第97話 焼きスパゲッティ
【ダイダルウェイブ】によって押し流されていったモンスターたちは、そのままHPを全損させていく。
しかしゴブ蔵の放つ攻撃魔法は闇属性だ。明らかなアンデッドモンスターのオーラを放っている骸骨のモンスターには通じずピンピンしているようだ。
ゲージが表示されていないので、感覚でしかわからないのだけど、むしろHPを回復させてしまった疑惑すらある。
しかし周囲のモンスターが消えたことで、無防備になった骸骨を複数のプレイヤーたちが狙い定める。
矢に弾丸に魔法にミサイル、投射攻撃の嵐が中空を駆け抜けて骸骨に命中していく。
しかし骸骨はそんな数々の攻撃を意に介さず高く腕を振りかざした。また闇の球体!?そう思わず身をこわばらせたのだけど、今度の行動は違った。
骸骨が掲げたと同時に大量のアンデッドモンスターが現れたのだ。いや——正確に言うならばそれは召喚魔法ではない。
先ほど倒した連中と明らかな共通点のあるスケルトンやゾンビが、さらに多い軍勢となって再臨する。恐らくはこれまでに倒したすべてのモンスターが転生させられたのだ。
モンスターたちは雪崩のように城塞に向けて進軍する。明日香さんたち、前線の攻撃役がそれを抑え込もうとするけれど、先ほどとは数の圧が違う。槍を持った【スケルトンリザードマン】が明日香さんを複数体で取り囲んで連携し、逃げ場を塞ぎつつ剣を振るう。
《SANチェック》で隙を作ろうとする彼女だったが、圧倒的な数の利で恐怖の感情は大幅に軽減されており、行動を阻害されることなく明日香さんのHPを全損させた。
ゆうたさんは【アームズスイッチ】によって銃を切り替え、地面に向けて放ち、その衝撃で大きく跳躍して空中からモンスターを掃討し始める。だが【スケルトンドラゴン】の猛毒の息をその身に受け、【ホームリターン】で砦に退却してくる。
「借りるぞ!そしておまえら——巻き込むぜェ?」
そして不利な状況を悟った帝王龍さんは再び【『クロノス』】で時間を停止し、【パーティストレージ】から1本の杖を取り出して振るう。それは、ボクの対軍団戦特化の杖だ。
「【チェインボム】!」
帝王龍さんが杖を振るうとモンスターが爆発し、派手に連鎖を続けていく。
20体や30体を巻き込めば相当な威力に跳ね上がるスキルだ。これほどの大群を巻き込んだ時の威力は計り知れない。
その圧倒的な威力はモンスターたちどころか、多くのプレイヤーまで巻き込んで一瞬にして消滅させた。
残ったのはボクのような炎属性に対する抵抗力を持つプレイヤーだけ。杖を振るった帝王龍さん自身も死亡してしまっている。
それでも最適と呼べる選択肢だっただろう。あの骸骨のボスモンスターも間違いなく消滅している。
「ほら、返しとくぜ」
そして先ほど消えたばかりの帝王龍さんがいつの間にか隣にいて、杖を手渡してきた。【ホームリターン】で戻ってきたらしい。
「さすがですね。自分のアイテムなのに頭からすっぽ抜けてましたよ」
「これ以降も数で攻めてくるようなら【チェインボム】だけで立ち回れんだろうが……どうかねェ?」
「案外、第三陣はなくてこれで終わりかもしれませんよ?」
もちろんそんなわけはない。当たり前のように再び魔法陣が発生し、砦の前方にモンスターが出現する。
そしてやはり都合よくはいかないらしい。今回現れた魔法陣の数はたった3つ。強力なボスモンスターが現れるのだろう。魔法陣の出現に合わせて一番奥に現れたモンスターに【メテオ】を落としたが、たやすく受け止められてしまった。
【メテオ】を受け止めたモンスターは、ぷにぷにとした体をうねらせながらゆっくりと前進する巨大な軟体モンスター、スライム。濃い緑色をしており、いかにも毒があるように見えるが、正式名称は不明なので詳しいことはわからない。
そしてスライムのすぐ前には、ふわふわと浮遊する大きな皿が2枚。その上には細長い小麦粉でできた物体が無造作に盛りつけられており、そのあからさまな形状からモンスターの名前をすぐに確信できた。
「【空飛ぶスパゲッティ・モンスター】だ!」
「【空飛ぶスパゲッティ・モンスター】って普通にスパゲッティが空を飛んでるやつだったっけ?」
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>弱そう
>勝ったな。風呂入ってくる
>田んぼの様子を見てくるわ
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多くのプレイヤーはただ呆然と観察しているだけだったが、即座に行動に移るプレイヤーもいた。【空飛ぶスパゲッティ・モンスター】に対して【ナイト】のプレイヤーが接近し、切り込みに行く。初見のモンスターに対して勇気あるプレイング、尊敬できますね。
そんな勇気あるプレイヤーに対して【空飛ぶスパゲッティ・モンスター】は麺を触手のように伸ばして絡め取り——スパゲッティの中に収納してしまう。
「スパゲッティにプレイヤーが食われた!」
「やべえぞ!はやく倒せ!」
「今食べられたけど死ぬかと思ったよ」
「戻ってくるの早いな」
犠牲者はすぐに死に戻ってきたが、恐るべきモンスターであることに変わりはない。我に返った【メイジ】が【カタパルト】を連射してダメージを負わせようとするが、触手を操って撃ち出された岩石のすべてを受け止め、そのまま発動者に投げ返していく。
「接近戦も遠距離戦もダメ、まずいですね♥」
「スパゲッティの方もヤバイけど、スライムもチョベリバだね」
スパゲッティではなくスライムを狙おうとしたプレイヤーが【ブレイズスロアー】や【セイントライトニング】を投げ込んでいるのだけれど、そのすべてを無視してじわじわと前進していく。テトリスさんもスライムに近づいて棍棒を叩き込んでいたのだが、唐突に攻撃を受けてもいないのにバタリとその場に倒れ、そのままスライムに捕食されてしまっていた。
スライムはじりじりとにじり寄ってきているだけだが、スパゲッティは違う。くるくると回転しながら宙を飛翔し、砦まで接近すると、城壁の上にいたプレイヤーを1人ずつ絡め取っては体にしまい込んでいく。
「怖すぎですよ!なにかないんですか!?」
多くのプレイヤーがスパゲッティを迎撃すべく立ち向かってはいるが、その大半が失敗に終わり捕食されてしまっている。
ボクもダメ元で【ソウルフレア】を撃ち込みに行こうか、そう思ったとき、1人の男が動いた。
女性プレイヤーが触手に絡め取られようとしているその瞬間——。
「《二刀流》!」
〈魂の言葉〉の宣言と共に、黒い衣をその身にまとった男がプレイヤーを襲う無数の触手を一瞬にして切り刻む。切り裂かれた触手の数はおよそ16本。あれは……あのプレイヤーはまさか……!
「悪いな……ここは通行止めだ」
「キリトさん!」
そしてキリトさんが助けたプレイヤーはアスナさん。さすがキリトの名前を冠するプレイヤーですね!
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>対処できるのにアスナが襲われるまで待ち構えていたキリトさん
>かっこいいけどダサい
>出待ちは主人公の特権だぞ
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触手を切断されたスパゲッティモンスターは再び多くの触手を操りキリトさんを狙うが、そのすべてを華麗なる剣さばきによって切り落としていく。
しかし、スパゲッティモンスターは2体いる!1体が苦戦しているのを見かねたもう1体が援護に向かう。まずい、さすがのキリトさんも2体は抑えきれない!
そう判断したボクは【ホームリターン】で砦の上に登り、今まさに触手をキリトさんに向けて伸ばそうとしているスパゲッティを背後から奇襲する!
「«極炎»【ソウルフレア】!」
銀色の炎に焼かれたスパゲッティはボクに反撃しようと触手を振るうが、ボクは即座に【テレポート】で離脱する。入れ替わるように【メイジ】たちの【カタパルト】が再びスパゲッティを襲った。
今度は受け止めきれずにその攻撃をまともに受けてしまうスパゲッティ。さっきは華麗に投げ返していたようだったけれど、さすがに隙を突かれればこんなもの。
さっさと焼きスパゲッティに調理し直してやりましょう!
テクニックその68 『インパクトジャンプ』
地面に攻撃を撃ち込んでその勢いで高くジャンプするテクニックです。〈ロードウィング〉と比べると無限に高度を稼ぐことはできない代わりに隙が少ないテクニックと言えますね。
本来ならばこれを利用するためには物質干渉力の高い攻撃で自身を吹き飛ばす事が必要であり、物質干渉力が高い=吹っ飛びにくさに繋がるので普通に使ってもそこまで距離を稼ぐことができません。
スキルや武器に付随した物質干渉力の高い攻撃を放つ付与効果を利用する必要があるんですよ。ゆうたさんなら【原始流】が該当します。




