大怪獣決戦
炎の神性――大空と炎の覇者ファイヤードレイクとなった俺は、顎の牙でクラーケンを噛み切ろうと急降下を仕掛けた。
すると、クラーケンは巨体を振り返らせた。そして体表に砲筒のような穴を幾つも現す。
そこから水のような、氷のような矢が無数に放たれた。
俺は翼を羽ばたかせてブレーキをかけた。
やや上昇し、クラーケンの放つ水の矢の回避に専念する。
迫りくるのは”熱”がほぼ感知できない、水の矢。
俺は必死に矢を目で追い、辛うじて回避を続ける。
しかしできるのはそんなことだけで、海面のクラーケンへ全く近づけない。
「GAYOOO!」
水の神性――水龍が吠えた。
瞬間、水面が泡立つ。
そして海中から数えきれない程の水の矢が現われ飛び立ってゆく。
その矢の数々は空中の俺へ向かって放たれていたクラーケンの水の矢を悉く撃ち落としてゆく。
「FUJYU!」
クラーケンは忌々し気な唸りを上げて水龍の方を向いた。
「GAAA!!」
その隙を狙って俺は真っ赤な火球を吐き出す。
真っ赤な火球が衝突と同時に爆ぜて、クラーケンの巨体をぐらりと揺らした。
「GYAOOO!!」
狙いすましていた水龍は間髪入れずにクラーケンの身体へ喰らい付き、鋭い牙を突き立てる。
「FUJYUUUU!!」
クラーケンは悲鳴のような、しかしそうでないような不気味な声を上げた。
刹那、水面から無数の吸盤の付いた触手が姿を現す。
以前オウバが散々な目に合わされた、変態タコモンスター:オクトエンペラー。
しかも一体ではなく数えきれない程。
タコのばけものは相変わらずのニタニタ顔をしながら一斉に触手を放って、水龍を締め上げる。
さすがの水龍も動きを封じられ、クラーケンから顎を離してしまい、身動きが取れずにいた。
(ニム! 今助けるっ!)
俺の中に杏奈の声が響いて、巨大な翼を羽ばたかせた。
炎のように赤く燃える後ろ脚の爪を海面めがけて振り下ろす。
真っ赤に輝く爪は水龍に絡みついたオクトエンペラーを切り裂き、海底へ沈めて行く。
「GYAO!」
「GAA!!]
水龍はまるでお礼を言うかのように咆え、俺も咆哮で答えるのだった。
「FUJYUUU!!」
いよいよ怒り狂ったのか、クラ―ケンは無茶苦茶に巨大な10本の触手を振り回し始めた。
「クラ―ケン、やるじゃない! サラマンダ―と裏切りのウンディーネを葬るじゃない!!」
水面に浮かぶ瓦礫の上に立ったガロンドは、無我夢中で叫んだ。
それに呼応するかのように、クラ―ケンはひときわ大きな触腕はそこら中に散らばっている海底神殿の残骸を砕く。
水面には白波が立ち、荒れ狂う。
すると海面の水龍が、俺たちへ再び視線を寄せてくる。
それだけで意志が伝わった。
(杏奈、やるよ!)
(うん!)
俺はクラ―ケンの背後に舞い降りた。
反対側には水龍がいて、大海魔を挟みこむ。
さすがの大海魔も挟まれ、たじろいでいる。
水龍が巨大な顎を開いて、奥へ青い輝きを露わにした。
それは水のように渦を巻きながら、まるで炎のように燃える魂の輝き。
ニムとユウ団長の力が生みだす殲滅の力。
対する俺と杏奈も心を燃やし、魔力を高める。
牙の間から押さえきれず、炎が漏れ出す。
「GYAOOO!!」
水龍が青白く輝く光線を吐きだした。
「GAAA!!」
呼応し、俺も真っ赤な火球をクラ―ケンへ向けて吐きだす。
大海魔は逃げ出そうとするが、既に時遅し。
炎と水の聖なる力が海の魔獣を挟みこむ。
「FUJYUUUUUUU!!!!」
炎と水の力に挟まれたクラ―ケンは、断末摩のような悲鳴を上げて、輝きの中で消失してゆく。
消滅の輝きは水面を荒らし、海底神殿の残骸の上に乗っていたガロンドを渦へ飲みこんでゆく。
「リヴァイアに栄光を! テフと俺の悲願をぉー……!」
やがて輝きが捌け、海に静けさが戻った。
そこには大海魔クラ―ケンの姿は無く、俺と水龍の姿があるだけだった。
すると水龍が突然崩れて元に水に戻り、代わりに青い光球が飛んできた。
それは遠慮することなく俺の背中に舞い降りる。
「精霊様、杏奈! 飛んで!」
「GAAA!」
背中からニムの声が聞こえて、俺と杏奈は迷うことなく大空へ舞い上がる。
風を切って飛び、未だリヴァイアのモンスターとシュターゼンの兵士が激戦を繰り広げている戦場へ駆けつける。
俺は手近なところに高台をみつけて舞い降り、首を下げる。
ニムはユウ団長を伴って、俺の首を橋のように駆け下りた。
「ユウ、力を貸して!」
「御心のままに!」
ようやく青白い肌から元の色に戻ったユウ団長は、腰の鞘から剣を抜き放つ。
瞬間、刃が青い輝きを発した。
「メイルストロムッ!」
ユウ団長の叫び呼応し、戦場に幾つもの水柱が現れた。
水は戦闘を中断させ、文字通り水を差したり、差さなかったり。
「えいえーい、シュターゼン、リヴァイアの民よ、頭が高い! 控えおろう!」
ユウ団長は剣を掲げて勇ましく、凄く大きな声で叫んだ。
水柱はスピーカーの役目も持っているのか、辺り一面にユウ団長の声を響かせる。
リヴァイアのモンスターも、シュターゼンの兵士もみんながみんな、一斉に断崖に雄々しく立つニムに視線を注ぐ。
「このお方をどなたと心得る! 畏れ多くも我が水の国リヴァイアの水の巫女ニム様であらせられるぞ!」
ユウ団長は恭しく一歩下がった。
代わりにニムが相変わらずのまな板胸を盛大に突き出してふんぞり返る。
「鎮まれ、我が愛しき水の国リヴァイアの民草よ! 我は水の巫女、水の精霊ウンディーネと魂魄合身を遂げた:ニムであるぞ!」
だけどもカフェの時とは打って変わって、そう宣言するニムは凄く様になっていた。
リヴァイアのモンスターは一斉に膝を突き、頭を垂れる。
「こらそこ! 無抵抗な相手を攻撃しちゃダメ! これはシュターゼン国第三皇女としての命令だぞっ! これいじょうリヴァイアのみんなを攻撃したら、お父さんに言いつけるぞっ!」
と、ニムは剣を構えたシュターゼンの兵士へ大声で注意した。
兵士達も半ば渋々といった具合に戦闘を止めて、膝を突く。
「姫様お見事! これにて一件落着!」
「めでたしめでたし! あーっはっはっは!」
ニムの芝居じみているけど、いつもと変わらない元気な笑い声が響き渡った。
【水戸○門?】
【だから杏奈、それ言っちゃダメだって。まぁ、俺も水○黄門だとはおもうけどさぁ~……】
俺はファイヤードレイクの中で、杏奈とそんなのんびりとした会話を交えていた。
その時、突然、目の前の視界が霞み始めた。
なんだろうと思う暇もなく、俺の意識はスーッとなくなるのだった。




