15 酔っ払い
お酒は20歳になってからほどほどに。
長かったような短かったような代官邸への訪問を終え、勇馬は自分の宿へと戻った。
帰りは暗くて危ないからと馬車で宿まで送迎してもらって勇馬はひと時のVIP待遇を味わうことができた。
(あ~駄目だ、このままでは駄目になる……)
勇馬は謎の葛藤をしながら宿の自分の部屋へと戻ってきた。
「主様、お帰りなさいませ。今日はいかがでしたか?」
笑顔で酔っ払いを迎えてくれたのは勇馬の奴隷、アイリスである。最初のころに比べて笑顔も自然になっていてその笑顔を見て勇馬はほっこりとした。
――がばっ
勇馬は不意にアイリスに抱き付いた。
今日は勇馬が遅くなるからということで勇馬よりも先に風呂に入るよう事前に伝えていた。その風呂から上がった後のアイリスからはふわりと石けんの香りがした。
「ちょっ、主様!?」
「あーやっぱりアイリスは落ち着くな~」
冒険者になるために訓練を始めて以降、多少筋肉質になったとはいえまだまだ女の子特有の柔らかさを保っている。
いつもは奴隷だからといって無理強いはしない勇馬であるが酒の影響で多少のタガが緩んでいる状態だった。
元々大枚を叩いてアイリスを購入したのにこれまで触れた回数は数えられる程度である。
勇馬のチキンハートはアルコールによって多少麻痺しており奥に秘められていた欲望がじわじわと滲み出てきた。
「ちょっ、そこはっ! そこはダメですっ!」
勇馬はしばらくアイリスのあれやこれやをサワサワと撫で、やわらかな感触を堪能した。アイリスは口では抵抗してはいるが頬を染めるばかりで勇馬を引き離そうとはしなかった。
しばらくして勇馬の酔いもある程度醒めてきたのか、再びいつものチキンハートが復活した。
そろそろいい加減にするべきだと勇馬は自分から両腕を伸ばしてアイリスを引き離して距離をとった。
そして正面からアイリスと向かい合い、アイリスの顔から上半身へとゆっくり視線を動かし、アイリスの胸のあたりで視線を止めた。
「うん、やっぱりアイリスくらいが気楽でちょうどいいかな」
「……主様、今何かすごくイラっとしたのですが何がちょうどいいのでしょうか?」
アイリスの底冷えするような低い声にある程度醒めかかっていた酔いは一瞬で完全に醒めてしまった。
夜遅い時間であり決して暑いわけではない。
しかし、勇馬は自分の背中に汗が流れたのを感じた。
--このままでは自分の身が危ない
相も変わらず奴隷と主という関係が頭から抜け落ちてしまっている勇馬は自分が明日を迎えるためになけなしの知恵を絞った。
その結果、まだ酔っぱらっている状態で前後不覚を装うことに決めた。
「ア~、モウダメダ。ネル……」
勇馬は片言の言葉を残すとアイリスの追及から逃れるためふらふらと自分のベッドへとダイブした。
「……主様?」
アイリスはベッドへとダイブした勇馬に近づくとその頬をつんつんと突いた。
「主様、ホントに寝てますか?」
アイリスはそう声を掛けながら勇馬の表情を注意深く観察する。
一方の勇馬は最初こそ寝たふりであったのだが強い緊張感から解放されたことへの反動で直ぐにマジ寝してしまった。
やはりこの街の最高権力者と会って夕食を共にするという経験は勇馬からすればこれまで感じたことがないほどに緊張を強いられたようだ。
そういう意味ではやはりまだ10代そこそこの若者だったということだろう。
「すーすー」
「おやすみなさい、主様」
勇馬が寝息を立て始めたのを見てアイリスは勇馬に布団を掛けた。
そして部屋の灯りを消すと自分のベッドへと入った。
ちなみに次の日の朝、アイリスに宿に戻ってからのことを問い詰められた勇馬だったが酔っていてよく覚えていないと言い張って事なきを得たのだった。




