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水の精霊の真実


「姫、様……おかげはいかがですか? まだ、妙な気分は、ありませんか……?」


 ユウ団長は泣いているニムの頬へそっと手を添えた。


「私のことなんて良いよ! これなんなの!? なんでユウがこんなことに、どうして私こんなところに!?」

「その様子では、大丈夫な、ようですね……」

「みんな、早くユウを!! このままだと!!」


 ニムは涙を振りまきながら、俺達へ訴える。

この中で一番力があるだろう俺は真っ先にユウ団長に飛びつく。

しかし団長は青い腕で、俺の腕を掴んで、首を横に振った。


「不要です……。むしろ、このままにしてください……」

「団長、それはどういうこと?」

「私が……真のウンディーネ、だからです」

「ちょ、ちょっと待って! それ一体どういうこと!?」


 みんなの気持ちを代弁するように、シャギが声を上げる。


 ユウ団長は具に語り始めるのだった。



●●●



 一千年前、栄華を誇った水の国リヴァイア。


リヴァイアと反属性の炎の国シュターゼンは長らく対立を続けていた。


そして滅亡寸前の数十年間はリヴァイアにとって最も栄華を誇る時期であった。

陸地を捨て、魔法の力で浮かぶ浮島に楽園を築いていた水の国リヴァイア。


 それというのも、顕現した水の精霊ウンディーネが、人と恋に落ち成就させ、人としての魂を得ていたからである。


 本来精霊とは魂を持たず、肉体すらない。しかし、精霊を強く想う存在がある時、受肉が可能となる。


 肉体と魂を得たウンディーネは、王の妻として、妃として君臨した。

一時の、幸福の時期だった。


 そんなある日、長らくリヴァイアと争っていたシュターゼンは、リヴァイア王の妃がウンディーネと看破した。

シュターゼンの送り込んだ女に心奪われたリヴァイア王。

心は妃だったウンディーネから離れてしまう。


 水の精霊との契約はここに絶たれ――そしてウンディーネは再び肉を失い、精霊へと戻る。


 受肉よる強い力によって維持されていたリヴァイアの人口の島。

そこは一夜にして崩壊し、波に飲まれ、深い海の底へと没する。


 悲しみの中のウンディーネは、国を崩壊に導いたシュターゼンを憎みつつ、永い眠りへ入った。



それが一千年前の話。


 そして今から十七年前、ウンディーネは突然、目覚めることとなる。


 棺から起きると底には死亡した冒険家、逞しい女戦士長、そして唯一生き残った赤ん坊が一人。



――おとぎ話とほとんど変わらない、リヴァイアの末路だった。



●●●



 ウンディーネの目覚めは唐突であった。


 海底神殿の奥深くにあった祭壇で目覚めたウンディーネは、足元に転がる人の死骸を目の当たりにする。

どうやら海底神殿の防衛機能にやられて、虫の息だった。


 神殿の記録を辿る限り、今足元に転がっているのがシュターゼンの探検家パーティーと、お目付け役のうら若き戦士長:ユウ=サンダー。そして赤ん坊はそのパーティーのメンバーが密かに連れてきていた子供であると知る。



 時は一千年を経過。しかしリヴァイアを滅亡に導いた、シュターゼンへの恨みは消えてはいなかった。

今のウンディーネに国は無く、信奉する民草も居ない。

しかし丁度いい、器が足もとに転がっている。


 ウンディーネは早速行動に移った。



 一千年前のリヴァイア滅亡の恨みを晴らすべく、ウンディーネは魂を二つに分け、片方をユウ=サンダーへ。

もう一方を赤ん坊へと移す。

 そして水の加護を受けた赤ん坊を”海底神殿から発見された”ウンディーネの力が宿る子供”と進言した。


 当初は子供の処刑を指示されたが、そうした場合何が起こるか未知数であり、暫くは監視下に置くのが得策。

もし危険性が無いのならば、子供の持つ力を使って、いずれは滅んだ水の国の力さえ手に入れることができるかもしれない。


 お嬢様育ちで、血生臭いことが大嫌いな王妃は、赤ん坊の愛らしさに惚れ、自分の子供として育てると言い出す始末。

ユウは側用人として仕え、監視する役目を負うと。


 さすがの王も折れ、子供は第三皇女ニム=シュターゼンとして、シュターゼンに迎え入れられる。


 全てはユウの狙い通りだった。


 ニムの中に潜ませた自分の力が十分に育つまで十年。

十年の時を過ごしたのち、ニムと云う殻を破らせ、覚醒させたウンディーネの力によって海底神殿を蘇らせ、水の国リヴァイアを復興し、シュターゼンを滅ぼす。

 それこそがユウの狙いだった。



●●●



 ウンディーネが乗り移ったユウ=サンダーは、いずれニムの中に宿らせた自身を覚醒させ、シュターゼンを内部から崩壊させようと画策していた。全ては一千年前、水の国リヴァイアを滅ぼしたシュターゼンへの復讐。


 しかしそんな中、ウンディーネ自身にも変化が表れ始めた。



 日々成長してゆくニムの姿を彼女は愛おしく感じ始める。

 ユウ=サンダーとして生きる中で、彼女はシュターゼンの民も、リヴァイアの民と変わらない、善良な人々であると肌で感じ始める。


 水は時として人々を飲み込む脅威となるが、元は生命の根源である。


 命を慈しむ心を取り戻したウンディーネは、精霊であることを止めた。


 永らく器としていた人間を本当の肉体した。


 ウンディーネであるということを捨て、ニムの側用人でありシュターゼンの戦士長:ユウ=サンダーとして、人として生きると決めたのだった。


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