27 口裏合わせ
義勇兵の使った武具に付与された尋常ではないレベルの付与魔法。
そのことを知る数少ない者のうちの1人、第三騎士団団長を務めるマリア・ミスガルドは自室に2人の人物を呼び寄せていた。
1人は聖教会を代表して司教代理であるシスターセフィリア、そしてもう1人は付与魔法ギルドを代表してギルドマスターであるトーマスである。
「お2人とも本日はお疲れのところご足労いただき申し訳ない。そして今回我らが勝利を収めることができたのも貴殿たちのご尽力があってこそ、改めてお礼申し上げる」
そう言ってマリアは立ち上がり2人に頭を下げた。
「お言葉痛み入ります。教会に戻り閣下のお言葉を皆にお伝え致しましょう。ただ、わたくしたちは当然のことをしたまでですので過分なご対応は恐縮に存じます」
「私たちも領民として務めを果たしただけですので」
2人はそう言って謙遜した。
普通であれば話はこれまでということになるが今日はそういうわけにはいかなかった。
「ところで、お二方から納めていただいた武具ですが大層な性能であったことを確認しております。今後も同様の納品をいただくことができるのか是非お伺いしたいところではありますが」
(やはりきたか)
トーマスは内心舌打ちをして表情を変えずにその言葉を聞いた。
「この度の成果は神のご加護であり神の御業に他なりません。今後同じ奇跡を賜ることができるかどうかはこの街の皆様の心がけ次第でありましょう。神に対して確約を迫るということは無礼の極み。お控えなさるのがよろしいかと」
セフィリアがさも当然という顔をしてそう返した。
「セフィリア殿、私は宗教の話をしようと思っては「閣下!」
マリアの言葉をセフィリアは鋭い語気で遮り射抜くような視線で彼女を見据えた。
「あの日、わたくしが力尽き倒れようとしたとき神がご降臨されました。そして私が手を付けることができない武具の数々に瞬く間に聖印をお授け下さったのです。わたくしが納められる数は最初にお納めしたせいぜい数百個が関の山ですわ。神の奇跡をお疑いになるようでは次にご加護はありませんでしょう」
「私のときもそうでした。我がギルドの付与師たちが力及ばず力尽きようとしたとき私も神がご降臨なされたのをこの目で見ました。神の光がギルドの内部に満ち溢れ、不思議なことに武具には常識では考えられないほど強力な付与が与えられていたのです。私が視たところこれはいかなる付与師によってもなしえない正に奇跡としか言いようがないものでした」
実はこの2人。
騎士団に呼ばれる前に事前に勇馬のした仕事について確認を求められるだろうと推測して事前に口裏合わせをしている。
その結果決まったことは勇馬の力を『神の奇跡』の一言で片づけようという子どもが聞いても首を傾げる説明であった。
もっともセフィリアは大真面目にそう思っているしトーマスもあれだけの仕事を1人でやったという方が嘘だと言われかねないためこの様に説明することに落ち着いたのである。
「にわかには信じられないが……」
マリアは腕を組み眉間にしわを寄せて考え込んだ。
「お話はそれだけでしょうか? わたくしたちも事後処理に奔走している身でございますればお暇させていただきたく存じますが?」
セフィリアはそう言うとマリアの返答を待たずに席を立った。
トーマスもこれ幸いとセフィリアに続いて立ち上がるとマリアに一礼して部屋を出た。
マリアは2人が出て行ったドアから視線を外すと椅子の背もたれに体を預け天井を仰いだ。
「トーマス殿はともかくセフィリア殿が嘘をついているとは考えにくいしな……」
セフィリアは良くも悪くもこの街では有名人である。
マリアも騎士団を預かる者として領内の様々な組織についての情報には接している。
この国で信仰されている宗教を祭祀する聖教会の内部は残念ながら清廉とは程遠いということくらいは把握している。
ただその中でセフィリアだけは聖職者としての気概が高く聖教会内部においても異質な存在であるということは彼女も良く知るところであった。
「しばらくは様子見としておこう。今のところ我々に不利益になることは何も起こっていないし慌てることもない」
マリアも昨日から立て続けに起こった魔物との戦闘に参加しており正直疲れはピークに達している。
今は休息をとるのも仕事のうちだとこの日の業務は打ち切ることにした。




