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サラマンダ―激怒する!


「……カゲ! ――を、開け―― サラマンダーっ!」

「ッ!!」


 杏奈の叫びが聞こえ、俺は意識を取り戻した。

目を開ければ、びしょびしょに濡れた杏奈が、俺の腰の上で馬乗りになっている。目は真っ赤で、もう結構泣いたあとっぽい。

 水浸しで、少し薄暗い谷底に杏奈のすすり泣く声が響き渡っている。


「大丈夫、元気だよ。安心して! しゃぁー!」


 ごつごつした手で杏奈の柔らかいほっぺを撫でた。

杏奈はほっとKカップをなで下ろして、まるで大事なもののように差し出した俺の手を強く抱きしめてくれる。


「良かった、ホントに。トカゲが、居なくなったら私……」

「杏奈……」


 改めて杏奈は俺のことを大事に想ってくれていると感じた。

それはもちろん俺もだ。炎の巫女と、炎の精霊だからじゃない。

焔 杏奈っていう一人の女の子は、俺にとってかけがえのない存在となっている。

 俺はもはや杏奈無しなんて考えられない。そして杏奈もきっと同じ気持なんだと思う。


(絶対にこの手を離すもんか。この先、何があろうとも!)


 心へそう深く誓ったのだった。

俺は杏奈の手を借りて、起き上がる。手をにぎにぎしたり、尻尾を振ったりしてぶ、怪我がないことを確かめる。

 杏奈も服がびしょびしょで、張り付いていて、目の遣りどころに困る以外はなんともなさそうだった。


それは脇に居たアイス姉妹も一緒で、びしょびしょだったが、大事はなさそうだった。


「みんなの言う通り、姉さまは悪くありませんよ? だから元気を出してください」

「でも、最後の扉を開けてしまったのはやっぱり私なのよ……なんで、こんなことに……どうして……」


 やっぱり予想通り、シャギは物凄く落ち込んでいた。

いつものドSっぷりなんて微塵も感じられない。

きっとさっきテフにボコボコにされたことも影響しているんだろう。


 もうかける言葉も見つからない様子のオウバは、情けなく肩を落とす姉を優しくそっと抱きしめている。


「トカゲ」

「そうだね。ちょっと行ってくるね」

「シャギのこと宜しくね」

「まっかせなさい!」


 杏奈の頼みもあったし、俺自身もシャギを元気づけたい。

そんな意思の下、俺はアイス姉妹へ駆け寄って行った。


「精霊様?」


 俺の黒々とした影の下で、オウバだけが顔を上げて首を傾げる。


「オウバ、そんないじけてる人なんて放って置いていいよ。さっさと先へ進もう?」

「えっ……ええっ!?」


 オウバは驚いた様子だが、シャギは微動だにしない。

これはもうちょっと必要みたいだった。

俺はコホンと咳払いをし、喉の調子を整える。


「シャギ=アイス。貴様が無謀な行動を取ったせいで、俺たちはこの様だ。だのにお前はそうして塞ぎこんで、責任逃れか。全く情けない……お前はもういい! やる気がないならさっさと帰れ! ミキオにでも慰めて貰え!」

「ミキオは今は関係ないでしょ!?」


 やっぱり”ミキオ”シャギのパワーワードのようだった。


「というか、今の君は邪魔で仕方がない! なんださっきの戦い方は! 周りも見ずに、ただ闇雲に暴れまわって、俺たちの邪魔ばかりして! 責任を感じてるからって、お前は空回りしているだけだ!」

「煩いわね……」

「俺なんて何回お前の稲妻にやられそうになってると思ってるんだ? いい加減にしろ! 迷惑だ! さっさと帰れ!」

「何よ、あんた、精霊だからって偉そうに! 喧嘩売ってるわけ!?」


 シャギはオウバを振り払って立ち上がって睨みつけてくる。

正直内心はドキドキな俺だったが、堪えて睨み返す。


「喧嘩なんて売ってない。ただ事実を言っただけだ!」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!」


 シャギは勢い任せに稲妻を放ってくる。

ある程度予想をしていた俺は、手ではじいた。

ちょっと痛かったけど、稲妻は岩壁にぶつかって消える。


「なんだ、この程度か? 弱いな。だからテフに手も足も出せずにボコボコにされたんだな!」

「こんのぉ!」

「ちょっと、姉様も精霊様もいい加減にしてください!!」


 脇でオウバが叫びを上げ一歩を踏み出す。

そんなオウバの肩を杏奈が抱いて止めた。


 オウバが止めようとするが、杏奈が止める。


「アンちゃん……?」

「大丈夫。トカゲを信じて」


 杏奈が微笑みかけると、オウバは肩から力を抜く。

”グッジョブ”と思う、俺なのだった。


「ほら、シャギかかってこいよ! それともやっぱりビビったか?」

「泣いても許してやらねぇからなぁっ!」


 シャギは御得意の魔力で形作った禍々しい爪を装備して切りかかってくる。

俺も爪を伸ばして、応じた。

俺とシャギの爪が重なりあう度に、紫電が飛び散って、谷底を明滅させる。


 初めてシャギの物理攻撃を真面目に受けたけど、一発一発が想像以上に重かった。

狙いも的確で、少しでも油断してしまえば、致命傷を貰い兼ねなかった。

こちらもる気を出して行けば、圧倒できるんだろうけど、それでは意味がない。

俺は殺意を含んだ闘争心を感じる度に、それを理性で押さえつけ、シャギの爪を受け続ける。


 シャギは決して弱くは無い。彼女の連撃を受け、いなし続ける。


「うおっ!?」


 シャギは思い切り爪を振り切って、俺をよろめかせる。

彼女は腕に紫電を纏わせつつ、後ろへ飛んで距離を置いた。


――来る!


「ぶっとべぇ糞野郎が!」

「吹っ飛ぶもんかぁー!」

「メガサンダーッ!!」


 怒りの咆哮と共にシャギは紫の招雷魔法を放った。

 俺は身を固め、脳天から稲妻を受けた。

 ほの暗い谷底をシャギの稲妻が真っ白に照らし出す。

飛び散る紫電は岩肌を削り、激しい電流が俺を卒倒させようと襲い掛かる。

だけどそこは我慢。俺は一応男の子!

 シャギの激しく、情熱的な一撃を全身全霊で受けてもなお、踏ん張って立ち続けた。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 シャギは肩で息をしながら呆然と佇んでいる。

なんとなく、もう”すっきり”したんじゃないかと思った。


「シャギ、い、いつもの調子が戻ったじゃん」

「えっ……?」


 俺はしびれを堪えつつ、きょとんとするシャギへ歩み寄る。


「ちょっとはすっきりできたかなぁって。叫んだり、身体を思いっきり動かしたりしてさ。どう?」

「えっ? あ、ええ、まぁ……そうね」


 シャギはどう受け答えて良いのか湧かない様子。

だけど肩の力は和らいでいるように見える。



「リヴァイアの復活はシャギだけのせいじゃないよ。あの時、俺もいた、杏奈もいた、そしてオウバも。これは俺たち、パーティーの責任だ。君一人が抱え込む必要はないよ。だから……四人で戦おう。リヴァイアを倒そう、俺たち四人の手で!」

「そうだよ、私も責任ある!」


 杏奈が声を重ねてきた。


「アンちゃんの云う通りですよ姉さま! オウバにも責任があります! だから一緒に戦いましょ!」


 オウバも叫びをあげた。


「それにさ、テフに散々罵られてたけど全然弱くないよ! 俺なんて結構ギリギリだったんだから。魔法大会三年は連続優勝は伊達じゃないね!」

「全く、アンタ達は……」


 シャギは赤い瞳を丸く緩め、口元へいつものドS全開な笑みを浮かべる。


「みんな、ごめん! 私が悪かったわ! でも、もう大丈夫!」


 もうシャギはいつものシャギに戻ったようだった。

これにて一件落着。まるでべたべた青春ドラマの如く、杏奈とオウバがJKカップをポインポインと揺らしながら、シャギへ駆け寄ってゆく。


「せ、精霊様ってさ、ちょっと良いじゃない」


 シャギは少し顔を赤く染めて杏奈へなにかを言っていた。


「ッ! だ、だめ! トカゲはダメ!!」


 杏奈は焦った顔で叫んでいる。


「あら? 姉さん、浮気ですか?」

「ち、違うわよ! そもそもミキオは別に私の……」

「だからってダメ! トカゲはわたしの! わたしのとかげ!」

「わ、分かってるわよ」


(良い光景だなぁ。可愛い女の子たちがいちゃいちゃ。見てるの最高!)


 そうして気を取り直した俺たちは暗い谷底を進んでゆく。


「待ってろ、テフ! もうてめぇにはまけねぇからなぁ!」


 シャギの勇ましい叫びが響く。

やっぱりシャギはどこか”悪役”に思えて仕方がない俺なのだった。



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