26 影の立役者
夜明けを迎えるころ、勇馬は仮眠室から起きてアイリスとともに宿へと戻った。
宿へ向かう間、不安で眠れない街の人たちがあちらこちらで話をしている。
そんな中続々と城門の外での戦闘の趨勢が半分噂話として口々に伝えられてくる。
「義勇兵の活躍で戦闘は優勢らしい」
「昨日とは違って普通の魔物だから大丈夫のようだ」
ウソかホントかはわからないが少なくとも「今すぐ逃げろ」という話ではなくて勇馬もホッとした。
「それじゃあ、もう一眠りするか」
さすがに2日続けて中途半端な睡眠ではさすがに眠気は払えない。
状況が状況だけに眠りが浅かったことも影響したのか勇馬は宿に戻って風呂を浴びると再び眠りについた。
昼を大きく過ぎたころ、勇馬は街の騒ぎで目を覚ました。
「魔物は全滅した! 我々の勝利だ!」
伝令役の兵士が領民たちに勝利を告げて回る。
今回はぬか喜びとならないように魔物殲滅後も遠方を確認して追加の魔物の群れが控えていないかを念入りに確認したため辺境伯による勝利宣言が正式に出されたのは本格的な戦闘が終了してから5時間も後のことであった。
昨日は不発に終わった祝賀ムードがレスティの街を包み込んでいる。
一足早く戦場から帰還した騎士や冒険者、そして義勇兵たちが街の人々から祝福と称賛を受けている場面をあちらこちらで見ることができた。
勇馬は街の喧噪を聞きながらアイリスとともに宿の食堂で少し遅い昼食を共に食べていた。
「主様、魔物を撃退できたみたいでよかったですね」
「んっ、うんそうだな」
どこかぼんやりしている勇馬にアイリスは首を傾げた。
「どうされました? お加減が悪かったりされますか? まだ眠られますか?」
「いや大丈夫。ちょっと考えごとをしていただけだよ」
勇馬はこれからどうするかに思いを巡らせている。
このままこれまでどおり、この街の付与魔法ギルドで働くという選択肢はない。
恐らく今回勇馬が施したぶっ飛んだレベルの付与は間違いなく誰かに目を付けられているはずだ。
そして間違いなく自分にまで辿って来られることを半ば確信している。
(まあ、後悔はしていないけどな)
2回目の魔物の襲撃。
勇馬が後からトーマス経由で聞いた戦闘概況は街の噂とは異なり正に薄氷を踏むかのようなものであった。
最初のアンデッドの襲撃により主力となる騎士団と冒険者のうち少なくない数が死亡もしくはしばらくは戦闘に支障が出るレベルでの負傷をしてしまったという。
さらに一時的に戦線からの離脱を余儀なくされた者を含めればこの段階で数の面では不利な状況であった。
義勇兵による戦力の補強が何よりも必要な状態ではあったものの、本来、素人に普通に武器を渡して戦場に送り込んでも大した成果は残せなかっただろう。
むしろ足を引っ張る存在にすらなり得た。
勇馬によって作られたデタラメな性能の武具があってこその彼らの活躍であり、その結果の勝利であることは厳然たる事実である。
しかしそのことを知っている者はこの街でもわずかであった。




