9 アイリス貯金
「主様、ダンジョンで宝箱を見つけました」
勇馬が宿に戻ると既にダンジョン組は宿に戻っていた。
初日ということもありセフィリアは初心者組の疲労を考慮して早めに切り上げて帰ってきていた。
勇馬が戻ってくるやアイリスが戦利品として宝箱の中に入っていたというポーションと魔力回復ポーションを差し出した。
「よかったじゃないか。でも俺が持っていてもしょうがないからこれはみんなが持っておくといいよ」
街で普通に生活をしていればポーションが必要となるようなことはあまりない。しかも勇馬は以前メルミドからレスティへの移動の際に念のためにと買っていたポーションが手付かずで残っていた。
「それよりも今日はどこまで行ったの? 危険なことはなかった?」
「ユーマ様、本日は1階層を探索しました。Eランクの魔物ばかりですので危険はありませんでしたわ。ドロップアイテムはありませんでしたが魔石を換金して4人で分けましたの」
勇馬がセフィリアから聞いた金額はそれほどのものではなかった。
冒険者といえばやたらと儲かるイメージがあったため少し意外に思ったものの駆け出し冒険者のパーティーでEランクの魔物を相手にするのであればそんなものかと思い直した。
ダンジョンでは魔物からは勿論,魔獣からも素材を得ることはできない。それ以上にダンジョン内の魔物については討伐依頼が出ることはないので討伐報酬もない。
ダンジョンではドロップアイテムや宝箱の中身がまさに本命とされている。
「まあ、冒険者で儲けようだなんて考えなくてもいいからね。安全第一で危ないと思ったら直ぐに逃げるんだよ」
「わかりました。では今日の私の取り分の報酬を主様にお渡ししておきます」
アイリスはそう言って銀貨を勇馬に手渡した。
セフィリアたちは魔石を売ったものを4人で大雑把に分配し、端数はパーティーで使うアイテムなどの購入費用として残している。
「初めての報酬なんだしアイリスが自由に使っていいんだよ」
勇馬はそう言ってアイリスに返そうとしたがアイリスは首を横に振ってそれを拒んだ。
「私のものは主様のものです。少しでもお役に立ってみせますので」
アイリスはそう言って身体の前で両手のこぶしをきゅっと握った。
勇馬はこれまでの付き合いでアイリスが意外と頑固であることは理解していた。そのためアイリスの気持ちを汲んでそれ以上は言わなかった。
(これはアイリス用の貯金として別に貯めておこうかな)
勇馬としてもかわいいアイリスから搾取する気は毛頭ない。
これが生活に余裕がなければありがたく生活費として必要となる分は使わせてもらうかもしれないが勇馬の懐は相当潤っているため手を付ける必要はない。
勇馬は密かに『アイリス貯金』をすることを心に決めた。




