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29 旅立ちのとき

 レスティの街の馬車ターミナルは出発を待つ人々でごった返していた。


 戒厳令が出された魔物襲撃前日から魔物討伐が完了したその翌日までの間、レスティと他の街との間の物流、人の移動が一切できない状態にあったのだ。


 昨日は一日掛かりで騎士団が街道の安全について確認を終えたことで今日から移動が解禁されることとなった。


 特に足止めを食らっていた商人の鼻息は荒く出発を今か今かと待ちわびている。


 そんな中で黒髪黒目の男と金色の髪のハーフエルフの少女もまた出発のときを待っていた。


 勇馬は昨日冒険者ギルドから連絡を受けたエクレールと会うことができ、改めてお礼を言うことができた。

 エクレールも残念そうにはしていたが「まあ、仕方がないわね」と今日このターミナルに見送りに来てくれている。




「ユーマもアイリスも元気で」


 エクレールとともにクレアも見送りに来てくれた。


 クレアはまだ足が治っていないのか足を引きずるように歩いていた。


「クレアも元気でな」


 勇馬にそう言われたクレアは「ははっ」とごまかすように笑みを浮かべた。

 その貼り付けた様な笑顔に勇馬は影が差しているように感じた。


「アイリスちゃんも元気でね。魔法の基礎練習は続けなさいよ」


 レスティ滞在中には何かとあったエクレールとアイリスではあるが流石にこんな場面でいがみ合うようなことはしない。




「やー、何とか間に合った!」


 出発の時間が近づいたとき、勇馬の耳にどこかで聞いたことがある声と言葉が聞こえた。


「あら、あなたたちは」


 エクレールは突然現れた2人の獣人、シェーラとケローネにそう声を掛けた。


「シェーラたちもどこかに出掛けるのか?」


 勇馬の疑問にシェーラは得意そうに胸を張る。


「ボクたちはユーマさんたちの護衛に来ました」


「「「「はいっ?」」」」


 シェーラの思いもよらない発言にその場にいた全員は唖然とした声を挙げた。


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