作戦開始!
かくしてシュターゼンの存亡をかけた、水の国リヴァイアへの一斉攻撃が始まった。
攻撃目標は大陸の東方で今も浮上を続けている海底神殿。そしてその内部にいる敵の首領、元シュターゼン国第三皇女ニム=シュターゼンを改め、水の精霊ウンディーネ。
「空中機動要塞サラマンダ―出陣せよ!」
シュターゼン国王号令の下、立派な城の中に隠された真っ赤な魔法石が力を発する。その力は巨大な城塞を空高くまで浮かび上がらせる。
先刻は独裁者マリオンに使役され、人々を恐怖させた空中要塞。
しかし今は”国防”という本来の目的を果たすために、航行を開始する。
そして要塞から次々と飛竜に跨った兵士達が大空へ飛び出してゆく。
シュターゼンのもう一つの力。百戦錬磨の機動部隊”竜騎兵隊”はその全勢力を空へ放ち、先発隊として東の沿岸へ向かって飛んでゆく。
そんな空の異変に真っ先に気が付いたのは、水没させた街で泳ぎに興じていた一匹のリヴァイアのサハギンであった。
帰還したサハギンは速やかに警備隊へ報告に向かい、ことの次第を伝える。
リヴァイアの盟主であるウンディーネから、竜騎兵隊のことを知り及んでいた隊長のサハギンはすぐさま伝令を放つ。
すぐさま竜騎兵隊の襲来が、防空部隊であるゲルコマンドの一団へ伝えられた。
ゲルコマンドは地上制圧の命を発していた、大型の蟹型モンスター:キングクラブの一団を呼び戻す。
ウンディーネの指示により、爪の間へ火属性に即応してウォーターガンを放つよう改造されたキンググラブ。
巨大な節足が岩を砕き、木々をなぎ倒しながら、ゲルコマンドの指示通りの配置へ向かって行く。
その時、一匹のキングクラブが木々と共に倒れた。
知性に乏しい巨大モンスターであっても仲間の異変程度は気づくことができた。
周囲の木々に巨躯をひっかけ、難儀をしつつ蟹の集団が旋回を開始する。
「機巧駆逐!」
「了解! 敵を駆逐、駆逐、駆逐!」
密林に甲高い人の声が響き渡り、樹木の間から緑の閃光が迸る。
閃光はキングクラブの固い甲羅を砕き、中の肉を焦がし神経を焼き切った。
巨体が次々と木々と共に倒れ、次第にその数を減らしてゆく。
そんな中、一匹のキングクラブの目は確認した――短い剣を携えた、人間の雄の幼体を。
奴は僅かに炎の魔力を発している。
樹木の間に、自分たちを蹂躙する、火属性を帯びた人の存在を感知したキングクラブはウォーターガンを放つべく鋏を動かす。
しかしキングクラブはウォーターガンを放つ間も無く、甲羅に大きな風穴を開けられ倒れた。
「アクセルブースト!」
今度は青年の声が密林に響き渡った。それとほぼ同時に白色の閃光が密林の中を駆け巡る。
地上に現れた”白い閃光”は次々とキングクラブを打ち抜く。
密林を我が物顔で闊歩していた巨大な蟹のモンスターは次第にその数を減らしてゆく。
そうして防空の任を帯びていたキングクラブの集団は全滅し、数多に折り重なった死骸の上へ、白い閃光と緑の風が舞い降りる。
「とりあえずこれで全部だよな?」
短剣を携えるウィンドはそう云い、
「そだね」
ミキオは空を仰いだ。子葉の間に、空を席巻する無数の飛竜の翼が見えた。
そんな中、”ゴゴゴゴッ!”と地が唸る。
向こう側から木々をなぎ倒しながら、新しいキングクラブの集団が迫ってきていた。
「行くぜ、ウィンド!」
「合点!」
『シュターゼンに仇名すリヴァイアは駆逐、破壊、殲滅!』
閃光と化したミキオが突っこみ、ウィンドの意思を持つ短剣”シャドウ”が光線のような魔法を放つ。
リヴァイアの防空部隊はたった二人の戦士に蹂躙され、飛竜の侵入を許してしまうのだった
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目下の密林から、この間の水がめの時みたいな激しい対空迎撃は無い。
予定通り白閃光のミキオとウィンドが上手く敵の防空部隊をやっつけてくれているらしい。
しかし安心したのも束の間、目下の森から鋭い”水鉄砲”が飛んでくる。
すると飛竜の手綱を握るユウ団長は、飛竜を加速させ、旋回した。
俺や杏奈、アイス姉妹は必死に命綱にしがみ付いて、激しい衝撃に耐えた。
「攻撃開始!」
ユウ団長の鉄兜が、彼女の声を受け、響いた。その声は波となって、同じ鉄兜を被った俺たちや、周囲を飛んでいた他の竜騎兵へ向けて飛んでゆく。
他の竜騎兵が先行し、飛竜は前足にもった爆弾の投下を始めた。
激しい爆炎が沸き起こり、密林が赤で彩られてゆく。
密林の中から時折、迎撃のウォーターガンが放たれてくる。
何匹もの飛竜が撃ち落とされ、炎で燃え盛る密林へ落ちて行く。
それでもシュターゼンの竜騎兵隊は撃墜を恐れず、俺たちを乗せた飛竜を守りながら、確実にリヴァイアの本拠地:海底神殿へ突き進んでゆく。
やがて密林が終わり、海と海岸の境を無くした街の上に達した。
警備のサハギンは飛竜を見上げるだけでなにもできそうもない。
このまま一気に海底神殿へ突入できるかと思った矢先。
暗く底の深い水面を割って、新たな巨大なカニのモンスターが姿を現す。
「皆さま、参りますよ!」
ユウ団長は手綱を手離し、代わりに腰の鞘から鋭い剣を抜く。
そして迷うことなく飛竜から飛び降りた。
「トカゲ!」
「うん! 行くよ!」
リザードマンの俺と杏奈はしっかりと手を繋いで、ユウ団長に続いて飛び降りる。後ろからシャギとオウバが続いてきた。
もう何度もファイヤードレイクに変身している俺と杏奈は、初めての空中ダイブもへっちゃらだった。だけどそれだけじゃない。
杏奈と俺はニムのこと思えばこそ、こんな空中ダイブ程度でぎゃあぎゃあ叫ぶわけにはいかなかった。考えるべきことは、第一に海底神殿へ無事に突撃して、そこでどうやってウンディーネとなったニム助けだすかだった。
しかし敵もただではここを通してくれそうもない。
空中で落下を続ける無防備な俺たちへ、キングクラブが沢山のウォーターガンを放ち始める。
「GAA!」
俺は落下しながら咆哮を響かせた。声に乗った火属性の力は、後方で控えている眷属を一瞬で目の前に転移させた。
「グオォォォ!」
シュターゼンの秘宝:八体のイフリートは揃って咆え、炎の壁でウォーターガンを蒸発させる。
水が蒸発したことで、中空には煙のような霧が充満した。
「グラビトン!」
「エア!」
最も後ろにいるアイス姉妹が魔法を発し、空気に抵抗されていた身体が軽くなった。
刹那、目下の真っ白な霧の中に、激しい紫電が迸る。
「魔法剣二の太刀! 電光雷撃剣!」
電光石火。
重力提言と空中浮揚を可能にする二つの魔法を受けたユウ団長が剣に紫電を纏わせながら、霧の中から飛び出した。
まるでミキオのような地上を走る閃光となったユウ団長は、目の前を塞ぐキングクラブを叩ききり、大きな風穴を開ける。
たくさんの巨体が倒れ、水柱を上げて、水中へ没してゆく。
しかし次の瞬間にはもう、水の中から新しいキングクラブの集団が姿を現していた。
「杏奈!」
「うん!」
「お二人とも! お気をつけて!」
ユウ団長の言葉を背に受け、魔法のお陰で沈むことが無くなった俺と杏奈は水面を蹴って、飛んだ。
そして俺はバフスキル”火属性強化”を発動させた。
「あーんなぱーんちッ!」
強化された杏奈の拳はキングクラブの甲羅を飴細工のように割り、
「いっただきまーす! GAA!!」
俺は顎の鋭い牙で、瑞々しいキングクラブの肉へ喰らい付いた。
それこそもう、遠慮なしに、ガブっと!
するとキングクラブは一瞬、巨体をビクンと震わせ、動きを止めて水の中へ沈んでゆく。
ショック死というやつみたいだ。
俺と杏奈は火属性。本来は苦手属性な”水”に難儀する筈。
だけど、俺達は物理攻撃を主に戦った。アイス姉妹や、ユウ団長の援護を受けつつ、必死に敵へ飛びつき、道を切り開く。
次々と現れるリヴァイアのモンスターを、物理の力だけでなぎ倒す。
全部、ニムのためだった。
こんなところで屈してなるものか。ニムを助け出すまでやられるものか!
ユウ団長は、ニムを助ける秘策があるらしいけど、具体的なことは全く分かんない。
でも、ニムを救えるのだったら、それにかけるしかなかった。
またニムの目の前まで行く必要がある。そうしなければ助けるられるものも、助けられない。
火属性の力の根源――それは感情。
「GAA!」
「うわぁぁぁー!」
俺と杏奈はニムへの想いを燃えがらせ、ただひたすらに道を切り開く。
「精霊様、杏奈、下がって! 爆撃が来るわよ!!」
シャギの声を聞いて、俺達は瞬時に後退して、合流する。
俺たちの上空をシュターゼン国自慢の竜騎兵隊が素早く過ってゆく。
激しい爆撃が巻き起こり、反属性であろうとも、リヴァイアのモンスターは次々と海面へ没してゆく。
(ニム待ってろ! 必ずお前を助けて、また杏奈に会わせてやるからな!)
空爆が終わり、爆炎の中を俺たちは突き進む。
敵の拠点である海底神殿。
その不気味な威容が、視界でも確認できる距離に達したのであった。




