24 無双
「本当にユーマくん1人で大丈夫かい?」
トーマスがそう勇馬を心配した。
無人となった付与魔法ギルドには騎士団から続々と中古の武具が運び込まれてくる。
今回は誰に見られることを気にすることはないため運び出しやすいようにギルドの玄関ロビーからそれに近い作業部屋までとにかく出入り口から近い場所に武具を運んでもらった。
「あまり見られたくはありませんのでトーマスさんも」
「わかった、しかし私は責任者としてきみより先に帰るわけにはいかない。私はマスタールームで他の仕事をしながら待機しているから何かあれば直ぐに言ってくれ」
トーマスがその場から離れたことを確認すると勇馬はマジックペンを顕現させた。
今回は属性の付与は必要ない。
いつもの黒色マジックペンだ。
「今回は記録に挑戦だ。アイリス! 万一俺が魔力欠乏状態になったらすぐに魔力回復ポーションを口の中に流し込んでくれ」
勇馬の言葉にアイリスは無言で頷いた。
今回は中古の武器を使うという。
しかも使うのは戦闘の素人だ。
強度はいくら強くても構わない。
重さはいくら軽くても構わない。
武器の手入れなんてわからないのであれば自動洗浄も必要だろう。
相手が魔物であれば魔物に効果的な付与はできないだろうか。
有効期間は多少戦闘が長引くことを考慮しても1週間あれば十分だろう。
いくつかの武器で取り敢えず試してみて鑑定スキルを繰り返す。
そして今回作る印判の版下を決めた。
『強度5倍=重量軽減90%=自動洗浄=適正形状変化=魔物殺し(有効期間1週間)』
『適正形状変化』とはその武具が使用者の身体に合わせて形状を変形させるという性質である。
例えば剣の柄の部分は太い・細いによって使い勝手には差が生じるが使用者が使い易い形状に自然と変化するという性質である。
『魔物殺し』は対魔物に限っては効果がそれぞれ倍加するという性質だ。
ゲームであれば『クリティカル』扱いになるのだろう。
勇馬はダメ元でやってみたところ付与に成功することができた。
勇馬は顕現させた印判に作った版下を反映させた。
そして、印判を手に持つとギルドの建物内に置かれた中古の武具に一心不乱に押していく。
アイリスもこれまでの経験から勇馬の意図を推し量って武具の整理・移動を手伝い勇馬をサポートした。
結局騎士団が武具の引き取りに来た時間にはおよそ3000個の武具への付与は完了していた。
勇馬は付与魔法ギルドの奥の部屋で作業を続け兵士たちが武具を外へ運び出している間に残りの1000個の武具への付与を終え、結局夜明け前までに全ての武具に付与を施し終えた。
「はあっ、はあっ、もうダメ、やばい、死ぬ」
昨夜に続けての作業で今回も夜通しでの作業である。
さすがの勇馬も疲労困憊で、作業を終えるとその場に崩れ落ちた。
「主様!?」
それを見ていたアイリスが勇馬に駆け寄り慌てて支えた。
「アイリス、ありがとう。仕事は終わったし、ちょっと寝させてもらうよ」
勇馬は付与魔法ギルド内の仮眠室へと転がり込み、直ぐに眠りに入った。
「あとは私が対応しよう。きみも疲れているだろうから寝たらどうだい?」
マスタールームから1階へ降りて騎士団への武具の引渡しの立会いをしていたトーマスがアイリスにそう声を掛けた。
アイリスは「それではお言葉に甘えて」とトーマスに一礼すると女性用とされている別の仮眠室へと入っていった。
「……それにしても凄まじい付与魔法だな」
トーマスは今運び出されている勇馬が付与を施した山と積まれた武具を視ながらそうつぶやいた。
思えば最初の試験のときに見た『強度2倍』というのは自分の見間違えではなかったのだ。
この光景を目の当たりにした今なら間違いなくそう思える。
(さあ、これからが大変だぞ)
トーマスは武具の引き渡しの立ち会いを続けながら、勇馬が寝ている仮眠室の入口にちらっと視線を送った。




