第93話 空飛ぶベッド

　戦いを終え、その後の探索ではより注意深く周囲を観察し、罠(トラップ)を見逃さないことに全力を捧げた。

　【パスファインダー】の視点において罠(トラップ)は半透明だ。初期の階層ではそれでも視認できる状態だったのだけど、階を進むごとにだんだんと透明度を増していき、もはやこの階層では背景とほとんど同化していてよくわからないくらいだ。

　それでも地面を凝視するとかすかに違和感を覚えることがあり、そういった場所にはたいてい罠(トラップ)が設置されている。

　だからこそ、ボクはじっと地面を凝視しているのだけど……。

「あの、おねえさま♥もしかして、罠(トラップ)って地面にしかないんですか？」

「今のところは例外なく地面ですね」

「でしたら、飛んでいけばよろしいのでは」

「えっ？」

　というわけで、それからはベッドに乗ってダンジョンを探索することになった。

　灑智が乗っているベッドは意外に広く、6人くらいなら詰めればなんとか同乗できる。ちなみにめりぃさんはゴブ蔵に肩車してもらっている。馬じゃなくても騎乗効果が得られるのか知りたいのだとか。

　そして灑智が呪われた邪悪そうな球をふわふわ宙に浮かせると、それに応じてベッドもふわふわと浮かぶ。そのまま球が前にすーっと進み出すと、それに合わせてベッドもすーっと進んでいった。

　周囲にはいくつもの罠(トラップ)が仕掛けられているのがボクの目には見えるけれど、それを完全にスルーしてダンジョンを進んでいく。一応【マーカー】を付けてみてはいるけれど、そんなのはお構いなしにベッドはまっすぐに最短距離を突き進む。

　行き当たりばったりな発想だったので、途中でモンスターが現れたときはどうしようかと思ったけれど、冷静に考えたら今のメンバーは全員遠距離攻撃の使い手だ。接近しながら、銃と槍、そして魔法の嵐を浴びせ、それから上空のレーザー照射で削っていき、とどめと言わんばかりにそのままベッドごと体当たりしたら難なく倒せた。

「なんなんだろう」

「ベッドすごいですねっ！しかもHPの回復量も凄まじいですしっ！」

　そう、そもそも最初にベッドを装備するという発想に至ったきっかけはHPの自然回復増加にある。結局ぎゅうぎゅう詰めで灑智も含めて横になれてはいないのだけれど、ベッドはそんなの無関係と言わんばかりにHPを補給し続けてくれる。

　まさに最強の移動拠点。〈ファニチャーホーム〉に次ぐ最大最強のアイテムだ。あるいはさらに家要素をくっつけて合体させてもいいかもしれないね。

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>シュールすぎる……

>最高にふざけてるのに普通に強い

>悲しいなあ

>喜べや

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　やがてボス部屋に到達した。ベッドに乗ったまま部屋の中央に近づくと魔法陣が現れ、6体の狼が出現する。ボス部屋は横にも縦にも広いので、せっかくだからベッドの高度を少し上げてみたら攻撃してこなくなった。遠距離攻撃はなかったようだ。

明日香さんがレーザー光線を上空から撃ちまくると、狼たちはアイテムに変化していく。

「なんだこれは。【アブソーブ】の本領を見せる機会がないではないか！！」

　漆黒の翼さんは、ボス部屋に着地してアイテムを拾いながらも、愚痴り始める。

「ごっ、ごめんなさい」

「いや、考えてみれば呪いの装備という新たな着眼点を得ることができた！ダンジョンから出たら買い占めねばなるまいな。ククク……純白の翼をパシらせるか」

「勝手に愚痴って勝手に納得している……」

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>純白の翼ちゃんかわいそう

>次に会ったときには全身呪われた装備になってそう

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　あらゆる罠(トラップ)を無条件で回避できるボクたちにもはや隙はない。灑智のベッドで縦横無尽にダンジョンを駆け抜けて、40層までらくらく到達することができた。

　罠(トラップ)によって山ほどの敵に囲まれてしまえば確かに【レイド】でもないと太刀打ちできないし、とんでもなく広いダンジョン内マップは大規模な探索をしないと到底攻略できない。

　けれど、踏破済みの先行【A-YS】プレイヤーが残した地図やモンスターの情報を足がかりにできるならこんなものだ。

やはり問題はいまだ未攻略の50層。おそらくは30層のように特殊なルールが敷かれたエリアなのだろうけど、この階層の情報はまだwikiに載っていない。

　テトリスさんやおっさんに聞いてみようかな？

　目標としていた40層攻略は無事に達成できたので、ボクたちは街に戻り、【パーティ】を解散してログアウトした。

　そして次の日——。

「あかりちゃんが45層まで突破したよー！」

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>草生える

>さすがですわ

>卍さん出遅れてて草ァ！

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「これは全力ですね♥」

「お姉さまっ！50層に行きましょうっ！」

「それはいいですけれど……。なんでそんなにあかりちゃんさんってすごいんですか？」

　とりあえず例によって動画を見てみることにした。

『あかりちゃん、すごいことに気づいちゃったの！！』

　動画の冒頭で唐突に自信たっぷりの表情で語るあかりちゃんさん。……いったい、何に気づいてしまったというのだろう？

　画期的な戦闘のテクニック？超強力なコンボで相手を一撃で薙ぎ倒せるようになったとか？恐ろしい。あかりちゃんさんはどんな恐ろしいことに気づいてしまったというんだ……。

　昨日の今日で45層までスムーズに到達できるなんて尋常ではない。よほどとてつもないことに気づいてしまったのだろう。

『あかりちゃんが発見した新テクニック。それは……』

　ごくり。

『この家としての判定を持っている【豆腐ハウス】をダンジョンの壁に押し付けるよね？で、【ホームリターン】するよね？すると！！壁をすり抜けられちゃうんだよ！！！』

　あー、ダンジョン探索ゲー、終わっちゃいましたねこれは。

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>壁が薄すぎたな

>迷宮の概念が崩壊した瞬間である。

>トラップの次はついに壁まで無視してダンジョン攻略しだすのか……

>そりゃ壁を無視して最短で進めたら楽勝ですわ。

>A-YS終わったな

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「これは勝てませんね。負けを認めるしかありません」

　そんなこんなでダンジョンの壁をショートカットしてまっすぐ突き進んでいったあかりちゃんは、46層でショートカットした先に群れていたモンスターに囲まれてあえなく沈んでしまっていた。

　探索のスピードは上がってもモンスターの戦闘力には対応できなかったらしい。

「……俺たちは堅実に進んでいくとしよう。50層攻略の話が持ち上がる前にそこまでたどり着ければいいだろう」

　そう決めたボクたちは、堅実にベッドに乗ってダンジョンを移動しながら、じっくりと踏破階層を重ねていく。

　そして月日は流れ、ちょうどボクたちが49層を攻略した頃、テトリスさんが【レギオン】を利用したダンジョンアタックの企画を大々的に発表した。