小野家の仕来り
いよいよだ。
あの後、順調に小百合お嬢様の健康管理を達成し、ついに特別舞台を出現させることに成功した。
思えば長い戦いだった。
飛鳥お嬢様の嫌がらせも何とか凌ぎ、やはり震災で酷い最期を遂げる終章にも耐えた。
「小野家にようこそ」
目の前にいる細身の男性が飛鳥お嬢様の父親で、小野家当主の潔様だ。
その隣にいる美しい女性は何者だろうか?
千代子と同じような雰囲気を纏い、服装もそれに近い。
「紹介しておこう、家宰の香取美幸、君の上役だ」
「よろしくね、伊集院くん」
美幸さんは声まで美しい。
いや待て、上役?
執事は俺だよな?
どういうこと?
「我が小野家は、広大な土地と多数の人員を管理するのに、家宰と執事を雇っている。美幸くんの役割は土地の管理と使用人全体の統括、君の役割は男性使用人の監督、灯りの準備、戸締まり、火の始末など屋敷全体の管理業務だよ。
それと君のお姉さんには家政婦長に就いて貰うよ」
「はい、畏まりました」
俺はそう返事するより他なかった。
与えられた部屋で、早速できることを確認する。
「何だよ、これ」
資産管理は全くできない。男性使用人の管理と言っても、勤務時間の調整ぐらいしかできない。
つまり、ほとんど自由がない。
あの家宰から、仕事を奪うしかない。流石、特別、恐ろしいぐらいの難易度だぜ。
確認作業を終えると、扉を叩く音が聞こえた。
「令人さん、旦那様がお呼びです」
「すぐに参ります」
千代子が呼びに来たのですぐに部屋を出た。いよいよお嬢様と対面できるのかな?
期待と不安を胸に室内に入ると、待っていたのは美幸さんだけだった。
「伊集院さん、あなたは解雇です」
えー?
早過ぎねーか、おい。
まだ半日も経ってないぞ?
「と、申しましても執事を解雇して、お嬢様の教育係にお二方をと、潔さんの言い付けですわ」
お、驚いた。
「あらあら、驚かせてしまいましたかしら?」
「旦那様の言い付けであれば、謹んで承ります」
美幸さん、どこか不思議な人だ。有能とは思うけど、どこか世間ズレしている。
「それでは、飛鳥さんを捕まえて来て下さいませ」
美幸さん、それは笑いながら言うことですか?
お嬢様を、捕まえて来るとは?
「こちらへ連れて来る途中で、お庭へ飛び出して行ってしまいまして、お転婆な飛鳥さんにはいつも手を焼いておりましてよ。伊集院さんも、何日続くかしら?」
そういうことか。
お嬢様を手懐けないと、ここで働くのは無理ってことか。
「姉上、飲み物と菓子を用意して待っていて下さい」
俺は上着を脱ぐと、庭へ駆け出した。
飛鳥お嬢様の姿は目に焼き付いている。絶対に探し出してみせる。
「あの性格なら、この辺りの木に登っていそうだが」
庭の隅にある大きな欅の木の、堂々と広がった枝振りは、木登りに打ってつけだ。
見上げた俺と、樹上のお嬢様はバッチリと目が合った。
「見つけましたぞ、お嬢様」
「お前は、誰だ?」
自己紹介の前にお嬢様の能力値を確認しておこう。
受けてみよ、執事の慧眼!
小野 飛鳥 十歳(粗暴)
身長133.1cm 体重33.6kg
B54.4cm W30.8cm H52.4cm
筋 力 11
体 力 13
知 力 10
敏捷性 13
気 品 8
色 気 10
モラル 10
信頼度 5
攻撃力 12
防御力 13
芸術性 9
礼 法 10
何と言うか、お転婆だな。防御力は高めだし、多少の無茶は大丈夫そうだ。
「お嬢様の教育係を仰せつかった、伊集院と申します。さあ旦那様がお待ちですので、降りて来て下さい」
「イヤよ、お父様なんて嫌いですもの」
想定内の反応だ。
「では、美幸さんがお待ちですよ」
美幸さんの名を出すと、お嬢様は悩んでいるようだった。
もう一押しだな。
「美味しいお菓子も用意してございます」
「仕方ないわね。行って上げるから私をここから降ろしなさい」
え?
まさか降りられなくなっていたのか?
梯子を取りに戻る時間が勿体ないな。
「では下で受け止めますので、怖がらずに降りて来て下さい」
「だ、誰が怖がっていると言うの!」
お嬢様の神経を逆撫でしてしまったか?
枝の上で立ち上がったお嬢様は足を滑らせてしまう。
とっさに落下地点へ飛び込んだ。
「痛て」
腕で受け止めとはならなかったが、お嬢様は俺の身体を緩衝材にしてケガはなかった。
「さあ、お茶会でしょう? 案内なさい」
「はい、お嬢様」
プイッとそっぽを向くお嬢様、どうやら照れ隠しのようだ。
こうして、俺のお嬢様教育係としての生活が始まった。
声の想定
伊集院 令人 小林祐介さん
伊集院 千代子 今井麻美さん
小野 飛鳥 ゆかなさん
小野 潔 子安武人さん
香取 美幸 井上喜久子さん




