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営業再開! 魔法道具専門店グリモワール


「オウバ! カレー三丁あがった!」


 杏奈はできたてほやほやのカレーをキッチンからカウンターへ置くと、


「りょーかい!」


 オウバがひょいひょいとトレンチへ器用にカレーの皿を置く。

 足元に浮遊魔法を施しているオウバは床の上を走るよりも早く滑り、器用にテーブルの間を縫って客席へ飛んで行く。


「おまたせしましたぁ! アンちゃん特製グリモワールカレーの、辛口、大辛、超辛になりまーす!」

「オウバちゃん、こっちも注文をー!」

「はーい、ただいまー!」


 営業を再開したアイス姉妹の経営する”魔法道具専門店グリモワール”のカフェスペースは既に満席になっていた。

先日の討伐任務での宣伝が物凄くあったらしい。営業再開初日にも関わらず、大盛況な様子だった。


「オウバ、スイーツお願い!」

「はーい! じゃあホール宜しく!」


 キッチンの杏奈とホールのオウバはハイタッチして入れ替わる。

 杏奈はエプロンをぎゅっと占めて、ホールへと出て行く。

エプロンで締め付けているにも関わらず、杏奈の大きな胸が、勢いでポインと揺れた。


「「「おお~!!」」」


 客席の一部から思わず歓声が上がり、エロい視線が幾つも発生する。


「なぁ、あの子の胸最高だな」

「杏奈ちゃんだっけ? いいなぁ、あんなこと一発やってみたいぜ」

「おい、お前声かけて見ろよ」

「お客様」



 と、杏奈を見てあんまり好ましくない会話をしてい冒険者のテーブルへ、わざとドスの利いた声を落としたのは、何を隠そう俺。

炎の精霊サラマンダーを偽り、今は蜥蜴人リザードマンのサラマンドラだ。


「「「ひぃっ!!」」」


 見た目が結構怖い俺に、お客の一党は、引きつった声を上げる。


「そういう目はまだ仕方ないとして、卑猥な会話はしちゃいけないね。ここは食事を楽しむところなんだからさぁ?」

「す、すみません……」


(やれやれ、これで大人しくなるだろう)


 これがグリモワールでシャギは与えた俺への仕事だった。

 いわゆる、用心棒っていうやつだ。


 それでもやっぱり杏奈のことが心配で視線を傾けると、


「お、おコーヒーと、お水です!」


 杏奈は顔を真っ赤にしながらも一生懸命配膳をしていた。

お客さんも良い人が割と多いのか「頑張って!」と応援してくれている。

時には杏奈が作ったカレーが美味しかったという評判も。


 杏奈も嬉し恥ずかしといった具合に、笑顔で受け答えている。

 最初は杏奈にカフェの仕事ができるのかと心配だったが、杞憂だったようだ。


「サラマンドラさーん、姉さまのところから香辛料貰ってきていただけますかー!」

「あ、はーい」


 カウンターにいるオウバの要請に応じて、俺はそそくさとカフェスペースの奥にある、魔法道具販売所へ向かって行く。


「良い? 一日三回までよ? それ以上使うと、愛しの彼がただのケダモノになっちゃうから気を付けてね。まっ、そういう趣味があるのなら止めないけども。うふふ……」


カフェの奥にある、ちょっと妖しげな部屋でシャギは、怪しげな小瓶に入った薬の説明をしていた。


 他にも禍々しい十字架や、宝玉、髑髏に、蜥蜴の干物といった怪しげなアイテムがずらりと並び、それらを多くのお客さんが真剣に選んでいる。

 シャギの魔法道具販売スペースも大盛況な様子だった。


「シャギー」

「で、このアイテムはね……」

「あのー! オウバから香辛料を頼まれて―」

「うっさいわねぇ、分かってるわよ。貴方の後ろ! 赤い小瓶!」

「あっ、はい! すみません!」


 俺はさっさと小瓶を爪の生えた手で握り、そそくさとその場を跡にする。

 シャギはお客さんへ「ごめんなさいね」と謝って、また商品の説明を始めていた。


(俺、一応炎の精霊だよな? この国の守り神みたいなもんだよな……?)


 でも別に四六時中崇め奉られたいわけじゃない。

それになんとなくシャギはきついけど、可愛いからまぁ良いか。

と、思ってしまう俺はドMなんだろうか。


「サラマンドラさーん! お水運んで―!」

「トカゲ! カレーも!」

「あ、はい! ただいまー」


 忙しくしているオウバと杏奈の要請を受けて、俺もホール係として飛び回る。

身体がちょっと大きくて歩きづらいが、そこは体に染みつけた動きでフォロー。

人間の頃、飲食でアルバイトをしていて本当に良かったと思った。


「すっごい混んでるね」

「さすがですね。カレーも……うむ、相変わらず旨い」

「むぅ……で、でも私の方が美味しいんだからぁ!」

「ふふ、そうですね。そういうことにしておきましょう」

「もう! だから私の作ったカレーの方が美味しんだからぁ!」


 どこからか聞き覚えのあるような声が店の隅っこから聞こえて来る。ローブを頭からすっぽり被った怪しげな二人組が、ひそひそと何かを話しながらカレーを食べている。

 用心棒として一応警戒しておこうと思った。


「相変わらず薄汚い店じゃない」


 今度は入口の方から好ましくない声が聞こえてきた。


 声の主はワカメみたいな長いもじゃもじゃの髪の毛を生やした中肉中背の男だった。

顔色が異様に白く、雰囲気もどこか陰湿。

だけど目だけが刃物のように異様にぎらついている。

 その男の取り巻きも、お世辞にも良い客とは言えない、危険な雰囲気を醸し出している。


「あら、いらっしゃいませ【ガロンド】さん」


 しかしホールに出ていたオウバは、臆することなく異様な男――ガロンドを笑顔で迎える。


「久しぶりだね、オウバ=アイスさん。お店の再開おめでとうじゃない」

「いえいえ」

「今日はお客として来てやったじゃない」

「それはどうもありがとうございます。ご案内しますねー」


 オウバは100%接客スマイルで、ガロンド一味をホールの一番奥にある大きなテーブルに通す。

 他の客とはなるべく距離を置いているようにみえた。


「オウバ、あの人は?」


 俺はガロンド一味に警戒しつつ、戻ってきたオウバに聞く。


「あの方は【ガロンド=ホエール】さん。この辺りで私たちと同じ魔法道具専門店をやってる商売人さんですよ」

「商売敵って奴か?」

「うん。でも、お客で来たのだったら断る訳にも行かないから……」


 オウバはガロンドや他のお客さんに見えないよう苦笑いを浮かべる。

どうやら本心はガロンドとやらの来店を、好んでは無いらしい。


「何かあったら俺が出る。オウバと杏奈は店の運営に専念してくれ」

「ありがとうございます、精霊様。何もないことを祈りましょう」


 俺はホール係として料理を配膳し、時に無用に騒ぐお客を用心棒としてけん制しつつ、ホールの奥に陣取るガロンド一味を警戒し続ける。


 やがてオウバがガロンド一味へカレーを配膳し、そそくさとその場を去る。

 

 横目にガロンドの不気味な薄ら笑いが映り混む。

 一味の一人が、硬そうな小石のようなものをカレーに入れ、それを匙ですくって口へ運んだ。


「いってぇ!」

「どうたんじゃない!?」


 一味が大きな声を上げ、ガロンドがわざとらしく叫ぶ。


「飯に石がぁ! 歯が折れちまいましたぜ、旦那!」

「それは酷い! 作ったやつ、すぐ出て来るじゃない!! 責任取るじゃない!!」


 一瞬で明るかった店の空気が冷め、シンと静まり返る。

 キッチンでカレーを作っていた杏奈は寝耳に水で唖然としていた。

それまで穏やかな表情で接客をしたオウバが眉間に皺を寄せて、舌打ちをし、ガロンド一味のテーブルへ踵を返す。


「言いがかりは良くないね。俺、アンタたちがカレーに小石をいれるの見てたぜ?」


 しかし誰よりも早く、ガロンド一味のテーブルの前に立った俺は事実をぶつけた。


「お前がこのカレーを作ったシェフかい?」


 ガロンドはにやけながら、行儀悪く、匙でカレーの皿を何度もたたく。


「俺はこの店の用心を頼まれたものだ。アンタの連れがカレーに小石を入れるところを目撃したんだ。いいがかりは止めろ」

「この店は自分たちのミスを、客のミスだって言うのかい? それって酷いんじゃない?」


 一味はカエルのようにゲラゲラと笑いだす。

 俺の胸に怒りの炎が沸き起こる。いちゃもんを、しかも杏奈が丹精込めて作ったものなんだから、黙っていられない。


「御代は結構だ。さっさと帰ってくれ。あんた達がいると店の空気が悪くなる」

「今度は出てけと? 随分上から目線じゃない?」

「いい加減にしろ! お前等の悪事は全部お見通しだ! お前等こそ杏奈に謝れ! 今すぐにだ!!」


 勢いで本音が飛び出て、店中に響き渡る。

すると、何故かガロンド一味は揃って不気味な笑みを浮かべた。


「んだとこのぉ! 黙って聞いてりゃガタガタと蜥蜴人風情がっ!」


 一味の一人がガンと机を蹴り上げ、飛ぶように立ち上がる。

 鋭い拳が突き進んでくるが、熱感知スキルが反応し、半身を引くだけで回避する。


「お前等やっちまうじゃない!」


 ガロンドの指示が飛び、一味が一斉に腰元の剣を抜いて、飛びかかってくる。


(こいつら、ここでる気か!?)


 さすがに予想外だった俺は動揺しつつも、熱感知スキルで一味の繰り出す斬撃を交わす。


 外れた剣戟はテーブルを叩き割り、椅子をなぎ倒して、食器をバリバリと割る。


 グリモワールのカフェスペースは一瞬で騒然とし、他のお客は我先に逃げようと、入口へ殺到し始める。


「えいえいえーい! しずまれーい! 皆の者しずまれぇー! 控えおろう!」


 と、突然喧騒を切り裂いたのは、どこかで聞いたことのある凛とした声だった。

その鐘のような重みのある声に、ガロンドを含くめ、全員が言われた通り静まり返る。


 そんな中に現れたのは、店の隅っこで食事をしていた怪しげなローブ姿の二人組。


「お前等、何者じゃない?」


 ガロンドが忌々し気な視線を飛ばすと、二人組はローブを脱ぎ捨てた。

その下から現れたのは!


「このお方をどなたと心得る! 恐れ多くもシュターゼン国第三皇女で且つ、先のマリオン大戦での英雄【ニム=シュターゼン】殿下であらせられるぞ! 皆の者頭がたかぁーい! 控えおろう!」

「そ、そうだ! ニム=シュターゼンだぞっ!! 偉いんだぞっ!」


 何故かそこにはユウ団長がいて、ニムがえっへんと云った具合に胸を張っている。

 そうしても相変わらずニムはまな板胸なのだった。


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