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最深部守護者アクアゴーレム


「やったわ! ここが海底遺跡の最深部みたいよ!」


 シャギは水晶玉に視線を落として叫ぶ。


 目の前にはよくわからない文字がびっしり刻まれた立派で大きな扉。

後ろには泉があってどことなく荘厳な空気を感じる。

 俺もなんとなくここが”海底遺跡”の最深部なんじゃないかと思う。

 たぶんこれって、精霊としての勘ってやつなのかもしれない。


「ねぇ、杏奈」


 俺は杏奈の肩の上で聞くと、


「うん。このパターンってさ」

「だよねぇ……」

「姉さま、アンちゃん!」


 オウバが悲鳴に似た声を上げた。

揃って踵を返すと、泉から何本もの水柱が雫をまき散らしながら激しく上がってた。


 水柱は蛇用にうねって絡み合い、見上げるほど大きな人型を作ってゆく。

そして泉に水で形作られた”巨人”が姿を現す。



*鑑定結果


【名称】:アクアゴーレム

【属性】:水

【種族】:巨神

【概要】:リヴァイア神殿の守り神。開幕早々のメイルストロムにはご注意を!



(うわっ! これって、やばいパターンじゃん!)



 もう既にアクアゴーレムの腕では水が渦を巻いていた。


「杏奈! みんなになんでも良いから全力で防御魔法を! 対策なしだと開幕ワンパンパターン!」

「みんな! 危険! なんでも良いから防御魔法を!」

「「ッ!?」」」



 巨大なアクアゴーレムは腕を振り落とす。

そして、竜巻のような激しい激流が俺達を飲み込もうと突き進む。



「ファイヤーウォール!」

「「プロテクション!!」」


 杏奈は炎の壁を、アイス姉妹は妖艶な輝きを帯びたガラスのような面を発生させた。


 アクアゴーレムの放った激流――メイルストロムは一瞬、杏奈たちの張った防御魔法に防がれて左右に分かれた。

しかし水は炎さえもかき消し、輝く壁さえも打ち破る。

俺たち四人はあえなく激流に飲み込まれ、盛大に吹っ飛ばされたのだった。


「み、みんな無事……?」


 シャギはよろよろと立ち上がり、


「は、はい、なんとか……!」


 近くにいたオウバもなんとかしのぎ切ったようだった。


「ううっ……」

「杏奈! 起きてよ、杏奈ぁ!」


 俺は気を失っている杏奈のほっぺを、尻尾でぺちぺち叩く。

 すぐに杏奈も目覚めて、起き上がる。


 幸い開幕ワンパンは防げたようだった。


 だけど戦いはむしろこれからが本番!


「アースソード!」


 オウバは得意の地属性魔法を放ち、アクアゴーレムを足元から岩の剣で突き刺す。

 一瞬、ゴーレムの巨体が揺らいだが、特に目立った効果は無いように見えた。

可もなく不可も無く。

すると、既に脇に回ったシャギが、腕に紫電を纏わせて高く飛ぶ。


「サンダーッ!」

「ヌンッ!?」


 紫の稲妻が垂直に走り、アクアゴーレムが一瞬、野太い声を上げた。

これは当たり。やっぱり水には電気らしい。


「GAA!!」


 俺はファイヤーボールを杏奈の肩の上から放った。

 杖を召喚した杏奈は杖をバットのように構える。


「すぃーんぐっ!」


 カキーンっ! と軽快な音を響かせながら、ファイヤーボールが野球ボールのように打ち上がる。

火球は矢のように飛んで、アクアゴーレムの頭にぶつかり、激しい炎を上げた。

 頭が吹っ飛んで、水蒸気に変わったのだが――胴体からすぐに水が沸いて、頭をあっという間に再生してしまう。


 予想通り大外れ。耐性は装備のお陰で何とかなっているけど、攻撃はてんでダメなようだ。


 アクアゴーレムが忌々しそうに振り落としてきた拳を、杏奈は跳躍で回避する。

幾ら炎の精霊とその巫女でも、この戦いではただのお荷物らしい。


 それでも唯一、抜群の効果を発揮しているシャギの魔法が少しで当たるように、足元で暴れたりはしていた。


「ああ、もう! なんで稲妻しか効かないのよ! 疲れるじゃない!」

「姉さま、怒らないで! 無駄に力を消費します!」


 シャギとオウバは、なんとかゴーレムの攻撃を回避しつつ、魔法を放ち続けている。

だけど段々と疲れの色も伺えて、このままではただの消耗戦だと思った。


(この世界はゲームっぽい設定はあるけど、ちゃんと食べたり、飲んだりできるし、物理法則は前の世界となんも変わんないし。なんか上手い手は無いかな……?)


 杏奈の肩の上で特にやることのない俺は、必死にしがみつきつつ、そんなことを考えていた。


(普通に考えれば火は水で消えちゃうよな……あれ、待てよ? 水は火を消しちゃうけども……! そうだ、これだ!)


「なに?」


 俺は杏奈の肩を尻尾でぺちぺち叩いて呼ぶ。


「あのさ、ゴーレムを倒すとっても良いアイディアが浮かんだんだ! 今からいうことをシャギとオウバにも伝えて貰える?」

「わかった!」


 俺は伝心で即興で思いついた作戦を杏奈へ伝える。

 杏奈も「それ、面白そう!」と乗ってくれ、早速近くにいたオウバのところへ向かう。

丁度ゴーレムはシャギとのじゃれ合いに夢中で、オウバは手空きな様子だった。


「ねぇ、オウバ、トカゲからの伝言!」


 杏奈はごにょごにょとオウバへ伝える。


「あっ! それ良いかも! さすが精霊様だね」

「うん! シャギにも伝えて来るから少し宜しく!」

「わかったよ!」


 杏奈はアクアゴーレムへ稲妻を放ち続けているシャギのところへ駆けて行く。

そんな杏奈の後ろでオウバは激しく魔力を燃やす。

彼女の足元に、まるで炎みたいに激しい白色の輝きが迸った。


「オウバの本気、いっくよー! アースブレイドッ!」


 オウバの放った魔力が地面を走り、杏奈を横切る。


「わっ!?」

「ぬん!」


 ドンッ! という強い音と共に、いつも以上に太くて鋭い”岩の剣”が生えた。

剣は対峙していたシャギとアクアゴーレムを分断する。


「い、いきなりなにすんのよ! 危ないじゃない!」


 シャギは猫の尻尾をクルンと丸めて、眉間に皺を寄せてブチ切れる。

そんなシャギへすかさず近づいた杏奈は、俺のアイディアをシャギへ伝えた。


「へぇ~……それ良いじゃない。うふふ……」


 シャギはすごく愉快そうに不敵な笑みを浮かべる。

やっぱりこの子、怖いし、敵役をやれっていわれたら絶対に似合うと思う俺だった。


「じゃあ、予定通りに!」

「まっかせなさい!」


 シャギはオウバへ向かっていったアクアゴーレムのところまで飛んで行く。


「サンダーッ!」

「ぬんっ!?」


 シャギの稲妻がアクアゴーレムを怯ませ、


「ウィンドスネーク!」


 オウバの腕から言葉通り蛇にようにうねる”風”が発生した。


 風はアクアゴーレムを飲み込み、その場へくぎ付けにする。


「行くわよ、オウバ!」

「はい、姉さま!」


 シャギとオウバは同時に飛び、そして左右から魔力が籠った腕を翳す。


「「プロテクション!!」」


 黒と白に輝く障壁が、丁度L字型に発生した。

それは瞬時に重なりあって、中へアクアゴーレムを封じる。

 水の巨神は半透明の長方形の中で身動きを封じられた。



「いっくよ、杏奈ぁー!」

「うん!」

「「おああああああぁぁぁぁ!!」」


 俺と杏奈は心を一つに、心を燃やす。

火属性の力の根源――それは強い感情。

 アクアゴーレムを一緒に倒したいという強い共通認識。


 それは真っ赤な炎となって現れ、俺達を包み込む。


「いっくぞぉ!」

「うん!」


 杏奈が飛び、俺は彼女の肩の上から炎を吐いた。

炎でロケットのように打ちあがった杏奈は、障壁に閉じ込められらたアクアゴーレムまで一直線に飛んで行く。


「私の拳が真っ赤に輝くぅっ! ボスキャラ倒せとトカゲが叫ぶ!」


 そして杏奈の拳に巫女の証――”炎を纏った蜥蜴”の紋章が浮かび、光輝く。


「ひぃぃぃっさつ、ぱぁぁぁんち!」


 綺麗なストレートパンチが、アクアゴーレムを取り囲む障壁へ穴を開けた。


「トカゲ!」

「はいよー」


 杏奈は拳を引き抜き、俺は肩から飛んだ。

尻尾をなんとか穴の淵に引っ掛けて、よいしょよいしょとよじ登る。

そして穴から顔だけを出した。


「さぁ! ぐつぐつ沸かしてやるぜ! GAAAAAA!!」

「ぬん!?」


 俺は障壁の中へ紅蓮の炎を吐き出した。

炎はゴーレムの水に触れてモクモクと白い蒸気を上げ始める。


 アクアゴーレムは強いけど、所詮は水の塊。

水は炎を消してしまうけど、逆に水は蒸発して体積が1700倍にも膨らむ。

だけどもシャギとオウバが作った障壁空間はさっき、杏奈の拳が作った小さな穴以外存在しない。

 しかもそこは、炎の精霊でだけあって無限に炎が吐ける俺が塞いでいる。


 次第にアクアゴーレムがお日様に照らされた雪だるまのように溶けて、期待へ変わってゆく。やがて障壁の中が水蒸気で一杯になった。


「ぬぅぅぅぅーーん!」


 ”ドンッ!”とという音と共に障壁が内側から爆発し、激しい爆風が巻き起こる。


 爆発寸前に飛び退いた俺は宙から吹っ飛んだアクアゴーレムを見て、ちろりと舌を覗かせる。


(水蒸気爆発大成功! ひゃっほーい!)


 俺は飛んできたアクアゴーレムの破片をパクリ、もぐもぐ。


 爽やかな酸味と磯の香り――これは、もずく酢! さっぱりしてて美味!


 そうして俺は、下で待ってくれていた杏奈の肩の上へ綺麗にぺたりと着地するのだった。


「トカゲ!」

「やったね!」


 尻尾と掌のハイタッチがパチンと、軽快な音を響かせた。



「派手にぶっ壊したわね。貴重な遺跡が……」


 シャギは苦笑いを浮かべつつ、周囲を見渡す。

遺跡の壁には至るところに皹が浮かんでいた。

 目前にあった大きな扉も盛大に吹き飛んで、ぼんやりとした闇を晒している。



「良いじゃないですか姉さま。しょせんここはガロンドさんの狩場なのですから」


 と、オウバはにこやかにそういった。

シャギは不敵な笑みを浮かべて、


「そうね、そうよね」

「「うふふふ……ざまぁ、ねぇな! あははは!!」」


 アイス姉妹の悪そうな笑い声が響き渡った。

やっぱりこの子達、超怖い。


「さぁ! お宝ゲットしに行くわよ!」

「アンちゃん、精霊様早く早く!」


 アイス姉妹は崩れた扉の奥へ進んでゆく。


 杏奈は俺を肩に乗せたまま、胸をぽいんぽいんと揺らしながら続くのだった。


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