大海魔降臨
「ずっと黙っていてすみませんでした。でも、もう大丈夫。姫様の中にあった私の片割れは、こちらへ戻りました。後は私と云う存在と共に消えるだけです……」
全てを語り終えたユウ団長は、青白く輝く腕で、ニムの頬を撫でた。
まるで母親が娘を慈しむように。優しく、穏やかに。
「そ、そんな……そんなのやだ!」
ニムは添えられたユウ団長の手を握り返す。
「だ、第三皇女として命じる! ユウ=サンダー、お前はこれからも私と共にあれ! これからもずっとずっと傍にいてよ……」
「ありがとうございます……」
「あはは……なーっはははは!!」
突然、海底神殿の最深部へ、男の高笑いが響き渡った。
周囲が激しく揺れ始めた。壁が裂け、海水が噴き出してくる。
「ガロンド! てめぇ、何をした!!」
シャギの声を受けても、奥から現れたガロンドは、薄ら笑いを浮かべたままだった。
更に揺れが激しくなる。
そしてガロンドの背後に浮かび上がる、真っ赤な二つの巨大な輝き。
「終わりだ……全部、終わりじゃない。もう何もかも……!」
祭壇を砕き、何本もの触手が現われた。
オクトエンペラーのものによく似た、だけど遥かに巨大な10本の触手。
その一本一本が蛇のようにうねり、無茶苦茶に壁を叩き、祭壇を砕き始める。
「全てを壊すじゃない。壊してやるじゃない……それこそ、テフと俺の願い……あは、あははは!」
「うわっ!?」
ニムと俺たちの間に瓦礫が落ち分断された。しかしニムはぐったりと項垂れるユウを抱きしめたまま、動こうとはしない。
「さぁさぁ、目覚めるじゃない! リヴァイアの守護神にして、全てを飲みこむ破壊神! 一千年の恨み、俺とテフの悲願を今ここに! クラァァケェェェーンッ!!」
精霊としての勘が、強い反属性の不快感を得た。
巨大な触手が伸び、天井を突き破る。
夕闇が見えるのと同時に天蓋が砕かれ、瓦礫が降り注ぐ。
俺はわき目も降らず飛び出そうとした杏奈の肩を掴んだ。
「ニム! 早く、こっちに! ニムっ!!」
杏奈の声を受けても、ニムは一切動こうとしない。
次第に二人の姿が瓦礫に埋もれて見えなくなり始める。
(もはやこれまでか……!)
「GAA!!」
俺は吠え、眷属を呼び出す。
茜色の空から翼を羽ばたかせ、グレーターグリフォンが飛んでくる。
グリフォンは器用に降り注ぐ瓦礫を掻い潜り、わななく巨大な触手を避けて、なんとか俺たちの下へ舞い降りた。
「みんな、グリフォンに!」
アイス姉妹はすぐさま飛び乗り、俺は杏奈の抱きかかえ、グリフォンの背中に乗る。
グリフォンは翼を打ち、飛び立つ。
「ニムぅぅぅー!」
杏奈の悲痛な叫びは崩壊の音にかき消された。
同時にニムとユウの姿は瓦礫に埋もれて見えなくなった。
グリフォンは海底神殿を脱出して、夕闇の中へ飛び出した。
その時、目下の海底神殿が吹き飛び、空を貫きそうな高さの水柱を上げた。
「み、みて!」
シャギが慌てて指を指し、
「な、なにあれ……? オクトエンペラーの親玉……?」
オウバも声を震わせ、驚愕していた。
「FJYUUUU!!」
不気味で大きな唸りが周囲に響き渡る。
海底神殿を破壊して現れたモノ――それは、オクトエンペラーよりも遥かに大きな、10本の触手を持つイカのような化け物。
*鑑定結果
【名称】:クラーケン
【種族】:海魔
【属性】:水
【概要】:かつて水の精霊ウンディーネが生み出した破壊神。




