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第三皇女の正体。そして危機


 ところ代わって、大陸を統べる炎の国”シュターゼン”は平穏無事であった。

ついこの間まで、五貴族末席ブルー家のマリオンに支配されていたなどもはや過去。城下は穏やかな日常を謳歌する民草で溢れていた。

国の中心であるシュターゼンの城もまた例外無く、穏やかな空気に包まれていた。


 そんなのだから回廊を行き交う衛兵も、警備とは名ばかりでゆったりとした歩調でブラブラと歩いている始末。そんなのだから外套を頭からすっぽりかぶった第三皇女の”ニム”がサッと背後を過っても全く気が付く気配を見せない。

 勿論、ニムの音を立てない足捌きと、小柄な体を活かした瞬発力があってこその結果なのだが。


 ゆるゆるな空気感な城の中をニムは軽快に駆けて行く。

城と外を隔てる高い城門の上には衛兵がいるも、やはりのんびりとした歩調で警備していて全く緊張が感じられない。


(みんな緩み過ぎだよなぁ……。まぁ、平和だから仕方ないんだろけど)


 ニムはそんなことを考えながら城門へ鍵縄をかけた。

 小柄な身体を活かして、トントンとリズミカルに縄を伝って城門をよじ登ってゆく。


 最後に勢いを付けて前転宙返りをして、城門を飛び越え、目の前の林へ駆けて行く。


「どこへ行かれるおつもりですか? 姫様?」

「げぇ!?」


 高いの木の上から凛とした声が聞こえ、ニムは勢い余って尻餅をついた。

ニムの前に音もなく、すらっとした影が舞い降りる。

ニムの従者で、近衛兵団長のユウ=サンダーが行く手を塞いでいた。


「精霊様と巫女様のところへですね? どうしてお声掛け下さらなかったのですか?」

「い、いやぁ、だって、ユウいっつも忙しそうだし、悪いかなぁって……」


 ニムは外套を取って答えた。

 立っているだけでも一瞬の隙もないユウへは、素直に言った方が良いと判断した結果だった。


「なにを仰いますか。姫様の御そばにいることこそ私の真の役目。精霊様と巫女様へお会いするのは公務といっても差し支えありません」

「そ、そうだよね? あはは!」

「勿論――その他の公務を御片付けになって、さらに学士殿から頂戴した課題を片付けたうえで、ですがね」

「あはは! やっぱ、そうだよね?」


 ユウは全部お見通しの様子だった。もうこうなっては諦めるしかない。

ニムがそう思ったその時だった。


「ッ!」


 突然目の前のユウの雰囲気が戦士のソレに代わり、ニムへ突っ込んできた。


「わわっ! なに……えっ!?」


 ニムはユウに抱えられて高く飛ぶ。

 さっきまでニムが立っていた所には長槍が鋭く突き刺さり、まるで鎚で叩いたかのように地面がえぐられている。


「無礼者! 貴様、第三皇女殿下ニム=シュターゼン様と知っての狼藉か!」


 着地したユウはニムの前に立ち塞がり、腰元の剣へ手を回す。


 砂煙の中にゆらりと人影が浮かび上がる。


 煙の中から現れたのは水着のような鎧に、長柄の槍を持った、長い髪の女戦士アマゾネスだった。


「先日アイス姉妹の店に現れたものだな?」

「その説は主様が大変お世話になりました。私は【テフ】 主様の命により、第三皇女様を頂きに参りました」


 女戦士アマゾネスのテフは、穏やかな声音で丁寧に答える。

だがユウのように一瞬の隙もない。

ただ立っているだけにも関わらず凛とした気迫がニムの肌を滑り、背筋を凍らせる。相手はユウと互角か、それ以上の手練れ。

ニムの薄い胸の奥にある心臓が、不安にかられて潰れそうな痛みに襲われる。


「ユ、ユウ……」

「大丈夫です、姫様。貴方は私が守ります。例えこの命に代えても!」

「参りますッ!」


 テフは槍の柄と引き締まった足で地面を蹴った。

応じるようにユウもまた地を蹴る。


「「はぁっ!!」」


 互いの気合の籠った叫びが響いた。

テフは突きを繰り出すが、ユウは身を屈めて避け、剣を打ち上げる。

しかしテフはすぐさま槍を引き、横に構えてユウの切り上げを槍の柄で受け止める。


「やるな」


 ユウは刃の間からテフを睨み、


「ありがとうございます。リーチの差を身のこなしで埋め合わせる……サンダー様も相当な御手前とお見受けします!」


 ユウとテフは仕切り直しと言わんばかりに互いに後ろへ飛び退いた。


 そして再び始まる槍と剣の激しい打ち合い。


 森の緑の中に無数の赤い火花が散って、甲高い剣戟音が絶え間なく鳴り響く。

打ち合いが起こる度に火花と剣戟の間隔が短くなってゆく。

 加速し続ける猛者の真剣勝負は、周りの世界を置いてけぼりにして、二人だけの世界を形作る。


 事態を見守るニムの青い瞳は既にユウとテフの動きを追えてはおらず、ただ赤い火花が見え、甲高い剣戟が鼓膜を揺さぶるだけだった。


「魔法剣二の太刀! 電光雷撃剣!」


 剣の刃に紫電を纏わせるユウの姿が一瞬だけ見えた。

刹那、長槍が水しぶきを上げながら、ユウの剣を突き、狙いを放つ。


「大技は隙多し。サンダー様、私を見くびって貰っては困ります」


 テフは槍でユウの剣を打ち上げていた。


「一つ、質問をします。先日、炎の国の第三皇女であらせられるニム殿下が、何故あれほど強い水属性の魔法が行使できたのですか?」

「――ッ!?」


 テフの声の質問が聞こえ、ユウが息を飲む。


「その反応、やはり」

「き、貴様! 何者……っ!?」


 テフの姿が消え、ユウの身体がよろめいた。

ユウの背後を取ったテフは、の柄を思い切り凪ぐ。


 槍で激しく殴打されたユウは地面に叩きつけられ、ピクリとも反応を示さなくなった。


「ユウ!」


――このままではユウが死んでしまう。


 そう思ったニムは無我夢中で走った。

 物心ついた時からユウは常にニムの傍に居てくれた。

公務で忙しい王と妃に代わって、ずっと傍で見守り続けてくれた彼女。

 時に厳しく、時に優しく、国を追われた時も、そして今日まで片時も離れず傍に居てくれた彼女。

 このままみすみす、ユウを殺されてなるものか。


 そんなニムの前へ、テフが降り立ち、槍を構えた。


「わぁぁぁー!」

「いいでしょう。少し遊んで差し上げます」


 ニムは無我夢中で腰から二振りの短剣を逆手に抜いて、遮二無二テフへ切りかかる。

 しかしテフは緩やかな動作でニムの斬撃を受け流す。


「正確な太刀筋に、良い動きです。それに王族らしからぬ、鬼気迫る闘争心。敬服いたします」


 テフはそう淡々とニムを評した。動きも緩慢で、完全に舐められていると感じた。


「ファイヤダート!」


 ニムは短剣を振りつつ、必死に腕に回した魔力を解放し、炎の鋭く小さな矢を放った。

テフは緩やかに首を動かし、矢を避けて見せる。

 水のように青く長い髪を散らすどころから、焦がすことさえもできなかった。


「はぁっ!」


 テフの気合の声がニムを竦ませる。



「あ、くわぁぁぁーっ!」


 槍の柄がニムの腹を穿ち、くの時に折り曲げた。

 ニムは地面の上をボールのように何回も跳ねて、やがて倒れ伏す。


「しかし幾ら訓練しようとも貴方様は生粋の戦士ではありません。私のように生まれながらにして戦いを宿命づけられた者には到底及びません」


 テフは流暢に言葉を紡ぎつつ、ニムへ歩み寄る。

 ニムは必死に立ち上がろうとした。しかし激しく殴打されたためか、身体が痺れ四肢に一切力が入ら無かった。

おまけに緩やかだが確実に意識が霞み始めている始末。


「ひ、姫様ぁ……!」


 そんな中に見えたのは必死にニムへ手を伸ばすユウの姿。

そして彼女を完全に無視し、ゆっくりと歩み寄ってくる女戦士アマゾネスのテフ。


「さぁ、参りましょう。貴方様が本来いるべきところへ」

「い、いるべきところ……?」


 テフはニムの問いに答えず、手を伸ばしてきた。


「時は満ちました! 今こそ主様と私の悲願――【水の国リヴァイア】復活の時!」


 テフの言葉を最後にニムの意識は途切れる。


 必死に手を伸ばす、ユウの姿を瞼に焼き付けて。


*ご案内


このような展開で且つ、更新は遅めですがきちんとオチはあります。

現在最後の戦いと、エピローグを残すのみの状況です。話数換算で三話程度です。

脱稿し次第、更新ペースを上げてまいります。


何卒ご容赦のほどをよろしくお願い申し上げます。

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