二人目のお嬢様
「ようこそワンちゃん」
わ、ワンちゃん?
帰宅してすぐにゲームを起動して、普通を選んだ俺を出迎えたのは二人目のお嬢様、植草朋子だった。
彼女は新聞社役員の娘で、成金富豪に有りがちな態度で接して来る。
ここで負けてたまるか、絶対に終章を迎えてみせる。
まずは、能力値の確認だ。
喰らえ、執事の慧眼!
植草朋子 十歳(高慢)
身長134.2cm 体重34.2kg
B57.3cm W31.2cm H52.7cm
筋 力 9
体 力 9
知 力 8
敏捷性 9
気 品 12
色 気 20
モラル 8
信頼度 5
攻撃力 9
防御力 9
芸術性 10
礼 法 8
「高慢」というのは状態異常か。これを是正するのが最優先課題だな。
とは言え、どうすれば良いのだろう。
与えられた執事室に戻って来ると、千代子がやって来た。
「困ったお嬢様でしたね。さて、それでは状態異常に関するお姉さんの特別講座です」
千代子の何でも講座♪
俺の頭の中で、勝手な旋律が流れる。
「やあ、女中のお姉さんだよ」まで妄想して、俺は慌てて説明に傾注した。
状態異常には、病気の他に、高慢、弱気、粗暴とあるらしい。
それぞれの状態の原因は能力値の偏りにあるとのことだった。
知力とモラルが低かったから、どちらかを上げれば解決するだろう。
それから、家の資産状況の確認と、使用人の適材適所だ。
流石は会社役員、政府の恩賜が頼りの子爵家とは収入が違う。資産管理は楽そうだな。
問題は使用人たちか。特に女中頭が無能過ぎる。子爵家では千代子が頭だったのに、どうしてこうなった?
千代子に使用人に関することを聞いてみるか。
「お助け機能の要望を確認しました。何が知りたいですか?」
「使用人に関する情報が知りたい」
「使用人に関する情報の、何が知りたいですか?」
「使用人の地位に関する情報だ」
お助け機能の千代子は体の前で手を重ね、端正な佇まいのまま機械的に受け答えする。無機質な受付人形みたいだ。
そのような千代子から聞かされたのは、千代子の能力値によって地位が上下するということだった。どうやら能力値と技能の全てが既存の女中頭を上回らないと、千代子が女中頭にはならないようだ。
「ったく、俺の千代子の何があいつより劣っているんだよ?」
比較すると、筋力が足りなかった。千代子と令人の能力値と技能は終章を迎えると保存され、継続して成長させることができた。いわゆる、強くて継続だ。恐らくは悪役令嬢の時にはとんでもない能力値を要求されるのだろう。
しかし、ここで一旦中断して子爵家に戻るのは時間的に無駄が多そうだ。
千代子には下働きをして貰って、早めに実権を握って貰おう。
俺は千代子のお助け機能を解除して、明日以降の行動予定を組もうと管理表を呼び出した。
「うげ、何だよ、食費が凄えのに、触れないじゃん。これって、あのバカ女中の権限か?」
他にも触れない部分がある。収入は多いが、支出も多い。これは一筋縄ではいかないぞ。
まずは、動かせる使用人を適材適所に配置換えして、効率的な家事の遂行で経費を削減しよう。
しかし、やはり食費が大きいな。
行動予定を設定して、決定。
「おはようございます、旦那様」
「おはよう、伊集院くん。よろしく頼むよ」
「ご期待に沿えるよう、誠心誠意努めます」
普通難易度では、お嬢様が十五歳を迎えるまで自動が使えるので活用する。それまでにこの家の中の改革だ。
「おはようございます、お嬢様」
「あらワンちゃん、おはよう」
「朝食のお時間です」
ゲームとは言え、この犬扱いは精神的負担が大きい。
植草家は洋館なので、お嬢様の靴を用意して待機する。彼女が可愛くなかったら、このゲームは成立しない。
朝食を終えて、旦那様とお嬢様を送り出した。
「令人さん、今日はお姉さんとお出掛けよ」
千代子がやって来る。行動予定管理で変えられなかったのは、重要なイベントがあったからなのか。
このゲームで初めて自由行動の外出だ。お嬢様を学校までお迎えに行くのは自動で行われるので、大正時代の街並みを見るのも初めてだ。本物のこの時代は見たことはないが、活気に満ちた勢いのある雰囲気だ。
「令人さん、行き先を選んで下さい。街中では様々な人と出会い、屋敷の使用人や家庭教師として勧誘できます」
千代子の説明に続いて、行き先を示す記号図が表示される。
簡単の時にはなかった機能だぞ?
このゲーム、普通から上が本格的かよ。
俺は食堂を選んだ。腹が減っては戦が出来ぬというし、誰かいるだろうと当て込んでの選択だ。
「おっと、これは失礼」
食堂の入り口手前で千代子と若い男性がぶつかった。若い男性の風貌は縦長のヘチマを思わせる顔に、出っ歯。お世辞にも良い男とは言えない。
「大丈夫ですか?」
「はい、何ともありません」
二人ともケガもない。これって在り来たりだが、運命の出会いってヤツ?
「当家の女中がご迷惑をお掛け致しました。誠に申し訳ない」
俺が頭を下げると、向こうは驚いた様子だった。
「いやいや、こちらこそ前を向いてなかったのがいけなかった。ケガがなくて良かったですよ」
「失礼ですが、学生さんですか?」
「はい、第一高等学校の佐藤と申します」
「もしよろしければ、家庭教師をするつもりはありませんか? 謝礼も出しますぞ」
謝礼という言葉に佐藤と名乗った若い男性が反応する。
「それは願ってもない。活動写真を見る小遣い稼ぎに良さそうだ。よろしくお願いします」
深々と一礼して佐藤は去って行った。
これ、連絡とかどうするの?
「今の方をお呼びするには、行動予定管理で選択することで使いの者がお呼びしますから、心配なさらずに」
千代子の補足説明が入った。まあその辺りはゲームのご都合主義的なあれだ。詮索しないでおこう。
しかし、この出会いがとんでもないことだとは、自室で彼の人物情報を見るまでは思いもしなかった。
声の想定
伊集院 令人 小林祐介さん
伊集院 千代子 今井麻美さん
植草 朋子 田村ゆかりさん
植草 連 鈴村健一さん
佐藤 信介 安元洋貴さん




