炸裂 サテライト・レイ・ソーラ!
「ほう、性懲りも無く谷を這い上がりまたいらっしゃいましたか。余程あなたは打ちのめされたいのだとお見受けいたします」
たぶん、再訪を予想していたんだろう半魚人の女戦士:テフ=シャークは、同じ岩場で律義に待っていた。
「それはこっちの台詞よ。今度は私たちが貴方を塵に替えてあげるわ。ねぇ、オウバ?」
すっかりいつもの調子を取り戻したシャギはそういい、
「姉さまのおっしゃる通り! オウバ達の恐ろしさ味わわって頂きますね。うふふ……」
オウバは時々見せる、戦闘狂の表情を浮かべる。
そうしてアイス姉妹のオンステージが開幕する!
「闇を切り裂く漆黒の稲妻! 黒の魔導士シャギ=アイスッ!」
「大地を揺るがす白磁の刃! 白の魔導士オウバ=アイスっ!」
「「アイス姉妹が、悪さをするあなた達を――おしおきよ!」」
姉妹仲良く揃ってテフを指でさす決めポーズ!
月は無いけど、美少女、お仕置きなんちゃら……。
やっぱどこかで聞いたことのある台詞。
「精霊と巫女は……まぁ、良いでしょう」
テフは一瞬視線を逸らして、三又槍を強く握りしめた
「我が槍捌きは炎をも割る! リヴァイア流槍術:テフ=シャーク!」
テフは青白く輝く槍を地面へ突き立てた。
先刻のように乾いた岩場が突然湧き出た水で瞬時に覆われる。
「お命頂戴!」
半魚人の女戦士のテフは水面を高速で滑った。
鋭い槍の切っ先がシャギの心臓を目掛けて突き出される。
しかし予想済みだったアイス姉妹は左右に飛び退き、鋭い突きを避けて見せる。
「アースソード乱れ撃ちぃ!」
オウバの叫びと白い魔力が鋭い岩の剣を、水の中は無数に発生させる。
更にそこへシャギは得意の稲妻魔法を乱発させた。
しかしテフは岩の剣を槍で砕き、稲妻を槍で弾いて見せる。
そんなテフの背後を取ったのは――オウバ=アイス。
彼女の細腕は鈍重な印象の魔力で形作った鉄球を軽々と放り投げる。
テフは槍を掲げて直撃を防ぐ。
しかし槍は鉄球から伸びる鎖で絡み取られた。
「姉さま!」
「死ねぇぇぇっ!」
黒い爪を大きく振り挙げたシャギが、嬉々とした笑みを浮かべつつ飛び上がる。
テフの背中へ向けて大爪を迷うことなく振り落とす。
瞬間、浮かび上がった赤い火花。
テフは鋭い腕のヒレを翳して、シャギの爪を受け止めていた。
「先刻申し上げました筈ですが? 貴方の物理攻撃など私には無意味であると!」
「そうかしら?」
シャギは爪の向こうでニヤリと笑みを浮かべた。
「サンダー!」
「うわぁぁぁぁ!!」
テフの涼しい顔が苦しみで歪んで、悲鳴を上げる。
爪から直接流れ込んだ電撃は、テフの身体をガクガクと震わせる。
「それー!」
「ぐわっ!」
オウバは、昔テレビで見たカツオの一本釣りのようにテフを後ろへ投げ捨てるのだった。
「あら、テフさん? 私よりも強いんじゃなかったかかしら? ねぇ、オウバ?」
「姉さまのおっしゃる通り! 魔法大会三年連続優勝のアイス姉妹を舐めて貰っては困ります!」
「くふ、くふふ……面白い! 前言は撤回いたしましょう。こちらも本気で参ります!」
テフが水の上を再び滑り始める。
さっきの比じゃない程早く、目でも追うのはやっと。
シャギとオウバはそれでも果敢にテフへと立ち向かう。
テフの槍が鋭い連続突きを繰り出し、シャギを狙う。
シャギは爪で応じる。
一進一退。いや、シャギの方がやや劣勢か。
突きを受け流すだけで精一杯で、魔法を放つ暇を与えられていない。
更にテフは脇から鉄球や岩の剣で攻撃を仕掛け続けているオウバを、腕のヒレだけで相手取っていた。
二体一なのに、テフは二人分の攻撃を繰り出し、アイス姉妹を圧倒している。
「きゃっ!」
「姉さま!」
テフの鋭い一撃がシャギの爪を砕き、突き飛ばす。
オウバは鉄球を放り捨ててシャギのところへ滑空してゆく。
その隙にテフは水しぶきを上げながら素早く後退し、槍を構えなおした。
既に槍の切っ先には青白い魔力が激しく燃え上がっている。
「これで終いです! メイルストロムッ!」
「「プロテクションッ!!」」
テフの発した激流を、立ち上がったアイス姉妹は重ねた障壁魔法で防ぐ。
黒と白の障壁は龍のように喰らい付く激流を辛うじて受け止めている。
シャギとオウバはそれが精いっぱいで一歩も動くことができない。
しかし二人は冷や汗を浮かべながらも、どこか余裕の表情をしていた。
「精霊様! 杏奈!」
シャギが声を上げ、
「お願いします!」
オウバは叫ぶ。
「行くよ、杏奈!」
「うん!」
ずっと、高台の岩陰に隠れて動静を伺っていた、トカゲ形態の俺を肩に乗せた杏奈は立ち上がった。
既に俺達特有の真っ赤で炎のような魔力が杏奈の身体からあふれ出ている。
「させるかっ!」
テフは槍を凪ぎ、蒼い空気の刃を俺達へ向けて放つ。
「ファイヤーウォール!」
テフが予想通りの攻撃をしてくれたので、杏奈は予定通り炎の壁を張る。
技がメイルストロムじゃなかったのが幸いだった。
「GAA!」(ファイヤーボールっ!)
そして俺は空に昇る太陽へ向けて、同じように真っ赤に輝く火球を吐き出す。
火球に接近する二つの影。
太陽と、火球と、アイス姉妹の影が重なった時、周囲が昼間以上の輝きに包まれた!
「こ、これは……!」
テフは眩しさのあまり顔を顔をしかめ、水面へ影法師を伸ばす。
そんなテフの様子を見て、火球の力を吸収しつつ、腕を翳すアイス姉妹は笑みを浮かべた。
「これこそ、私パーティーの!」
「合体最強魔法ですっ!」
「「消えて居なくなれぇ! サテライト・レイ・ソーラッ!!」」
杏奈が引き付け、俺が外から魔力を放つ。
それをアイス姉妹が吸収し、自らの力と重ね合わせて放つ。
これこそ俺達四人しかできない【サテライト・レイ・ソーラ】!
荘厳な光の渦はテフを飲み込んだ。
輝きは水のフィールドをどんどん蒸発させてゆく。
光の中でテフは槍を下げ、自分を塵へと変えて行く輝きを見上げた。
「主様……ガロンド、私達の夢は…………!」
サテライト・レイ・ソーラはテフを、水のフィールドを、まるで存在しなかったかのように蒸発させた。
主を失った三又槍が転がっているのみ。
周囲が元の岩場に戻り、俺たち四人は駆け寄る。
「「「「いえぇーい! テフ=シャーク撃破ー」」」」
人の手三つと、長いトカゲの尻尾とのハイタッチ。
カフェの運営とか、海底神殿の冒険。
シャギと本気で殴りあったこととか、杏奈とオウバの柔らかい体にふにふにされたとか。
そんな経験を重ねた俺たちは、まるで昔からの友達のように心を通わせている。
――今の俺達だったらなんでもできる! そんな風に強く思う。
「さぁ、ちゃっちゃと水がめを守りに行くわよ!」
リーダー気質で委員長っぽいシャギを先頭に俺たちは山道を行く。
すると反転したリヴァイアのゲルコマンドやサハギンが、怒涛のように押し寄せて来る。
俺は杏奈の肩から飛び降りる、筋骨隆々なリザードマンへと変身した。
そして迷うことなく爪を伸ばして、敵へ切りかかった。
「私の拳が、今日は以下省略! パーンチ!」
杏奈の真っ赤に燃える拳がサハギンをまとめてぶん殴った。
その脇ではシャギが舞うように黒い爪を振って、妖艶な笑みを浮かべている。
「リヴァイアも大したことないわね!」
そんな余裕をぶっこいてるシャギの背中へゲルコマンドがうねうねと接近し、腕を鞭のように振り上げる。
だけどゲルコマンドは上から降り注いできた”白い鉄球”に押しつぶされて、消えた。
「姉さま、油断はだめですよ!」
「オウバが背中を守ってくれるって信じていたわよ?」
「もう姉さまったら、調子が良いんだから……」
「シャギ、オウバ! 次来る!」
杏奈の声を聞いて、アイス姉妹は再び武器を構えて進む。
俺たちは敵を撃破し続け、そして目的地に到達する。
見上げるほど大きな石造りの堰堤には、餌に群がるアリの子のように、サハギンやゲルコマンドはくっ付いていた。
一生懸命、サハギンはヒレのカッターで石を砕き、ゲルコマンドは腕を槌のようにして振り下ろしてゆく。
そして既に俺たちの到来を察知していた数えるのもおっくなリヴァイアモンスター達が、目前を塞いでいる
更には背後から響き渡る、鈍重な足音。
「ぬぅーん!」
海底神殿で苦戦させられた水の巨人”アクアゴーレム”が、しかも三体も森を踏み荒らしながら現れる。
(さ、さすがにこの量は危険かなぁ……?)
俺がそう思った時、アクアゴーレムの背後へ小さな影が舞い上がった。
「シャドウ、全モード、解放!」
『了解! 我らに仇名す敵は全て、駆逐、破壊、殲滅!』
ウィンドが禍々しい短剣を振り落とす。
短剣から光線のような輝きが幾つも迸って、アクアゴーレムを撃ち貫く。
ウィンドの機工剣シャドウがアクアゴーレムをバラバラにする。
「アクセルブースト あーんど ファントム!」
そんなミキオの叫びと共に、白い閃光が三体のアクアゴーレムの間をひた走る。
ゴーレムは打たれ、砕け、盛大な炸裂音と共に大きな水柱となって破裂する。
さすがは白閃光と機工剣士の異名を持つミキオ=マツカタとウィンドの活躍だった。
そして空には無数の大きな影が現われる。
シュターゼン国の竜騎兵隊の飛竜は空を覆いつくし、口から吐く火球はリヴァイアのモンスターを正確に燃やし尽くしてゆく。
(俺もみてるだけんなんてつまんない!)
俺の咆哮に呼応して、八体のイフリートと無数のグリフォンが姿を現す。
水がめに攻め込んでいたリヴァイアの軍勢は、竜騎兵隊と炎の眷属、そして俺達によって徐々にその数を減らしてゆく。
水がめの決壊は防がれ、俺達は勝利を収めるのだった!!




