2 フライパン
「ケローネ、ケローネ。ほら、あれがシスターセフィリアだよ」
「あれが噂の……きれいな方ですね。お会いできて光栄です」
勇馬たちのやりとりを傍で見ていたシェーラとケローネが小声でささやき合っている。
「シェーラたちはセフィリアを知ってたの?」
「勿論です! レスティの冒険者ギルドで彼女を知らない者はいません。彼女はシスターという身の上でありながら数々のクエストをこなす凄腕の冒険者ですよ」
「たしかにこの前もクエスト成功の報告に来ていたところで会ったけれど。セフィリアはどういったタイプの冒険者なの?」
「まずわたくしは光属性の魔法を使えます。それから戦闘もそこそこできると自負しておりますわ」
光属性の魔法は対アンデッドで効果的だが何と言ってもメインは回復魔法である。そのため光属性の魔法が使える者は基本的にはヒーラーポジションである。
「戦闘もそこそこできるって何の武器を使ってるの?」
シェーラやアイリスは外出時には剣を携帯し、何かあればすぐに手を掛けられるようにしている。宿であってもすぐに手が届く場所に剣を置くようにしている。
セフィリアはまとまった荷物を持っているだけで特に武器になるようなものは見当たらない。
「わたくしの武器はこれですわ」
「「「「えっ?」」」」
そう言ってセフィリアが荷物から取り出したのはフライパンであった。
荷物から柄の部分が飛び出していたので勇馬の目にもとまってはいたが野営で食事を作るための道具だろうと気にもしていなかった。
「フライパンが武器って、そんなので魔物を倒せるのだろうか……」
「あら、わたくし今までこれで多くの魔物たちを天に送り届けてまいりましたわ。攻撃だけではなく防御にも使えますし野営の際の調理にも重宝します。パーティーを組んで野営明けの朝には皆様を起こすのにも役立つ万能アイテムですわね」
「そっ、そうなんだ……」
(まあ本人がいいんだったらいいか)
勇馬は自分は冒険者ではないので一緒にクエストを受ける機会もないだろう。
同じパーティーだったとしたらちょっと恥ずかしいかもしれないと思いながらもそれ以上この話はしなかった。
でも貴重な光属性の魔法が使えるヒーラーだしなー、などと思いながらその間にも馬車は順調に進んでいく。
ちなみにセフィリアの言うとおり、野営が明けた翌朝、勇馬はセフィリアがお玉でフライパンを叩いて皆を起こす光景を見ることになる。
それはただただ圧巻の一言だった。




