秘宝眠る海底神殿
「サラマンドラさん、あの建材をこっちへ」
「は、はいぃ!」
シャギの普通の声を聞いても背筋が伸びちゃう俺は、一応この国の守り神で炎の精霊サラマンダーの蜥蜴人形態。
彼女の指示通り、立派な筋肉のついた腕を生かして、重そうな丸太をひょいと脇に抱える。
そし職人さんのところへ持って行けば、ただの丸太は魔法にかかったみたいに建材へと早変わりしてゆく。
先日の火事で一階部分がすっかり燃えてしまった魔法道具専門店グリモワール。
だけど職人さんたちの頑張りもあって、焼け跡はすっかりなくなって真新しい骨組みが組みあがりつつある。
お店を燃やしちゃった罰として、切られた俺の尻尾は相当なレアアイテムだったらしく、店を再建するのに十分な金額になったそうな。
「いらっしゃい、こんなところでごめんなさいね。でも商品は相変わらず一級品よ!」
シャギは店先にテントを張って、魔法道具の販売を行っている。
立派な店構えはなくともお客さんは絶えない。
やっぱりシャギの販売する魔法道具は彼女が言う通り一級品なんだと思う。
(はやく店を元通りに直してシャギたちに楽に商売をして貰わないと!)
店を燃やしてしまった当事者として、一日でも早く店を再建しようと、俺は荷物を運んで、時には職人さんたちにやり方を教わりながら作業を手伝って行く。
「トカゲ、シャギ!」
「みなさんご飯の時間ですよ~」
杏奈とオウバが昼食を乗せた荷車を引いてくる。
相変わらず四つの胸は今日もたたわわにポインポインと揺れている。
その度に職人さんたちは鼻の下を伸ばしたり、拝んだりして、そしてシャギに睨まれて短い悲鳴を上げるのだった。
青空の下で始まったお昼ごはん。
バスケットを開くと、ハムとチーズ、そしてトマトっぽいものの薄切りが挟まったサンドイッチが現われた。
「いっただきまーす! あむ!」
パンがさくっと音を立て、芳醇で甘い香りがふわりと立ち昇る。
挟んであるスライスチーズも程よく溶けていて、濃厚なミルクの味わいが口の中一杯に広がった。
トマトの優しい酸味が味わい全体を引き締めて骨格を形作る。
「美味しい?」
「旨い! さすが杏奈! しゃぁー!」
「パンを焼くアイディアはアンちゃんのなんですよ? 凄いですよね」
オウバに褒められて、杏奈は顔を赤らめた。
でも満更じゃない様子。
前なら凄く動揺していたと思う。
(カフェの仕事が杏奈のためになったんだなぁ)
そんな感慨深い気持ちで、俺はサンドイッチを屠り続けた。
「ねぇ、みんな、そろそろ採集に向かわないかしら?」
昼食もひと段落してお茶を飲んでいる時、シャギは声を上げた。
「良いですね。お店もこんな状況ですし、いいタイミングかもですね」
「採集って、もしかして魔法道具の素材の?」
杏奈の問いにシャギは「ええ、その通りよ」と答えた。
「じゃあどこへ採集に向かいましょうか?」
「勿論、”海底遺跡”よ!」
「でも姉さま、このタイミングで遺跡に行くのはマズいのではないですか?」
「マズくなんかないわ。むしろあえてよ!」
「どういうこと?」
杏奈と俺は揃って首を傾げる。
「海底遺跡はたくさんの魔法道具の素材が眠っているんだけど、あの辺りはガロンド=ホエールさんの縄張りなんですよ」
ガロンド=ホエール――あいつらがシャギたちのお店で騒ぎを起こさなければ、こんなことにはならなかった。
勿論、お店を燃やしちゃったのは俺にも責任があるけど、そもそもガロンドたちにも責任はある。
だけど今のところ、彼らからの明確な謝罪は無い。
「良いじゃない。この間、あいつらが暴れたせいでお店が燃えちゃったんだから。今度は逆にあっちの縄張りを滅茶苦茶に荒して、倍返ししてやるのよ」
「あら、姉さま、それは名案です!」
「オウバもそう思うわよね?」
「ええ! うふふ」
「くふふふ……目にものみせてやる、ガロンドの野郎……!」
シャギとオウバから邪悪な気配が醸し出され、俺と杏奈は背筋を凍らせるのだた。
(たぶん、シャギたちがこういうことするからアイツ、むかついてるんだろうな……まぁでも目には目を、歯には歯をだよなぁ)
「食事中、失礼いたします」
その時凛とした声が響き、俺達は揃って顔を上げる。
「あら、テフさんこんにちは。お店を壊そうたって、まだ直っていないわよ?」
シャギは明らかに敵意をむき出しに、水着のようなビキニアーマーに、長槍を携えたガロンドの側近テフに言葉をぶつける。
するとテフは槍を握りしめた。
そして身構える俺たちの前で、槍を地面へ突き立てた。
代わりに腰袋から一通の書簡を取り出し、シャギへ差し出す。
「遅れて申し訳ございません。これは主様からの詫び状です。今日は多忙な主様の代理人として来ました」
「ふーん。珍しいじゃない」
シャギは書簡を受け取り、目を通す。
シャギの口がへの字に曲がった。
「これはどういう風の吹き回し?」
「主様は先日の非礼を詫びていらっしゃいます。それは謝罪の意思の表れと思って頂きたく思います」
「姉さま、何が?」
シャギが見せてきた書簡には文字がびっしり書き込まれ、ガロンドのものらしい赤い刻印が打たれている。
内容を要約すると「先日の謝罪。そしてお詫びとして彼の縄張りである”海底遺跡”でのアイテム最終を一週間自由に行わせる」といったことが記載されていたのだった。
「これって本当に本物なわけ?」
破格の条件にシャギは首を傾げる。
「トカゲ!」
「おう! シャギ、ちょっと借りて良い? 筆跡鑑定してみるから」
「筆跡鑑定?」
「トカゲの鑑定能力は凄い! きっと大丈夫!」
シャギから書簡を受け取り、さっそく鑑定能力を発動させる。
視界の中で書簡に文字が一字ずつ、素早く光り輝いて行く。
*鑑定結果
【これはガロンド=ホエールの筆跡に間違いなし! 刻印も間違いないですよ~】
(もうなんだか、この鑑定能力って別人格だよなぁ)
そんな感想を抱きつつ、鑑定結果をシャギへ伝える。
「テフさん、じゃあありがたくこの書状は頂くわ。ガロンドさんにも宜しく伝えておいて」
「承りました。あとこれも持って行くってくださいと主様より仰せつかっております」
更にテフは蒼いスーパーボールくらいの大きさの宝玉を差し出した。
「これには我らが知りうる限りの海底遺跡の地図が記録されています」
「気前良いのね? だからこれで手打ちにと?」
「そうしてもらえるとありがたいです。先日はこちらもやり過ぎました。主様に代わり平に謝罪いたします」
テフは深く頭を下げる。
「謝罪は確かに受け取ったわ。ならこれからは仲良くやって行きましょう、とガロンドさんに伝えてください」
「寛大な御心に感謝いたしますシャギ=アイスさん。では私はこれにて」
テフはもう一度頭を下げて、踵を返し、去ってゆく。
こうして俺たちは”海底遺跡”へ魔法道具の素材集めに向かうのだった。




