3 宿は風呂付きで
レスティから出発して2日目。
馬車に揺られてようやくアミュール王国とラムダ公国との国境に差し掛かった。
ラムダ公国に入るには山と山との間の隘路にある要塞の検問を通過する必要がある。
「身分証のある者は身分証の提示を、武器を持っている者は武器の提示を」
衛兵がそう声を掛けて回る。
ラムダ公国への入国には特定の職業に就いている者は税を支払う必要はない。
その筆頭が冒険者である。
ラムダ公国の収入は主にダンジョン都市での上がりと言われている。
ダンジョン都市にはラムダ公国の国内からだけでなく国外からも多くの冒険者が訪れており、その冒険者たちが落とすお金で経済が回っている。
また、ダンジョンで入手できる貴重なアイテムについてはこの街で行われているオークションに強制的に供出する決まりになっている。落札金額の一部(ただし決して少なくない割合)がこの街の税収となっている。
それでも冒険者にはかなりの金額が残ることから特別冒険者からの不満は聞こえてこない。
むしろ、貴重なアイテムを巡って権力者同士のトラブルに巻き込まれないということから逆に歓迎の声があるくらいである。
その他、冒険者を支えるのに必要となる付与師についても入国税は課されていない。
勇馬たち一行は、冒険者4人、付与師1人であり、特に問題なく入国することができた。目的地であるダンジョン都市サラヴィまではさらに馬車で1日の距離だ。
そうして馬車揺られること1日、ようやくサラヴィに到着することができた。
「ここがダンジョン都市サラヴィか……」
城壁を超えて街の中を見渡すが特にダンジョン臭を感じることはない。
ただ、流石に多くの冒険者が集まる都市ということもあり、人口の多さはこれまでの街の比ではない。
しかもいるのはいかにも冒険者です、という感じの連中である。
救いがあるとすれば冒険者だからといって男ばかりではないということだろうか。
この世界では体格や筋力が戦闘力を決定付けるものではない。
魔法使いであれば魔力が、近接戦闘職であっても魔力の運用次第では体格や筋力が劣っていてもその劣勢を跳ね返すことは十分に可能である。
そのため決して女性が少ないということはない。
「取り敢えずは今日泊まる宿をとろう。誰かこの街のお勧めの宿を知らない?」
勇馬はみんなの顔を見ながら問いかけたが一様に皆首を横に振った。
「じゃあ、ちょっと聞き込みに行ってみようか」
勇馬はメルミドの街でやったことと同じように声を掛けやすそうな衛兵を歩きながら探した。
そうして5分ほど歩いたところで警邏をしていた衛兵に声を掛けてお勧めの宿を聞いてみた。
「やっぱり風呂があることは必須だね」
勇馬は中ランクで風呂がついている宿を聞き出すことに成功した。
その中でダンジョンだけでなくこの都市の付与魔法ギルドの場所をも加味して候補となる宿を絞り込んだ。
そうして1件の宿に候補を絞るとその宿屋へと向かう。
「いらっしゃいませ」
ロビーに入ると受付にいた若い女性からそう声を掛けられた。
「え~と、ツインを2部屋、シングルを1部屋とりたいのですが空いていますか?」
「はい、空いております」
「では取り敢えず1泊で」
「ツイン1泊2000ゴルド、シングル1泊1200ゴルドになります」
「それじゃあ、俺とアイリスの分で2000ゴルドです」
「僕とケローネの分で2000ゴルドだね」
「わたくしはユーマ様と一緒の部屋がいいのですが……仕方ないですわね」
セフィリアがそう嘆息して1200ゴルドの支払いを済ませる。
それぞれ案内された部屋へと入って荷物を整理し終えると1階のロビーに集合した。
「今日はまだ時間もあるし俺は付与魔法ギルドへ行ってみようと思う。みんなはどうする?」
「私は主様に付いていきます」
「わたくしもユーマ様と一緒に行きますわ」
「ボクたちもユーマさんの護衛だから……」
結局みんなで付与魔法ギルドへと行くことになった。




