20 愛が足りない
――パーティーハウスへ入居した次の日
「……知らない天井だ」
勇馬は自分の部屋のベッドで目を覚ますとお約束の言葉を呟いて部屋の中を見回した。
「こうしてみると結構広いな」
勇馬の部屋は他の部屋の2倍はあり、個室では一番広い部屋となっている。
普通の冒険者パーティーであればパーティーのリーダーに割り当てられる部屋だ。部屋の割り振りでは誰がリーダー部屋になるかで揉めはしなかった。
勇馬の奴隷であるアイリスと勇馬を神の御使いと崇めるセフィリアが勇馬を差し置くことができるはずがない。シェーラとケローネはあくまでも護衛なのですんなりと勇馬の部屋に決まった。
――コンコンコン
勇馬の部屋のドアが外からノックされた。
勇馬が「どうぞ」と応えると直ぐにドアが開いた。
「おはようございます主様。もう起きておいででしたか」
アイリスがそう言って部屋へと入ると勇馬はアイリスの姿を視界に収めるや動きを止めて無言でアイリスを見続けた。
「……主様?」
アイリスは怪訝そうな顔でそう言った。
勇馬の目の前にいるアイリスはいつか見たメイド服に身を包んでおり、頭にはホワイトブリムを乗せている。
「じゃあ、もう一回寝るからアイリスは俺を起こしてくれ」
突然勇馬はそう言って再びベッドに横になって布団を被った。
「いえ、主様。何をされたいのか全くわからないのですが?」
「やっぱりメイドさんには耳元で優しく囁いて起こして欲しいなと……」
「……はぁ、わかりました。じゃあいきますよ。『おはようございます主様。朝ですよ。起きて下さい。』これでいいですか?」
アイリスは勇馬の枕元に近づくと勇馬にそう声を掛けた。
「……駄目だな」
「駄目!? 何が、何が悪いんですか?」
「愛が足りないな」
「愛!?」
「まあ半分冗談だけどそれはそれとしていい加減起きようか」
勇馬はそう言ってベッドから起き上がるとアイリスの頭に手を乗せると2度ほどぽんぽんとした。
「……半分は本気なんですね」
(うちのアイリスはなかなか賢い子に育っているな)
勇馬はそう満足しながら朝の支度を済ませた。
ちなみに勇馬の朝食はアイリスが用意してくれていた。
朝食は各人で食べることになっているがアイリスはあくまでも勇馬の奴隷であるという立場なのでアイリスは自分の分だけでなく勇馬の食事も用意した。
「今日はどうする? 俺の仕事は休みなんだけどアイリスたちはダンジョンに潜るの?」
「この家に来たばかりですし今日はお休みでもいいかと思っています。足りない物もまだありそうですし」
「ではわたくしが必要な物を買ってまいりますわ」
「ボクたちはどうしたらいい?」
「う~ん、別に家にいても襲われることもないと思うし今日は好きにしたらいいんじゃないかなぁ?」
「でしたらわたしはセフィリアさんと一緒にお買い物に行きたいです」
「じゃあ、ボクもそうしようかな」
結局勇馬とアイリスは家で留守番、他の3人は買い物へ行くことになった。




