第96話 ゾンビアタック
「モンスターが全滅!これで勝利ですの?」
「まだだ。おそらく第二陣が来る!支援を頼む!」
その警告とともに巨大な魔法陣が出現し、モンスターの大群が再び出現する。
先ほどとはモンスターの構成もまるで違う。テトリスさんやおっさんも知らない未見のモンスターたちだ。
なぜならこれまでの【A-YS】プレイヤーは第一陣における圧倒的な数の差によってなすすべもなく全滅していたから。
つまり、ここから先はすべてが未知数の戦いとなる!
「【メテオ】!」
出現したモンスターの大群を目がけてボクは隕石を落とし、他のプレイヤーもさまざまな遠距離スキルを撃ち込む。第二陣になっても基本は変わらない。遠距離から攻撃を叩き込んで封殺する。
接近戦を重視した攻撃役たちはそんな弾幕の嵐を華麗に回避しつつ、HPが削られた敵にとどめを刺していく。特に明日香さんなんかは上空からレーザーを撃ち込みながら戦場に自ら飛び込み、前線にいた超巨大なゴーレムを転ばせて周囲のモンスターを巻き込んだりと奮迅の活躍を見せている。
そんな光景を眺めつつひたすらに攻撃魔法を飛ばしていると、異変が発生した。
軍団の後方に紛れ込むようにして潜んでいたローブを着た骸骨のようなモンスターが、突如として膨大な黒いオーラを放ち始めたのだ。
「まずいぞ!仕留めろ!」
その瞬間、時が止まった。
すべてが灰色に染まった空間の中で、1人の男が走り抜け、空高くジャンプする。そして男が腕を振るうと、大量のミサイルを一斉に射出した。ミサイルは豪速で骸骨のモンスターを狙い撃ちにする。
やがて時が動き出したと同時に、骸骨のモンスターは粉々に破壊された。
さすが【『クロノス』】!相手に何もさせずに蹂躙することにかけては一流ですね!
そのまま【ホームリターン】でこちらに戻ってきた帝王龍さんは戦場を見据えながら舌打ちをする。
「——残念ながら、止められなかったらしいぜェ」
「……そのようですね」
帝王龍さんが粉々に破壊した骨が自然と集まっていき、再びモンスターの姿をかたどっていく光景が目に映る。
やがて完全に再生された骸骨が腕を高く掲げると、上空に超巨大な謎のエネルギーが一瞬にして生み出された。
それは漆黒よりもなお暗い、ありとあらゆる光すべてを飲み込む不気味な球体。16進数で言うならば#000000。限りなく純粋に満ちた黒き力だった。
骨のモンスターが腕を振り下ろすと、黒い球体はボクたちのいる砦を目がけて一直線に放たれる。
「なんだ!あの攻撃は!?ボスモンスターか?」
得体の知れない恐怖を覚えさせるその邪悪な力を前に、城壁に登っていたプレイヤーたちは砦の中に退避し始める。あんなもの、当たったら間違いなく即死だ。ボクも【ホームリターン】で即座に帰還し、建物の中に避難した。
「大丈夫だ。城塞は家だから不壊、あの程度の攻撃は効か」
気がつくと、ボクはダンジョンの外に放り出されていた。
「リスポーンした……?」
あたりを確認すると、ボクだけではない。帝王龍さんやめりぃさん。灑智などあのとき砦にいたプレイヤーのすべてがこの場所に揃っている。
「全滅したんですね……」
念のため今回も【パインサラダ】をつけておいたのだけど、当たり前のように貫通してしまっている。連続ダメージが入ったのだろう。
「【ホームリターン】」
状況を確認して即座に戦場に帰還する。さすがに全滅までは予想していなかったけれど、1度や2度の死亡は想定済み。この程度で挫折するわけにはいかない!
そう、この【ホームリターン】こそが今回の戦いにおける最大のキモ。その名も〈ゾンビリスポーン〉大作戦!
瞬間移動によって50層に一瞬で向かうことができるのならば、あきらめない限り無限に戦いを継続することができる!これぞ、ダンジョンRPGにおける最大最悪のルールブレイカー!
砦に戻り、即座に戦場を確認する。
前線にいたプレイヤーたちはあの攻撃の範囲外だったのだろう。モンスターの大群を押さえ込み、一部のプレイヤーは骸骨のモンスターを仕留めるために軍勢を駆け抜けている。
死亡してしまったからにはまずはゴブ蔵を再召喚しなければならない。そう思い、銃を【ストレージ】から呼び出そうとすると……。
「ゴブー!」
「あれ、生きてたんですか!?」
どうやらあの強力な一撃を受けてなお、ゴブ蔵は生き残ったらしい。闇属性だからだろうか?……と振り返って見てみると、全然違った。元気に返事してるように見えるゴブ蔵だけど、その姿形はまるでスケルトンのごとき白骨状態。
装備による『転生』の効果が発動したのだろう。
暗闇を流離う滅びのイヤリング
・それは闇属性に35%の補正を加える
・それは自身の死亡時に闇属性の追加ダメージを与える
・それはHPが0になったときにアンデッドとして転生させる
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>死んでる……
>めっちゃ元気そうな死体だな
>かわいい
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「そしてもう1つ気づいたのですけど、銃は【ストレージ】に戻ってきているんですよね……〈混沌に仕えし魔の眷属よ、我に従え〉【サモン・ゴブリン】!」
今までは召喚と同時にゴブ蔵の依代である【吸血悪鬼の機関銃】がゴブ蔵の下に移っていたことでゴブリンを2体以上召喚することはできなかった。ゴブ蔵もそこからさらにゴブリンを召喚しようとすることはなかったため、できない仕様なのだと考えていた。
けれどこうして銃が手元に戻ったなら、呼び出すしかないでしょう!
こうして銃のスキルによって新たなゴブリンがこの場に召喚される。おそらくはまったく新しいゴブリンさんが召喚されるのだろう。そう思っていたのだけど……。
「ゴブゴブー!」
ゴ ブ 蔵 が 召 喚 さ れ て し ま っ た 。
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>ゴブ蔵分裂バグやめろ
>うわあああああああああああああああ
>怖すぎる
>草
>フォッダー終わったな
>どうすんだよこれ
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「ゴブー!」
「ゴブゴブ!」
仲良くハイタッチして喜び合うスケルトンゴブ蔵とノーマルゴブ蔵。新しいお友達ができてよかったね。
「さあ、ゴブ蔵たち!【ダイダルウェイブ】で援護してください!」
そして2体のゴブ蔵たちに指示を出したちょうどその時、巨大な闇の球体が砦に落下し、再びHPが全損した。
バトル中に長話してる場合じゃなかったですね。急いで再び【ホームリターン】で砦に戻ると、今度はスケルトンゴブ蔵が2体。
…………スケルトンゴブ蔵は闇属性の適性があるのでしょうか。再び【サモン・ゴブリン】によってゴブ蔵を召喚し、今度は無駄な話をせずに作戦に移らせる。
そして3体のゴブ蔵が放った最強連携【ダイダルウェイブ】が戦場を再び押し流した。
テクニックその66 『ゾンビアタック』
設置したホームに一瞬で戻れるなら何回死んでも関係ないですよね?
もはやゲーム性すらも崩壊させる最悪の〈ホームタクティクス〉。【闘技場】等の対人空間やインスタンスエリアでは活用できませんが、この技術の開発によって【A-YS】はダンジョンRPGとして完全に終わりました。
無限に再挑戦できるなら絶対にいつか勝てますもんね!
テクニックその67 『スワンプマン』
特定のモンスターを1体だけ召喚するタイプのスキルは、モンスターが生存中にさらにモンスターを呼び出すことができません。しかし、アンデッドになっていたなら話は別。すでに固有のモンスターはフィールドから居なくなっている扱いとなり、問答無用で同じ個体をもう1体呼び出せます。
……ゲームですからいいんですけど、自分と全く同じ存在が2体以上同時にいるって怖すぎません?




