10 商売繁盛
次の日もアイリスたちは4人でダンジョンへと向かった。
一方、勇馬も同じ様に付与魔法ギルドへ行き仕事をする。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
受付のマリベルにそう挨拶するとマリベルも「こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げた。
勇馬の仕事は昨日と特に変わらない。
最初に50個の武具への依頼を片付けてから追加で10個の武具に付与を施す。
それが終わると昨日と同様まだ午前中という時間ではあったが他国出身者を対象にした付与の受付を開始する。
「おお、ホントに受付してるじゃねーか。こいつはありがてーや」
昨日は初日ということもあって他国出身者から付与を受け付けるという情報は広がっておらず、たまたま付与魔法ギルドの前を歩いていた冒険者を通じてなんとなしに噂が広がっただけであった。
昨日は受付上限の50個に到達したのは昼を過ぎてようやくという感じであったが今日は一夜明けてさらに噂が広まったのか午前中から既に少なくない数の冒険者が受付の始まりを今か今かと待っていた。
「今から受付を開始します」
マリベルがそう宣言すると勇馬の作業部屋の前の臨時カウンターに冒険者が殺到した。
ダンジョンに入る冒険者は一人当たり武器、鎧の2つを依頼することが多い。
それに加えて兜と盾に付与を求める者も少なくない。
そのため受付を開始して20人にも満たない依頼でほぼ受付上限に達してしまった。
初日は知る人が少なく大きな混乱は生じなかったが今日は噂を聞きつけてさらに人が集まりそうな状態である。
マリベルは1人当たりの個数制限や整理券の用意をしていなかったことを後悔した。
「みなさん! ただいま受付上限に達しましたので今日の受付は終了しました!」
マリベルが集まってきた冒険者たちにそう説明するが集まってきた冒険者たちは納得しない。
「50人までいけるって話じゃなかったのか!」
「あいつなんて4つも頼んでいるじゃないか! 不公平じゃないか!」
ギルドのロビーには不満を口にする冒険者たちで溢れている。
その数およそ30人。矢面に立たされたマリベルは青い顔をしてどうしたらよいのかわからず右往左往している。
正規の受付カウンターにいる他の受付嬢たちもいったいどうしたらよいのかわからず息を飲んで様子を窺っている。
そんな中、部屋の外の騒がしい様子に気付いた勇馬が作業部屋から顔を出した。
「マリベルさん、何かありましたか?」
マリベルは冒険者たちに「一旦失礼します」と頭を下げて勇馬の作業部屋へと駆け込んだ。
マリベルから詳しい状況を聞いた勇馬は特に慌てもせずに告げる。
「でしたら残りの30人の分も受けちゃって下さい。その人たちについても個数制限はしなくていいですよ」
マリベルはその言葉を聞くと勇馬に何度も頭を下げると顔色を取り戻して臨時の受付へと戻っていった。
そして今ロビーにいる人については今日の受付をすることを説明してようやく騒動は収まった。




