ニム=シュターゼンの真実
「道を開ける! 精霊様が、王様に会いたいって言ってる!!」
杏奈の真剣な声に、衛兵は慌てて道を開ける。
杏奈はトカゲ形態の俺を肩に乗せたまま、立派なシュターゼンの城門を潜った。
ユウ団長に、アイス姉妹、ミキオやウィンドといった”グリモワール”の面々もぞろぞろと後ろに続て来る。
杏奈と肩に乗る俺を見るなり、城内の兵士や従者は、誰も咎めることなく道を譲る。
王座を守る衛兵も、杏奈の姿を見るや否や、道を開けた。
「精霊様と巫女様の御なりでございます!」
衛兵がそう叫び、扉が重苦しく開く。
無駄に広くて大きな、大座の間。
そこでは王座から降りて、真っ赤な装いの王様と結構若い印象の御妃様が、まるで従者のように傅いていた。
会うのはもう数回目だが、やっぱりなんとなく、王様と御妃さまはニムにあまり似ていない。
「お待ちしておりました炎の精霊サラマンダー様、そして巫女様」
「そういうの良い。立って話を聞かせて」
王様と御妃さまは杏奈の声に従ってゆっくりと立ち上がる。
「ほ、炎の巫女ってすごいのね……お店なんて手伝わせて良かったのかしら……?」
「アンちゃん達、結構楽しんでたみたいだから良いのではないですか?」
そんなアイス姉妹の声が後ろから聞こえてくる。
いつもの杏奈だったら顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうにしていただろう。
だけど今の杏奈は王様と御妃様へまるで喧嘩を売るように睨みつけている。
「王様、トカゲ……じゃなくて、炎の精霊サラマンダ―様の代わりに、巫女として聞く。ニムに何があったの? リヴァイアって何なの?」
「陛下、ここは私から」
声を上げたのはユウ団長だった。分からない
ユウ団長は凛然と杏奈と王様たちの間に立つ。
「これからする話は、ここだけに留めてほしい。もしも他のものが、私が今から話すことを口にしたならば、例え巫女様であろうとも死罪は免れません。もちろん、グリモワールの皆様もです。宜しいですね?」
「分かった。約束する。シャギも、オウバもそれで良いね?」
杏奈が聞くとアイス姉妹や、ミキオ、ウィンドも真剣な顔つきで頷き返す。
一瞬、広い王座の間が静寂に包まれる。
「ニム=シュターゼン第三皇女殿下は、シュターゼンの実子ではありません。あの方こそ、十七年前に海底遺跡より発見されたリヴァイアの遺児、水の精霊ウンディーネの魂を宿す、水の巫女です」
そうしてユウ団長の口から出てきたのは、予想通りだが訳の分からない言葉であった。
「なに、それ冗談?」
杏奈の言葉を受けても、ユウ団長は全く動じた様子を見せなかった。
「冗談で、こんなことは申し上げられません。順を追って説明いたします」
――話は今から十七年前まで遡る。
ある日、シュターゼン国の南方に突如として”海底遺跡”が現われた。
一千年前、滅亡し、海底に没したという【水の国リヴァイア】
伝承に記された特徴と合致したその遺跡を調査するため、シュターゼンは学士隊とその護衛として、近衛副団長であったユウ=サンダーを派遣する。
数多の罠と、シュターゼンの民が苦手とする無数の水属性モンスター。
学士隊は壊滅し、唯一生き残ったユウは、遺跡の最深部に達する。
その棺の中には、青い髪を持つ、生まれたばかりの赤ん坊が収められていたのだった。
その赤ん坊こそ、後に【ニム=シュターゼン】と名付けられた、第三皇女のことである。
「水の国リヴァイアは我がシュターゼンとは反属性。復活をしてしまえば、シュターゼンとの争いは避けて通れません。そこで国王陛下と御妃様の案により、遺跡で見つかった子供を実子とし、監視下に置くこととしました。全ては起こりうる戦乱を未然に防ぐため。これが姫様の真実でございます」
ユウ団長の話を聞いて、俺もみんなもただ唖然としていた。
「なーんだか、急に突拍子もない話で俄かに信じらんないな?」
ミキオはみんなの気持ちを代弁するようにそう言い、
「だけど、現に皇女殿下は水のモンスターを使って襲い掛かってきたんだ。信じるしかねぇだろうよ。第一、このシャドウだって迷宮で発見された古代の装備品だろ?」
ウィンドがそういうと、鞘に収まるシャドウが柄にはまる宝石を明滅させる。
「オレはそうらしいが、当時の記憶は無い。しかしオレという存在があるのなら、第三皇女殿下のことも、真実として受け止めるほかあるまい」
「……」
「姉さま……」
オウバは僅かに歯噛みをしていたシャギの肩を抱く。
ガロンドの言い放ったことが本当ならば、遺跡の最後の扉を開けたのはシャギに他ならない。
「シャギは悪くない」
「でも……」
杏奈の言葉を受けても、自責の念に囚われているシャギは元気なさげに事はを紡ぐ。
「巫女様のおっしゃる通りです。私は近衛兵団長でありなが姫様に水属性の力を行使させ、姫様をリヴァイアの手から守り切れませんでした。リヴァイアの末裔が存在し、復活を狙っていたなど夢にも思っておりませんでした。全ては我々シュターゼンが、亡国のリヴァイアを伝承の存在だと軽んじていた結果に他なりません」
それでも、この中では誰よりも責任感が強そうなシャギは納得した様子を見せない。
ここは迷える民を、炎の精霊として勇気づけるべきか。
そう思って俺が動き出そうとした時のこと。
後ろの二枚扉が激しく開いて、俺達は一斉に踵を返す。
そこには肩で息をするシュターゼンの兵士の姿が。
「リヴァイアの軍勢が、南方の水がめへ侵攻を開始しました! 湖畔警備隊は全滅です!」




