12 招待状(よびだしじょう)
勇馬がダンジョン都市で仕事を始めて1週間。
相も変わらず勇馬は多くの仕事を受注していた。
「ユーマさん、ギルドマスターがお呼びです。一段落しましたらマスタールームへお越しいただけますか?」
いつもの勇馬付き担当者であるマリベルではなくマリベルの先輩にあたるアンナが勇馬の作業部屋へとやってくるとそう伝えてきた。
「何だろうか?」
ギルドからの仕事はきちんとこなしているし当初混乱のあった他国出身者からの数量限定受注も今は特にトラブルなくこなせている。
勇馬としては呼ばれる理由が思い当たらなかった。
「忙しいのに呼んで悪かったね」
ギルドマスターのコランにソファーを勧められたため、テーブルを挟んで向かい合ってソファーに座るとコランはおもむろにテーブルの上に1通の封書を置いた。
「これはこのダンジョン都市の責任者である代官のクライス様からの手紙だ。ユーマくんに会って話がしたいそうだよ」
代官とはラムダ公国における地方領の最高責任者の肩書である。
ラムダ公国はラムダ大公が元首の国であり、公国領内はラムダ大公が治める公都フォミルを中心とする直轄地とそれ以外とで構成されている。
後者はいくつかのエリアに分かれており、それぞれのエリアごとに代官と呼ばれる大公の代行者が政治を行っている。
代官は現代日本で言えば知事と道府県庁所在地の市長を兼ねた役職といったところだろうか。
そしてラムダ公国は公都フォミルとこのダンジョン都市サラヴィとが群を抜いて栄えている。
つまりこのダンジョン都市の代官という地位はこのラムダ公国においてはかなり地位の高い権力者であるということだ。
「いったい何がどうなってそういう話になるのでしょうか? そもそも何で代官様が私のことをご存じなんでしょうか?」
「ユーマくんも知っていると思うけどこのダンジョン都市はダンジョンとそこに潜る冒険者を中心として成り立っているんだ」
冒険者が滞在すればそれだけこの街での消費により経済は活発となりその分税収もあがる。
しかし、このダンジョン都市ではそれ以上に冒険者に活躍してもらわなければ困る理由があった。
このダンジョン都市ではダンジョン産のアイテムを目玉としたオークションが定期的に開かれ国の内外から多くの者が参加している。そして、オークションで落札された金額の一部が手数料としてオークションの主催者であるこの街に納められるという仕組みだ。
つまり、ダンジョンに潜って活躍する冒険者が多ければ多いほどダンジョン産のアイテムがダンジョンの外に持ち出され、オークションに出品されることで、この街に納められる手数料も増えるということになる。
ちなみに一部の貴重なアイテムは、一部例外はあるものの冒険者たちは強制的にオークションへの出品を義務付けられる決まりだ。
これはダンジョンに入るための条件として明記されていて違反すれば罰金のみならず刑罰も課されることになっている。
強制出品となっていないアイテムについても冒険者たちはこの街のオークションに出すということが一般的だ。
パーティーで早めに利益の分配をするためという理由に加えてこの街のオークションは有名であり落札金額はオークション手数料を差し引いても申し分ない。下手に他の街で売るよりも良いとされている。
いずれにしてもこのダンジョン都市は冒険者がダンジョンで得たアイテムのオークションによって多額の利益を得ていることは間違いなく、そのためいかに冒険者に活躍してもらうかが重要となる。
「冒険者の活動を陰ながら支えるのが私たち付与魔法ギルドなんだけど、最近はこの街では付与師が不足していてね。それは冒険者たちの活動の低調を招き、この街には大きな打撃だったんだよ」
「それと私が呼ばれるのがどんな関係があるんでしょうか?」
「まあ、停滞していたうちのギルドの仕事をきみが劇的に改善してくれたからね。それの御礼をしたいという話だよ」
この街のトップが動くというほどこの街にとって付与魔法ギルドは重要な存在であるということだ。
「ところでそのお話ってお断りすることは……できないですよねぇ……」
コランの厳しい表情からノーとは言えない小市民勇馬はしぶしぶ申し出を受けることになった。
「これがきみ宛の招待状だよ。一応は明日ということになっているけど日程の調整は可能ということだから都合が悪ければうちの職員に連絡に行かせるけど?」
「いえ、明日で大丈夫です」
面倒事は早く片付けるに限る。
勇馬はコランから招待状という名の『呼出状』を受け取るとマスタールームを後にした。
「というわけでこれが代官からの『呼出状』だよ」
宿に戻って夕食のときに勇馬はギルドマスターから渡された招待状をみんなに見せた。
「この街の代官といえばかなりの地位の方ですわね」
「時間は夕方からで夕食もご一緒にとなってますね。明日、主様は夜のお戻りということですね」
「護衛はどうする? ボクたちは行った方がいい?」
「いやまあ、街の中だからね。代官邸は街の中心部にあるし夜といってもそこまで遅くはならないだろうから大丈夫だよ」
「それにしても何のお話でしょうか? 主様に悪いお話でなければいいのですが」
「まあ、多分悪い話ではないと思うよ。最近は付与師も人手が足りないからこの街に引き留めておきたいという話じゃないかな」
心配そうな顔をするアイリスの頭を軽くポンポンとしながら勇馬はそう返した。




