攻略情報
「おはようございます、お嬢様」
深々と頭を下げて挨拶したが、飛鳥お嬢様はご機嫌斜めのようだ。現在、飛鳥お嬢様は中等部に通学しているのだが、昨日の下校時からこの状態だ。
ゲームをやり直す前に先輩から聞いた、攻略情報を思い返す。
・まずは自分自身の能力値を上げること。
これはゲーム開始前や、ゲーム中は執事室で確認できる。上から順に甲乙丙丁の段階になっていて、乙以下は上下に分かれていた。
ゲーム開始直後は無段で、後はプレイ内容により昇格する。飛鳥お嬢様の教育係を受けた初回は丙上だった。今は乙上まで昇格しているが、それでも執事であって、家宰ではない。
この昇格には基本となる能力値の他に技能水準も含めた総合評価を高める必要があった。
技能はお嬢様と違って、空手や作法の他、算術、言語などがある。言語は英語、ドイツ語、フランス語、中国語などに細分化されていて、技能を向上させると意思疎通が問題なくできるようになる。もちろん、個人的に英会話ができるなら技能の補助を受けなくても会話は可能だし、執事の格も上がる。
・飛鳥お嬢様と無事に終章を迎えると特殊アイテムが手に入るらしい。
それを入手してからでないと、他の三人の真の終章を迎えられない。真の終章があるということは、全員必ず二回以上はプレイする必要があるってことだ。
・プレイは全て手動で行うこと。
これが最も難しい。俺で務まるのだろうか?
現状はある程度は自動にして慣れるしかない。
最後に先輩はシュレッダーの猫とか何とか言っていた。事象を不確定にして云々。
よく分からなかったが、とにかく全員の真の終章を見れば、飛鳥お嬢様は助かるんだ。
頑張るしかない。
「はあ、あなた、いつまで、そうしていますの?」
溜息をついて、お嬢様が問い掛けて来る。
返事を間違えないようにしなければならない。信頼度が下がると解雇されてしまうのだから。
これまでの急な解雇は、お嬢様の信頼を失ったことが原因とすれば納得できる。受け答えは慎重に、だ。
「お嬢様、学校で何があったかは存じませんが、私はいつでもお嬢様の味方でございます」
この台詞、言ってみたかったんだよな。
全てを受け入れる、大人の余裕、包容力!
「呆れた人ですこと」
あれ、外した?
「よろしいですわ、ちょっとお聞きなさい」
おお、大丈夫だったか。
お嬢様の話を要約すると、ご学友と口論になり、相手を泣かせてしまったらしい。その相手が子爵のご令嬢で、国語担任の娘とか、どこで聞いたような話だった。
すると観菊会のあの出来事が発生しているのか。京子お嬢様、泣いてたっけ?
「僭越ながら、お嬢様に非はございません。華族はその精神も強く、気高くなければなりません」
お嬢様の誇りを傷つけず解決策を提示するのが執事の務め。
なんて気負いが失敗を招くんだ。
「どうかお嬢様のお心のままになさりませ」
「そうね、言ってしまったことは仕方ないものね。伊集院、話を聞いてくれて、あ、あ、あり、……ありがとぅ」
消え入りそうなほど小さな声で感謝の言葉をお嬢様がくれた。
執事生活何十年、俺は今、猛烈に感動している!
「お嬢様、朝食の支度ができました」
千代子、絶好機だ。
小野家の執事の役割はここまで。後は食事を終えたお嬢様をお見送りして、屋敷の中の見回りと、使用人の働きぶりを監理する。
こうして体験してみると分かるが、課長や部長も気苦労が絶えないんだろうな。
いや、社会人一年生が偉そうだな、おい。
確かにこのゲームは社会勉強にはなるけど、大正時代の社会勉強で現代に通用するのか?
それとも、あれか。教養ってヤツ?
けど大正時代の知識を語り合う場面て、どこにあるんだよ。
なんてことを考えながら、与えられた部屋で一息つく。
飛鳥お嬢様は実際に接してみるとお転婆ではあるが、陰険ではない。思った通りの事柄を飾ることなく率直に伝える、良く言えば素直、悪く言えば考えなしの性格だ。
生来の資質は変えようがないにしても、もう少し自己抑制できるような教育方針で臨むのが良いかもしれない。
「夢か……」
もう一つ先輩から聞いた攻略情報は、お嬢様たちの夢を叶えることだった。その夢を叶えることが真の終章を迎える必須条件だ。
「夢は見るものではなく、叶えるものだっけ?」
確か昔のアニメの宇宙海賊の台詞だったはずだ。飛鳥お嬢様の夢が何かは分からないけど、それを叶えて命も助ける。その目的だけは揺らがないように頑張るしかない。
「俺の夢は、何だったっけな」
夢を求めて就職したことを思い出し、俺は気合を入れ直した。
声の想定
伊集院 令人 小林祐介さん
伊集院 千代子 今井麻美さん
小野 飛鳥 ゆかなさん




