サラマンダーと杏奈旅立つ!
「じゃあそろそろ行こうか?」
「うん!」
「あ、あのさ……」
「?」
「肩に乗せない?」
何故か俺は、艶のある瑞々しい肌に囲まれて、というか挟まれていた。
杏奈の立派な胸が作り出す、とっても深い谷間に挟まれて上半身だけを出している今の俺は、体長30センチ程度の真っ赤なトカゲ。
炎を司る精霊サラマンダー、ということらしい。
「だってこの方が安全。それにトカゲを一番傍で感じられる」
「そ、そりゃそうだけど……」
「いや……?」
まるで誘うような声に、俺の小さな心臓がドクンと鼓動を放つ。
俺の相棒で、炎の巫女としてこのファンタジー風の世界に転移されてきたJK魔法使いの焔 杏奈ちゃんは、胸をほんのちょっとキュっと結んで柔らかい圧力をかけてきた。
「い、いやじゃないけどさ……うん」
「じゃあ良いよね?」
「……はぁ……わかった、杏奈の好きにして良いよ」
「やった!」
杏奈はご機嫌な様子で笑って、俺を谷間に挟んだまま、大きな二つの立派な胸をぽいんぽいんと揺らしながら、進んでゆく。
城内の回廊で、女の人とすれ違えば微笑ましそうな笑顔を送られ、男の人は一様鼻の下を伸ばす。
男の人が苦手な杏奈だったが、こうして俺が胸にはさまていると大丈夫らしい。
(まぁ良いや、杏奈が嬉しいなら)
正直なところ、俺も可愛い女の子に挟んでもらえて満更じゃない。
むしろ地上の楽園! 俺だけに許された絶好の特等席!
「お世話になりました」
城門を出た杏奈は、守衛へ律義に頭を下げる。
お固そうな守衛さんも、盛大に晒されている杏奈の胸に耳を赤く染めつつも平気を装って会釈を返してきた。
「杏奈~!! まってぇ~!!」
と、後ろから明らかに寂しそうな甲高い声が響き渡ってくる。
杏奈が踵を返すと、俺のクリクリ瞳がまるで人形みたいに可愛らしい、青い髪と瞳の胸がまな板な第三皇女様を映した。
救国の英雄で、炎の国シュターゼン国の第三皇女様――ニム=シュターゼンは従者で、この国最強の女戦士:ユウ=サンダー近衛騎士団長と一緒にかけて来る。
「なにかよう、ニム?」
杏奈は肩で息をするニムへのんびりとした声音で聞く。
「ほ、本当にいっちゃうの……?」
ニムは青い瞳にうっすらと涙を浮かべながら、少し身長の高い杏奈を見上げた。
「うん」
「で、でも、別に”冒険者”にならなくても良いじゃん! ここだったら杏奈は炎の巫女なんだし、どっかへ行きたいなら、幾らでも飛竜を用意するし、住むところだってあるし! それに、えっと、あとはぁ!」
すると杏奈はそう早口でまくし立てるニムへ、首を横へ振った。
「トカゲとわたし、もっとこの世界のこと知りたい。だからこれがベスト」
ニムの言う通り、シュターゼンの御城に居れば生活に困ることは無い。
だけど俺も杏奈も、この国にとっては”信仰の証”で、おいそれとでかけるなんてもっての他だった。
そんな中、色んな兵隊さんは従者さんに聞いた”冒険者”という職業に俺と杏奈は心惹かれた。
幸い、俺たちの姿は、テレビとかが無いこの世界では公の場に出るか、自ら名乗らなければ、基本的にわからないらしい。
異世界転生で定番の”ギルド”もあるようだ。
その手の話でも共通している俺と杏奈は、窮屈な御城での生活よりも、このファンタジー風の世界を広く知れる冒険者を選択し、今に至る。
「姫様、もはやお二人を御停めすることはできません。精霊様と巫女の選択に、我々下賤のものが口を挟んではなりません」
「そっか……」
ユウの言葉にニムは本当に残念そうに肩を落とす。
すると杏奈はいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「寂しい?」
「ッ! そ、そんなことないもん! 別に杏奈がいなくなって寂しくないんだからね!」
すると杏奈はニムの手を握った。
「大丈夫。少ししたら帰るから。だから待ってて」
「杏奈……」
「泣いても良いよ?」
「ば、ばっかじゃないの!? べ、別に杏奈なんていなくても寂しくないんだから!」
サラマンダ―とユウはほっこりした顏で杏奈とニムのやり取りを見ている。
まるでお母さんか、歳の離れた本当のお姉さんのようだった。
「じゃあ行ってくる!」
「はっ! 姫様とシュターゼンはこのユウ=サンダーにお任せください!」
「いってらっしゃい精霊様、杏奈! いつでも帰りを待ってるからね!」
俺とと杏奈は、世話になったニムとユウ、そしてシュターゼンの立派な御城に背を向けて旅に出る。
この世界のことをもっとよく知るために!




