。




