22 逆転現象
勇馬は朝から付与魔法ギルドに来ていた。
勇馬は週に3日、隔日で付与魔法ギルドに来ては仕事をしている。
当初こそギルドから振られるラムダ公国民からの依頼がメインであったが今や勇馬が専ら受け付けている他国出身者からの依頼がそれを超える程になった。
このように説明すると勇馬と他の付与師たちとでは上手く住み分けできているように思うかもしれないが歪は少しずつではあるが生じていた。
「あれっ? あなたはこの国の方ですよね?」
この日も勇馬はギルドからの仕事を早々に片付け、他国出身者からの依頼を受け付ける臨時窓口を開いていた。
勇馬がギルドマスターとの取り決めで勇馬が他国出身者から受注できる仕事はあくまでもその日のうちに終わらせることができる仕事だけである。
しかしそれは裏を返せばその日受注した仕事はその日のうちに完成しているということである。
依頼した冒険者にとってはその日の夕方もしくは翌日の朝一番に受け取ることができ、準備に無駄が出ない。
この事実は今までギルドに仕事を依頼していたラムダ公国民に対して衝撃を与えた。
付与魔法ギルドはこれまで付与師の不足を理由に受注内容の制限、納期の遅れ、時期によっては料金の値上げをすることもあった。
勇馬がこの街のギルドに加わった時点では納期は1週間以上だったものがその後2、3日までに短縮されていた。
しかし、客は気付いてしまった。
勇馬が他国出身者用に受注する業務はさらに納期が短縮されたものであることを。
この街の付与魔法ギルドの客の大多数は冒険者である。
冒険者にとっては武具への魔法付与に何日もかかることは即ちその間収入を得ることができないことを意味する。
そして冒険者は計画性のないその日暮らしに近い様な輩も多くいる。常に日銭を稼いで何ぼの者たちにとってそれは死活問題であった。
勿論冒険者も休みはするし、時には気の向くままに長い間仕事をしないこともザラである。
冒険者は多かれ少なかれ自由が信条の我がままな人種である。
だからこそ自分が思い立ったときに直ぐに仕事を始めたい、そのための準備も早く終えたいという希望は確実に存在した。
その希望を充たすものこそ勇馬の始めた臨時の窓口であった。
そこは他国出身者であっても依頼をすることができるが逆に依頼ができる者は他国出身者には限定されてはいない。
そうして勇馬がギルドにやってきて開設される臨時窓口は数量限定ながら出身地を問わず冒険者たちからの依頼が殺到する窓口となっていた。




