1 押しかけシスター
勇馬たちが馬車に乗り込みレスティの北門を抜けてしばらく進んだところで馬車の後方から大きな声が聞こえてきた。
「そっ、そこの馬車! ちょっとお待ちになって!」
馬車の御者がその声に気付き馬車の速度を緩めた。そしてその声の主を確認すると馬車を止めた。
すると息を切らせた若い女性が駆け寄ってきた。
「はぁはぁはぁ……何とか間に合いましたわ。危うく置いていかれてしまうところでした」
その女性が御者に乗車証を見せて自分が追加の乗客であることを示すと御者は無言で後ろを指差して暗に早く乗るように伝えた。
馬車の中にいた勇馬たちにも外からの声は聞こえていた。
「何かどこかで聞いたことがある声だなぁ」
勇馬がそう口にしたそのとき馬車の入り口から声の主が入ってきた。
「ユーマ様、ようやく追いつけましたわ!」
満面の笑みを浮かべた彼女は濃紺の修道服を身に纏っていた。
「「シスターセフィリア!? どうしてここに?」」
勇馬とアイリスの声に答えることなくセフィリアは額の汗を拭うと勇馬の隣に腰を下ろした。
「ユーマ様、突然街を離れられるなんてひどいですわ」
「えっ、まあ何の挨拶もしなかったのはそのとおりだけれど。それよりもどうしてここに?」
元々勇馬とセフィリアをはじめとする聖教会との間には何のつながりもない。
セフィリアとはクレアやエクレールを通じて知り合ったという程度であり、強いて言えばあの夜の秘密を共有したという間柄でしかない。そのため勇馬はセフィリアとの関係をそこまで意識してなかった。
「わたくしはユーマ様の従順な僕。今後はわたくしがユーマ様のお世話をさせていただきますわ」
「なっ!?」
アイリスから声にならない声が漏れる。
「いや、でもセフィリア。教会はどうするの? シスターは教会にいてこそじゃないの?」
「教会は辞めました」
「「辞めた!?」」
「そもそもわたくしは神に仕える者であり教会という組織に仕えたつもりはございません。ユーマ様に出会った以上、ユーマ様にお仕えすることが神に仕える者の本懐ですわ」
元々セフィリアも聖教会という組織自体には辟易していた。
ただ一度神に仕えることを誓約して教会に入った以上、理由なく辞めることは神に対する背信行為になりかねない。
しかし勇馬という神の分身とも言える存在を見つけたことでセフィリアには自分の中で教会を辞める大義名分ができた。
「でも俺の世話をしてもらうのはアイリス1人で十分だしなぁ」
そういって勇馬はアイリスをちらっと見やるとアイリスはこくこくと頷きを返した。
「アイリスさんはユーマ様の使徒でいらっしゃるのですね。でしたらわたくしも是非そのお一人に加えて下さいませ」
セフィリアのその言葉に勇馬とアイリスは顔を見合わせた。




