表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/68

デウスエクスマキナ


『可哀そうだなぁ……』



 あれは夏のとっても暑い日だったか。

夏休みを満喫していた小さなころの俺は、お爺ちゃんの家の裏にある山の中で遊んでいた時に、ひっくり返った蜥蜴を見つけた。


 そいつは妙に真っ赤で目を惹いたってのがある。


 俺はその真っ赤な蜥蜴を摘まんでひっくり返して土の上へ置く。

するとトカゲはまるで人のように俺のことを円らな瞳で見上げた。

 まるでお礼を言っているかのように思えた小さいな頃の俺だった。


 真っ赤な蜥蜴は長い尻尾をブンと振って、トテトテと深い森の中へと進んでゆく。


「もうひっくり返るんじゃないよー」


 何故か俺は、その蜥蜴へ人のように言葉をかけたのだった。




――なんでこんなこと思い出してるんだろ?



 そんなことを考えていると、再び目の前へ別の像が結ばれてゆく。




 あれも結構暑い日だったか。


 外も暑いのに、電車の中も通勤通学ラッシュですし詰め状態。

かなりきつかった。


 俺も含めて、周りの誰もが茹るような暑さにうんざりな顔をしている。


 だけどそんな中で一人だけ、真冬のように肩を震わせていた。


 電車の窓際に立っている、セーラー服を着た女の子だった。

彼女の後ろにはぴったりとくっ付くようにオヤジが立っている。


 なんだか嫌な予感がした俺は目を、そこへ目を凝らしてみる。


「んっ…………」


(マジかよ……痴漢被害が多いって聞いてたけど、ホントなんだ……)


 オヤジはむっちりとしたその子のお尻を、やらしい手つきで触っていた。

女の子の顔はすっかり青ざめていて、抵抗する素振りをみせない。


 傍から見れば”嫌だ!”と拒否すれば良いように思う。

でも当人にしてみれば、きっと怖くて何もできなんだと思う。


(めんどうな場面に出くわしちゃったなぁ……)


 まず思ったのはそんなものぐさ太郎な感想。

だけど、目撃しちゃった手前、見過ごすのもなんだか後味が悪いような気がした。


『おっさん、暑いのにさ、そういうの止めようよ?』

『ッ!?』


 俺が少し凄みを聞かせて耳元でささやくと、親父がビクンと背筋を伸ばして動きを止める。


「あっ……」


 丁度良いのか悪いのか、電車が止まって扉が開き、痴漢オヤジは人の波に消えて行く。

 俺も、被害を受けていた女の子も人波に押し流されてゆく。


「あ、ありがとうございましたっ!」


 妙にむっちりとしたその子は人波に押し流されながらも、向こうからお礼を叫んでいる。



(ああもう、この混雑が無かったら、ちょっといい想いができたかもしれないのになぁ)


 そうは思えど、俺も、その子も人波に流されてゆくのだった。



――あれ? あの時の子ってもしかして……?



『トカゲ!』


 誰かが今の俺を呼び、像が溶けて消えて行く。



●●●



「にゃむ……はっ!?」


 意識を取り戻した俺はプニプニしたお腹を向けて、仰向けに倒れていた。

そんな俺を杏奈はポインと胸を揺らしながら屈みこんで摘まみ、そっと掌の上へ乗せる。


「トカゲ、生きてる!?」

「あ、うん。大丈夫! ありがと!」


 俺は長い尻尾をブンブン振って無事をアピールした。

そしてようやく分った。


 焔 杏奈――この子はかつて、俺が電車の中で痴漢被害から助けた子だってことに。


 加えて、


「なにしてるの?」


 杏奈は自分の身体をきょろきょろと見渡している俺へ首を傾げる。


(やっぱこの身体って、小さい頃助けたトカゲにそっくりだ。もしかしてアレか、助けた亀に連れられて、によろしく、助けたのがサラマンダーだったってことか?)


『その通りだっ!』


 突然、ちょっと偉そうな声が響いて、俺と杏奈は揃って視線を前へと向ける。


 俺達を取り囲んでいた真っ白な空間。

その中で唯一浮かんでいたのは、燃え盛るような赤い炎だった。


『私は君たちの中にいた”炎の精霊サラマンダー”であるっ!』

「なんか唐突っすね?」

『水龍との合体攻撃でクラーケンを倒した際に空間が捩じれてな。良いタイミングなので現れてみたのだHAHAHA!』


 随分とハイテンションなサラマンダーさんに、俺と杏奈は揃って苦笑いを浮かべる。

しかもこのテンションには覚えがある。


「もしかして、貴方って”鑑定結果”っすか?」

『おっ? さすがに鋭いねぇ! その通り! 私はずーっと”鑑定結果”として君たち二人のことを見守っていたのだよ!』


 冗談で指摘したのに、真実だったとは思いもよらなかった俺だった。


『さて! 君たち二人のお陰で邪悪なリヴァイアは滅んだ! これからシュターゼンとリヴァイアは互いに手を取り合って、新たな道を進んでゆくだろう! 実はそれを機会、私が君たちを媒介にして復活しようと思ったのだが気が変わった! 私としてはこれからも君たち二人に、シュターゼンを守護する”炎の神性”として活躍してもらいたのだが、いかがかな?』

「いかがって、ねぇ……」


 俺は杏奈を見上げた。


 杏奈は大きな胸を揺らしながら、はっきり頷く。


「わたしはそれが良い! これからもトカゲと一緒にいたい!」

「俺も杏奈と一緒! そういうこと!」


 杏奈と俺の宣言を受けた炎は、何故か笑顔を浮かべたような気がした。


『よしわかった! これからも頼んだぞ、二人とも! あまり喧嘩はしないように! じゃないとおじさん怒っちゃうからな! HAHAHA!!」


 炎は高笑いを上げながら消えて行く。


 俺は改めて杏奈を見上げた。


 もしも小さい頃にトカゲを助けなかったら、杏奈を痴漢から助けなければ、こういうことにはならななかったんだと思う。


 巡り巡って俺と杏奈は”精霊と巫女”という関係で、再び出会い、そして強い絆で結ばれた。

 これが”縁”というものだ。


「杏奈!」

「んっ?」

「これからも宜しくね!」


 俺が尻尾をブンブン振りながらそう言うと、


「こちらこそ! 一緒に頑張ろうね、サラマンダー!」


 杏奈は晴れ渡るような笑顔を浮かべて、よどみなく答えてくれる。


 これからも色んなことがあるんだろうけど、きっと杏奈とならば乗り越えて行ける。


 俺はそう決意を改め、杏奈と第二の爬虫類生へ期待を寄せるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ