双子魔導士姉妹との再会
「可愛くない……」
杏奈は凄く不満そうに唇を尖らせた。
「しょうがないだろ。たぶんこの方が良いと思うからさ……」
小さなトカゲから、言葉でコミュニケーションが取れる、筋骨隆々な蜥蜴人に変身した俺は重そうな扉を押し開けた。
シュターゼン国の城下町をぐるりと囲む外壁の近く。
外界との丁度境目に立派な石造りの”ギルド集会場”があった。
俺と杏奈は冒険者デビューをするべく、ギルド集会場へ冒険者登録をするために訪れる。
予想通りそこは屈強そうな男女ががやがやとひしめき合っていた。
「ッ……!」
杏奈は少し顔を曇らせる。
俺はさりげなく杏奈を隠すように前に立った。
「ト、トカゲ……」
「ほら、言った通りでしょ? 俺の背中に隠れて」
「うん。ありがと……」
後ろの杏奈に気遣いつつ、ゆっくりと歩き出す。
杏奈の立派なメロンが俺の背中でむにゅんと潰れ、更にぽいんぽいんと揺れ出す。
その度に注がれる、鼻の下を伸ばした男性冒険者たちの視線。
正直、杏奈の胸が背中にあたって俺も内心ドキドキしている。
が、それでは彼女を明らかに視姦している連中と同じだ。
「ひぃっ!」
杏奈を視姦する不貞な輩は、ギロリとトカゲの目で睨んで追い払う。
(きっと杏奈は昔からこういうことされてたんだ。だけど、今は俺がいる! 俺が守ってみせる!)
胸のドキドキを堪えつつ、俺は平生を装って、杏奈と一緒に受付カウンターへ向かって行く。
「よっ! もしかして新人さん? 良かったら俺らと組まないか?」
と、気さくな感じを装ってはいるが、明らかに杏奈の胸に視線が釘付けな冒険者たち。
じゃらじゃらと無意味なアクセサリーをたくさんつけていて、どうみてもチャラい。
「済まないがお引き取り願えないか?」
「別にアンタには聞いてないよ、蜥蜴人のお兄さん? なぁなぁ、どう? 俺らこの辺りじゃ結構名の知れなパーティーだからさ!」
俺を横切って冒険者は杏奈の手を無理やりつかんだ。
「ッ……! いやっ!」
杏奈は明らか否定の声を上げて、冒険者の手を払いのける。
「んだよ、この女……調子に乗りやがって!」
カルシウムが足り無さそうな冒険者は態度を一変させ、暴言を吐く。
熱感知のスキルが、相手の体温の上昇を感知する。
けっこう怒ってるっぽい。
(まったく……荒事はしたくないけど!)
俺は更に背中で杏奈を隠し、腕の爪を僅かに伸ばす。
「なんだよ、蜥蜴人。糞女を守る騎士気どりかよ?」
「黙れ。それ以上暴言を吐くと容赦しないぞ」
「んだと、このぉ! 」
「あなた達、少しうるさいわよ。黙りなさい」
立ち込めた一触即発の空気を、集会場に響いた凛とした声が引き裂く。
「姉さまの仰る通りですっ。お茶がまずくなりますっ!」
次いでよく似ているが、どこか丸みを帯びた声。
しかし明らかな怒りが感じられる。
途端、さっきまで調子に乗っていたチャラい冒険者が顔を引きつらせた。
「げっ!? ア、アイス姉妹!!」
目の前に現れたのは、ちょっと前に一緒に戦った猫耳の姉妹魔導士。
確か黒い衣装の方が姉の”シャギ”で、白い衣装の方が妹の”オウバ”だったけか?
「依頼もロクに受注せず、ナンパばかりに精を出す名前だけの冒険者をどう思う、オウバ?」
姉のシャギはそう聞き、
「最低ですね、姉さま。こんなお馬鹿さんたちのせいで、オウバが楽しんでいたお茶も冷めてしまいました。この落とし前、どうつけて貰いましょうか?」
可愛い声でに鋭い冷酷さを含ませつつ、妹のオウバが応える。
黒と白の魔導士姉妹から、魔力が炎のように浮かび上がる。
「「さぁ、どうしますか? 身体で払っていただいても構いませんよ、Dランク冒険者の皆様? うふふ……」」
「す、すいませんでしたぁー!」
チャラい冒険者一党は、情けない声を上げながらギルド集会場から退散する。
少し迷惑そうにしていた他の冒険者も、問題が片付けば、無関心に戻る。
杏奈へのエロい視線も、アイス姉妹が近くにいることで、殆ど無くなった。
「ひさしぶりね、杏奈さん、精霊さ……」
「しーっ!」
俺は慌ててシャギへ人差し指を立てた。
きちんと空気を呼んでくれたシャギは口をふさぐ。
「わけあって今の俺は赤き蜥蜴人の、サラマンドラ。杏奈は炎の見習い魔導士! あとで事情は話すから! 言葉も気さくに頼む!」
「? ……ま、まぁ、そういうことなら遠慮なく……」
「と、いうことはお二人は冒険者登録に来たってところですよね?」
妹のオウバも察しが良く、聞いてくる。
「ああ、その通りだ」
「なら手伝うわ」
「行きましょう!」
俺と杏奈はアイス姉妹に先導されて、受付カウンターへ進む。
アイス姉妹が歩く度、まるで十戒のように冒険者の波が開いて、道を開けて行く。
「あの……す、凄いんですか? お二人共……?」
「一応、周りから見ればそうみたいなんだ。オウバは恥ずかしいからこういうの嫌ですけどね」
結構人見知りな杏奈に、オウバは気さくに答えた。
(そんなに凄いのか? ちょっと鑑定してみよっと!)
*鑑定結果
【名前】シャギ=アイス
【種族】亜人
【職業】魔導師
【属性】闇
【概要】至高のSランク冒険者。シュターゼン国主催魔法大会で三年連続優勝している。闇魔法と雷魔法を得意とする。胸は形の良いDカップ。双子なのにこの差、どうしてこうなった!?
【名前】オウバ=アイス
【種族】亜人
【職業】魔導師
【属性】光
【概要】至高のSランク冒険者。シャギの双子の妹。姉とペアで魔法大会で優勝している。光魔法と大地魔法を得意とする。胸は姉よりも張りのあるJカップ! 杏奈のKカップと合わせれば、JK! 至宝である。
(なんだか随分とハイテンションで欲望まみれな鑑定結果だなぁ。てか、杏奈Kカップもあるんだ……恐ろしや鑑定能力)
俺はオウバと杏奈の大きな胸に気を惹かれつつ、二人に並ぶととても気の毒なシャギの指示に従って、受付カウンターでいろいろと個人情報を記入してゆく。
といっても、記入している情報は、全部ユウ団長の手引きで用意して貰った架空のものばかり。
嘘を書くのはちょっと気が引けたが、これも精霊と巫女というのを忍んで、一回の冒険者となるには必要なこと。
そういうわけで、
【登録名】サラマンドラ
【種族】蜥蜴人
【職業】戦士
【ギルドランク】E
【登録名】アンナ
【種族】人間
【職業】魔導師
【ギルドランク】E
そんな文字が浮かび上がる小さなカードの様なものを貰って、俺と杏奈はあっさりと登録を済ませるのだった。
「二人とも、スマジは知ってる?」
「「スマジ?」」
シャギの良くわからない単語に、俺と杏奈は声を揃えて首を傾げる。
「スマートマジック、略してスマジ!」
シャギはまるで石板で出来たスマートフォンみたいなものを見せてくる。
「この石板はね、色んな魔法を記録して、使うことができるの。いまじゃギルドの登録証も、コレに記録できるの。おまけにスマジには離れたところにいてもスマジ同士で会話ができる魔法が刻まれてるからすっごく便利! はやく持つことをお勧めするわ!」
「姉さまの造るスマジは凄く性能が良いですからおすすめですよ!」
どうやらアイス姉妹は自分たちが作っているという”スマジ”をお勧めしてくれているらしい。
「これってスマホ?」
「だよな」
「? トカゲ何でスマホ知ってるの?」
とついうっかり杏奈の言葉を拾ってしまった。
「あ、ああ、いや! コホン、俺は炎の精霊だ! 世俗のことは何でも知っている! なはは……」
「ふーん」
「ほ、本当だから!」
「まぁ、何でもいいけど」
「ところでお二人はこれからどうするおつもりですか?」
オウバが聞いてきたので、とりあえず登録して、先のことはその後に考えようとしていたと解答する。
すると、シャギの黒い猫耳がぴくんと震えた。
「じゃあさ、とりあえず家に来ない? スマジも欲しければ渡せるし!」
「二人の家にか?」
俺の言葉にシャギはにっこり笑顔で頷いた。
「私たち、お店をやってるの! もしよかったらお二人に手伝ってほしいなって!」
●年内の更新は以上かなぁ。できたらしますが……




