第87話 リスキル
とっさに最悪の可能性を察知したボクは【テレポート】によって【ライトニングウルフ】の頭上に瞬間移動し、雷の一撃から狼をかばう。
そのまま落下と同時に狼にがっしりとしがみつき、【ソウルフレア】で焼き尽くす!
そして、ボクは【ソウルフレア】のコストを支払えず、HPを全損し——即座に復活した。
「さすが【パインサラダ】。連続攻撃には弱いけれど、やっぱり便利ですね」
死亡時に即座にHP1で蘇生することのできる料理アイテム【パインサラダ】。連続攻撃や吹っ飛ばされた後の地形ダメージなど、なかなか生かせない状況も多いけれど、それでもその効果は強力無比と言うほかない。
ボクは【ファストリカバー】でHPを回復させ、【ホームリターン】ですぐに【聖雷様】との戦いに戻る。
「言い忘れてたけど【ライトニングウルフ】は【聖雷様】の雷を浴びるとチャージされて強化されるから気をつけてね」
「先に言ってくださいよ!!!」
あのタイミングで雷が落ちるとしたらそれしか考えられないとは思ってたけど!
そんな文句を言っている間に【聖雷様】がこちらに手をかざすと、無数の雲が一斉に雷を撃ち出してきた。
ボクはその攻撃をライフで受けつつ、«獄炎»【ブレイズスロアー】を投げ返す。
前線に出ていたおっさんも同じように攻撃を意に介さず特攻を仕掛ける。【エアジャンプ】で【聖雷様】の上を取ると、【ファストチェンジ】によって武器を交換する。その手に現れたのは『10t』の刻印が入った巨大なハンマーだ。真偽は定かでないが、その圧倒的な重量のハンマーが【聖雷様】へと振り下ろされる。
しかし、【聖雷様】は【テレポート】に類似したスキルによって即座におっさんの背後に回り込んで回避すると、おっさんの背中を思い切り蹴飛ばした。
地面に叩きつけられる前に、なんとか【ホームリターン】で自宅の上へ帰還するおっさん。それでも慣性自体は打ち消されないのがゲームの仕様。そのまま、ぐえっとうめき声を上げながら屋根に叩きつけられた。
「【ゴブブゴブブゴブ】!」
と、そこでゴブ蔵のスキルが発動する。水属性の上級魔法、【ミラクルファウンテン】だ。ボクたちの家を中心として地面(あるいは屋根)からキラキラときらめく黒い水が噴射される。
敵と味方を識別する水属性の性質は、当然このスキルにも備わっている。敵に鉄槌を下し、味方を癒やす聖なる水。闇属性に染まってはいるけれど、その効果は健在だ。
雷の魔法で削られたボクたちのHPを大きく回復させ、逆に水しぶきを浴びた【聖雷様】は苦痛に呻く。
そこに灑智が追尾式の槍を凄まじい勢いで投擲して追い打ちをかける。放たれた槍は【聖雷様】を目がけて、まさに弾丸の如き速度で迫りゆく。投げた槍は3本。両手に持っていた2本の槍だけではなく、【ストレージ】からも槍を出して投げたのか。
そして、その槍の速度に追従するように、灑智が空を飛んだ。
「はぁ!?」
ただジャンプをしたわけではない。まるで槍にくくりつけられた見えない紐に引きずられるかのように空を飛んでいるのだ。
「あれ!?助けてーっ!」
などと悲鳴を上げながら、槍に引きずられて【聖雷様】に近づいていく灑智。どうやら灑智も想定外の事態が発生したらしい。
テトリスさんが追いすがるように屋根から助走をつけて跳躍する。
「灑智さん!逆にチャンスだよ!」
「わ、わかりましたっ!」
敵の接近に慌てた【聖雷様】が上空に飛んで避けようとしたものの、槍は無慈悲に【聖雷様】を追尾する。灑智もそれを追いかけていく。
そして【聖雷様】を呪われし槍が貫いた。遅れてガバッと飛びついた灑智がスキルを発動させる。
「【シェアリング】!」
その瞬間、全身から血を吹き出して暴れ出す【聖雷様】。灑智を振り落とそうともがき苦しむが、刺さった槍につながっている今の灑智はなにをやっても離れない。
槍の重量に耐えられないのか、やがてゆっくりと降下していく【聖雷様】と灑智。このままでは落下ダメージは免れない。そう判断したボクは【ストレージ】から巨大な旗を取り出して、灑智に向けて勢いよく振るう。
「【フリーコマンド:シールドコマンド】!」
【ダブル杯】の優勝によって獲得した指揮官型の花形たる【コマンド】スキルを再現するアイテム。それによって灑智の防御力を瞬間的に増加させ、落下ダメージを限りなく抑える!
そして墜落する灑智と【聖雷様】。灑智は思いのほかダメージを受けることはなかったが、【聖雷様】には手痛い一撃だろう。
と思いきや。手痛いダメージどころではなかった。あっけなくHPを全損し、アイテムへと変化していく【聖雷様】。
槍をなんとか引き抜いた灑智は、そのアイテムを拾って【ホームリターン】で屋根の上に戻ってくる。
「やりましたっ!勝ちましたよ!」
30層のボスにしてはあっけない幕引きでしたね。相変わらず背後の通路からモンスターが迫ってきている気配はするのだけど、また妙な即死スキルとか使ってくるのかと思いましたよ。
「30層のボスは2連戦だからね」
そう言いながら部屋の中央に着地するテトリスさん。
「この【パーティ】と装備なら楽勝ピーポーだけどな?」
おっさんがそうつぶやいてテトリスさんに続いて中央まで向かい、何やら罠を仕掛け始める。
やがて、新たな巨大魔法陣が部屋の中央に発生する。それだけではない。今までのボス出現魔法陣とは違い、激しい炎のようなエフェクトが魔法陣の中で燃え盛っており、明らかに先ほどまでの戦いが前座にすぎなかったことを感じさせる。
そしてその炎が一点に集約され、新たなボスモンスターが生まれた。と同時にそのモンスターはおっさんが仕掛けた猛毒付きトラバサミに拘束され、テトリスさんとおっさんが杖と棍棒で生まれたてのモンスターをタコ殴りにしていく。
ボクたちはその有様を見物していた。
やがてボスモンスターらしき何かはあっさりと消滅し、アイテムへと変化した。
ボクは家を回収してめりぃさんと一緒に集団リンチの現場に近づいていく。
「……なんでこんなに弱いんですかね」
「後から出てくるタイプのボスモンスターはエフェクトの出現のタイムラグが大きい。それに一戦目から準備しておけるから出待ちでボコれるんだよね」
能力すら発揮させてもらえずに終わるボスモンスターさん、かわいそう。ゲーム的にはさっきの【聖雷様】は前座だったはずなのに……。
テクニックその57 『呪装備移動法』
装備解除不可の呪い。本来ならば武器のほうが勝手に戻ってくるという形で解除不可である事が示されますが、その呪いのほうがプレイヤーの質量に勝ると、プレイヤー側が武器に引き寄せられます。恐らく2本までなら良かったのですけど、3本目を付けるとこうなってしまうのでしょう。
テクニックその58 『リスキル』
地形嵌めに次ぐ古よりの兵法。相手が生成された瞬間に殴り殺す対人の術です。PvPにおいては対策がなされていたりしますが、モンスターが出現する地点に罠を仕掛ける、なんてのは割とデフォですね。
別にリスポーンじゃないじゃん!みたいな時にもこう呼ばれたりします。




