杏奈とユウの気持ち
城壁の上からでも、山の向こうには赤い光が見えた。
たぶん、あの山の向こうでは今でもシュターゼンの兵士とリヴァイアのモンスターが戦っているんだと思う。
この状況を早く終わらせなきゃいけない。そうするためにはシュターゼンの人たちが言う通り、ウンディーネとなったニムを倒せば良い。
ウンディーネの力を沈めて、リヴァイアの中心の海底神殿の力を失わせればいいだけだ。
だけど――
「……」
俺の隣で杏奈は膝を抱えていた。きっとニムのことを考えているんだと思う。杏奈はそれほどニムのことを大切なんだと、強く想い知る。
だから傍に居る者として、その想いには応えたい。
(でも実際どうしたら良いんだろう……リヴァイアを倒して、ニムも救う手なんて本当にあるのかな……)
幾ら今の俺が精霊っていう存在でも、叡智を持っている訳じゃない。
だからこそ考えるしかない。杏奈のためにも、ニムを救う手だてを。
そんな俺たちへ長い影が伸びてきた。
脇を見やると、そこには神妙な面持ちのユウ団長が佇んでいた。
そして彼女は杏奈の脇で傅いた。
「巫女様……いや、焔 杏奈さん。ありがとうございます」
しかし杏奈は答えなかった。それでもユウ団長は言葉を続ける。
「姫様の身を案じ、姫様は本当に良いご友人に恵まれたと思っております。乳母として杏奈さんのお優しさを賞賛すると共に、姫様へ対する深い慈愛の気持ちに感謝を述べさせていただきます」
「……」
「王はあのようにご勅命を下されましたが、王もまた実子として育てた姫様へ、あのような決断を下さねばならず、断腸の思いでございます。民草を率いるため、身内を処断してまでも、国のことを考えた結果でございます」
「……」
「ですが想いは王も、杏奈さんも、そして私も同じ。ですから姫様の救出は私に一任してくださいませんか?」
「ッ!」
杏奈が反応をみせ、顔を上げる。
「本当……?」
「はい。姫様を助け出す良い手がございます。ですがこの方法には杏奈さんと、何よりも精霊様のご助力が必要になります」
「……」
杏奈は困惑していると思う。
俺も具体的にどういう方法でユウ団長がニムを助け出そうとしているか分からない。
しかし彼女からにじみ出る”決意”を感じた俺は立ち上がった。
「本当にニムは救えるんだな? 炎の精霊の俺に誓えるか?」
ユウ団長は顔を上げる。そこに迷いの一片も存在していなかった。
「畏れながら。お任せいただきたく存じます。ただ、一つだけお願いがございます」
「お願い?」
「姫様の救出には私の存在をかけさせていただきます。杏奈さん、精霊様、もしも私になにかありましたら、姫様のことを頼みます」
「何言ってるの……?」
ユウ団長の不穏な言葉に杏奈が訝しむ。
「決意の表れと思っていただければ」
それっきりユウ団長は何も答えず、ただ黙ったまま頭をさえ続けるのだった。
俺はユウ団長から並々ならない決意を感じた。
具体的な方法は未だわからない。だけどもはやユウ団長のことを信じるしかなさそうだった。それ以外にニムを救い出す方法は考えられなかった。
「わかった。だけど、敢えて危険なことをしようとしないでくれよ。アンタがニムを必要としているように、ニムにとってもアンタは大事な人だからね」
とりあえず釘を刺しておくと、
「……ははっ、ご神託、恐縮です。それではこれにて……アイス姉妹、もう良いぞ!」
ユウ団長は足早にその場を跡にして、代わりに物陰から苦笑い気味のアイス姉妹が現れた
「さすがユウ団長ね」
シャギは感心したようにそう言い、
「ですね姉さま。オウバ達の気配に気づいていただなんて……アンちゃん、もう大丈夫?」
オウバは心配そうに問いかける。すると杏奈は勢いく良く立ち上がった。
「ごめん、二人とも心配かけた。もう大丈夫!」
(杏奈もいつも調子が戻ったようだね。やれやれ……)
リヴァイアとの決着は近い。
俺はそう思うのだった。




