白閃光と機工剣士
「貴方が炎の精霊サラマンダ―様ですね。俺は【ミキオ=マツカタ】! 冒険者をやってます! シャギ達がいつもお世話になってます!」
銀髪でローブを身に纏った青年は、モンスターの死骸から飛び降りて、恭しく傅く。
「オイラはウィンドっす! お初にお目にかかります、精霊様!」
探検家風の少年も膝を突いて挨拶をしてきた。
もの凄い好印象で、もの凄いイケメンな彼等に、ちょっとたじろいだ俺は、
「あっ、良いよ! そういうの!」
「えっ? い、良いんすか!?」
ミキオは鳩が豆鉄砲をといった具合にきょとんとしている。
「あ、ああ! 俺はそんなに心の狭い精霊じゃないしな! なはは」
「そういって貰えてありがとうございます! 聞いてた通り、気さくな精霊様ですね!」
ミキオは立ち上がり笑顔を浮かべた。
やっぱり、凄く印象の良い好青年だと思った。あの手厳しいシャギが惚れるのも分からなくもない。
「どうしたんですか? 俺の顔に何かついてます?」
「いや、君が噂のミキオ君だったと……」
「あー、聞いてます? 俺がシャギの彼氏ってこと!」
「な、なにこんな時冗談言ってんのよ! 幼馴染で仲間! ただそれだけなんだから!」
シャギは顔を真っ赤に染めて、尻尾をゆらゆら揺らしながら、必死な様子で叫ぶ。言葉とは裏腹に喜んでいるっぽい。
「えー、シャギ、そんな冷たい。もう俺たち、しっかりと繋がりあった仲でしょ?」
「ただパーティー”長期契約”を結んだだけじゃない! 誤解を招くような言い方しないで!」
「で、その誤解って、どんな?」
「あ、ああ! え、えっとぉ……」
(あの手厳しいシャギが一方的に! 恐るべし、ミキオ=マツカタ!!)
「姉さま? ミキオさんに助けていただいて、そんな冷たい言い方はないんじゃないでしょうか?」
そうぴしゃりと言い放ったオウバは、探検家風の背の小さな少年の腕にしっかり抱き着いていた。
「もしかしてその人がウィンド君?」
杏奈が聞くと、
「そうだよ! オウバのとっての大事な人! ねっ?」
「あ、お、おう! そ、そうだ精霊様! こいつの挨拶忘れてました!」
ウィンドは腰に差していた、妙にゴテゴテしている短剣を抜いて見せてくる。
なんか戦隊ヒーローものに出てきそうな、ヒロイックだけどちょっとダークネスなデザインだ。
『拝謁賜り、光栄至極に存じます精霊様。オレは機工剣”シャドウ”』
「うわぁっ! 喋った!」
思わず驚く俺へウィンドは「すんません!」と丁寧に謝罪をしてくれる。
「よくぞ馳せ参じてくれた、白閃光! 機工剣士!」
ユウ団長が言葉を贈る。どうやら白閃光がミキオの、機工剣士がウィンドの異名らしい。ちょっとカッコいいと思う俺だった。
「こちらこそ、王家直々にご依頼してくださってありがとうございます! 祖国シュターゼンのため、精一杯働かせていただきます!」
ユウ団長の賛辞に、白閃光ことミキオは快活に答えた。そうして、ずっと俺の後ろでぶるぶる震えている杏奈へ近づく。
「初めまして。君が炎の巫女、焔 杏奈さんだよね? ミキオ=マツカタです! いつもシャギとオウバがお世話になってます」
「あ、あ、あ……!」
「杏奈、大丈夫よ。ミキオはチャラチャラした見た目だけど安心していいわ。てか、杏奈に何かしたら私がぶっ殺すから安心してね。挽肉にしてやるから! 勿論杏奈以外でもなんかしたら、お尻から串刺しにしてやるから」
シャギの無茶苦茶厳しい言葉に、ミキオは苦笑いを浮かべる。
しかし男性恐怖症な杏奈は、俺の後ろから出てこない。
「オイラはウィンド! 杏奈さん、オウバんといっつも仲良くしてくれてありがとな!」
「アンちゃん、ウィンド君は大丈夫だから出ておいでよ!」
みんなの親しげな言葉が杏奈の震えを少し弱めたような気がした。
「ほら、杏奈。大丈夫だから」
「トカゲ……」
ダメ押しで、杏奈の手を握る。
すると杏奈の震えがさらに弱まった。
杏奈は俺の背中から離れ、つま先を震わせながらも、自分で一歩を踏み出す。
「あ、あ、えっと……ほ、焔 杏奈ですっ! よ、宜しくお願いします!」
きっちり90度の最敬礼。おかげで杏奈の胸がポインと振れたが、ミキオとウィンドは気にした様子を見せなかった。
「さぁ、皆さん、挨拶はそこまでです! 来ますよ!」
ユウ団長の一声で、俺達は一様に表情を引き締め、周囲へ意識を向ける。
俺達を取り囲むように、新しいゲルコマンドやサハギン、建物の向こうからは巨大な蟹のモンスターが戦車のように迫ってきている。
「んじゃ一番槍は行かせてもらうぜぇー!」
「てめぇ、ミキオ! 抜け駆けすんな!!」
ミキオが先陣を切って、ウィンドが追って飛ぶ。
「加速増幅!」
そんな声がミキオから上がると、彼が異名通りの白閃光に包まれた。
地面の上を激しく走る白い流星は、並み居るサハギンやゲルコマンドを、某無双ゲームのように爽快に吹っ飛ばす。
「シャドウ! 機工変更 駆逐!」
『承知! 敵を全て、駆逐、駆逐、駆逐!」
ウィンドが短剣を構え、短剣自身が随分熱っぽい叫びを挙げた。
するとウィンドが突き出した短剣から光線のような光の帯が無数に迸る。
それは矢の如く飛び、次々と水属性のモンスターを貫いて、文字通り駆逐する。
多勢に無勢のリヴァイアのモンスター達だがバカではないらしい。
サハギンやゲルコマンドはいったん後退を始め、今度は建物よりも遥かに大きな蟹モンスターが全面へ押し出させて来る。
「行くわよ、オウバ!」
「はい、姉さま!」
既に魔力で飛行を開始していたアイス姉妹は三体の巨大蟹モンスターの左右に回っていた。
シャギの稲妻が敵を打ち砕き、オウバが発する岩の剣が足元から蟹のモンスターをすっころばす。
だけど後から後から仲間の個体を踏みつぶしながら、次の蟹モンスターが押し出されてくる。
そんな巨大蟹モンスターの前に立つ一つの影。
ユウ団長は迫る蟹モンスターの大群を鋭い眼光で睨み、腰に差した剣の柄を強く握りしめている。
そして団長の鋭い瞳が”カッ”と光ったように見えた。
「魔法剣四の太刀! 地斬疾駆!」
剣を地面へ激しく打ち付ければ、叫んだ時の如く、地面が割れた。
割れが走るように伸び、押し寄せる巨大モンスター群をまとめて吹き飛ばし、固い甲羅を割った。
「みんな、こーい!」
「グォォォ―!」
「グオォォォン!!」
その隙に俺は”属性召喚”でグレーターグリフォンと八体のイフリートを呼び出す。
俺の眷属達は一斉に転げた蟹モンスターや、辺りに居るサハギンやゲルコマンドへ向けて猛火を吐き出す。
さすがに反属性であっても、灼熱の炎は敵を焦がし、瓦礫の上へ激しい炎を燃えがらせた。
「杏奈、行くよ!」
「うん!」
俺と杏奈はしっかりと手をつなぎ、そして心を重ね合わせた。
「「ソウルリンク!!」」
眷属が巻き起こした業火が立ち上り、生き物のようなうねりをみせる。紅蓮の炎が俺と杏奈を飲みこみ、心も体も結びつけた。
やがて炎は強靭な翼に、鋭い爪を持つ前足に、灼熱の炎を吐きだす鎌首を形作る。
「GAAAA!!」
久方ぶりにファイヤードレイクに変化した俺は、咆哮を上げた。
反属性のリヴァイアのモンスターも怯み、顕現した炎の絶対強者を唖然と見上げるのみ。
「ひゅー。噂通り壮観だねぇ」
ミキオのそんな感想を耳にしつつ、俺は巨大な翼をはばたかせ、大空へ舞い上がった。
まず狙うは街を無作為に蹂躙する大型蟹モンスター。
前足の爪を一千万度の熱で真っ赤に発光させた。
激しい熱を伴った爪は、硬いカニの甲羅をあっさりと溶断し、真っ二つに切り裂く。そして沸き起こったなんともこんがりとした香ばしい香り。
溶断したカニへ鎌首を伸ばし、鋭い牙でガブリ!
(な、なんてうま味だ! 当にカニ! これこそカニ! やっぱりカニはただ焼くだけに限る! 最高だぁ!)
『トカゲ! まわり!!』
カニをほふほふ食べている中、杏奈の真剣な叫びが響く。
んしょと首を巡らせてみれば、サハギンがナイフのような腕に着く鋭い鰭で俺の鱗を叩き、ゲルコマンドは高圧洗車のような水鉄砲を一生懸命放っている。
だけどこれこそ焼け石に水。
真っ赤な鱗には傷一つ付かないし、水鉄砲はじゅわっと蒸気を上げるだけ。
でも、ウザい。正直、食事の邪魔!
俺は口を開いて空気を飲み、喉の奥に宿る紅蓮の炎を激しく燃え上がらせる。
その時、俺の頭上をたくさんの大きな影が過った。
「皆のものひけぇー! 爆撃が始まるぞ!」
ユウ団長の指示が飛んだ。
兵たちは救助者を連れて、ぞろぞろと街の外へと出て行く。
空を舞うっていたのは鎧を装備した兵士に操舵された無数の飛龍。
炎の国シュターゼンが誇る精鋭部隊”竜騎兵隊”だ。
『なるべく家屋に被害は出すな! 爆撃開始!』
隊長の指示が飛び、飛龍は前足に掴んでいた黒い塊を離し始めた。
塊は巨大なカニモンスターへぶつかると、花火のように炸裂し、甲羅を爆散させる。
良く訓練された精霊部隊の兵たちは、家屋の間や、広場を狙って爆撃をし、リヴァイアの水属性モンスターのみを殲滅してゆく。
「GAAA!!」(よーし、仕上げのお掃除だ。杏奈、行くよ!)
『うん!』
俺は爆撃で撃破し損ねた蟹モンスターへ向けて飛び立つ。
「精霊様だけに苦労させるのはアレだね!」
俺を見上げたミキオはそう口にし、
「ミキオの言う通りね。これだけの数、報酬が楽しみだわ。ねぇ、オウバ?」
「はい姉さま! お金ざっくざくです! うふふ……」
アイス姉妹は尻尾をピンと立てながら、嬉々とした様子で答える。
「オイラ達の恐ろしさ、たっぷりと教えてやろうぜシャドウ!」
『承知! 敵は全ては駆逐、破壊、殲滅!』
ウィンドは短剣を構えて、その短剣は物騒な言葉を連呼していた。
「いくぜ! グリモワール、レディ――アタックっ!」
なんだかリーダーっぽいミキオはカッコよくそう叫んだ。
そうしてカッコよく続いてゆくアイス姉妹に、ウィンドと剣のシャドウ。
『新しい日アサ? 何レンジャー?』
「杏奈、それもダメ」
妙にそういうことに詳しい杏奈に注意しつつ、俺はカニのモンスターをふみ潰し、屠る。
敵は反属性だったけども、総力では勝る俺たち炎の軍勢は、上陸したしたリヴァイアのモンスター軍団を全滅させるのに、さほど時間はかからなかったのだった。




