第86話 聖雷様
ボクの攻撃に続いて放たれたテトリスさんの棍棒の一撃で、ドラゴンは沈んだ。
「もうすぐボス部屋だ。マターリできる時間はないから連戦になるぞ!」
おっさんが【パーティ】メンバーに声をかけながら先導してくれる。
ボクは駆け出しながら、いつの間にか【ストレージ】に戻ってきていた銃を取り出してゴブ蔵を再召喚した。
「殿を任せちゃってごめんね」
「ゴブー!」
銃が【ストレージ】に戻ってきていたということは、あの後、戦闘不能に陥ってしまったということだろう。にもかかわらず元気よく返事してくれるゴブ蔵をありがたく思いながらも、先を急ぐ。
やがて、視界の先にこのダンジョン定番の大部屋が見えてきた。転がり込むように部屋の中に入ると、部屋の中央に積層型の魔法陣が出現し、ド派手な発光と雷のようなエフェクトとともにボスモンスターが生み出されていく。
エフェクトが消えてそこに現れたのは、真っ白い柔らかそうな雲のようなものの上であぐらをかく仙人のようなモンスターだった。
ただし、優しげな雲のデザインとは相反して、仙人は鬼のような恐ろしい表情でこちらを見下ろしている。
「……【聖雷様】。縦横無尽に周囲を駆け巡りながら雷を落としてくる。HPと攻撃力が高いことを除けばわりとオーソドックスなモンスターだよ……この30層という環境でさえなければ」
通路の気配を探ると、その言葉の意味がよくわかった。これからボスモンスターとの戦いが始まるというのに、【シニガミ】2体がこのボス部屋をめがけて全速力で向かってきているのだ。
「【シニガミ】2体です!ボスモンスターなんかよりよほど厄介ですよ!」
「私が抑えてきますわ♥めりぃさん、バリア削りだけお願いしてもよろしくて?♥」
「おっけー!」
明日香さんはこちらに向かってくる【シニガミ】を単独で抑えに回るつもりのようだ。それならボクは明日香さんを信じて、【聖雷様】を削るとしますか!
軽く役割分担を決めたところで【聖雷様】が動く。雲に乗って距離を取り、腕をこちらに向けると、稲妻をテトリスさんめがけて放ってくる。
テトリスさんはその攻撃を【ファストチェンジ】によるメタ装備で正面から受け止め、同時に取り出した弓を引き絞って矢を撃ち放った。
【聖雷様】はその矢をひらりとかわし、さらに雷撃を発射してくるが、その隙を利用してボクは【ストレージ】からマイホームを召喚する!
ここまでは狭い通路だったり移動しながらの戦闘で活かせませんでしたが、ボス部屋では存分に使わせてもらいますよ!
地面からにょきっと生えた家の屋根に乗ったおかげで、結果的に雷撃の狙いから外れた。
家が盛り上がると同時におっさんが大きく跳躍し、【聖雷様】に接近した。
同時に灑智が2本の槍を続けて投擲する。超音速で放たれた槍は、それでも【聖雷様】に当てるには距離がありすぎた。雲を巧みに操り横に移動して回避しようとするが——それを追尾するように角度を急激に変えた槍が命中した。
ぐらりと体勢を崩した【聖雷様】に【エアジャンプ】で接近したおっさんが杖で殴りつけ、【聖雷様】は地面に勢いよく叩き落とされた。
ボクは【聖雷様】の目の前に【テレポート】で移動し、さらなる追撃を浴びせる!
「【ソウルフレア】!」
銀色の炎が杖から生み出され、【聖雷様】を包み込む。激しく炎上しながらも俊敏な動きでボクたちから逃げる【聖雷様】。
追撃の【フラムブレット】を撃ち込むが、さすがに当たらなかった。返しの雷撃が飛んできたため、あきらめて【ホームリターン】で屋根の上に帰還する。
その瞬間、不意に悪寒のようなものが走り、反射的に背後を振り返ると、明日香さんが【シニガミ】2体を相手に単騎で圧倒しているのが確認できる。《SANチェック》の発動だったんですね。
乱入してくるモンスターの対応も明日香さんだけでできているし、【聖雷様】も言うほど強くないし、これなら楽勝ですね!
……と思っていたが、甘かった。
「増援が来ましたわ、倒し甲斐がありそうですわね♥」
【シニガミ】と戦っている明日香さんのもとへ、電気のようなエネルギーを身にまとう狼……【ライトニングウルフ】が2体、追加で向かってきている。
明日香さんは余裕そうなことを言ってるけど、さすがにサポートしないと危ない!
【エアジャンプ】で明日香さんのもとへ飛んだボクは«獄炎»【フルバーニング】でHPが削れた【シニガミ】2体を滅ぼし、【ライトニングウルフ】のバリアを1つ削った。さらに【チェインボム】による誘爆で残る2つのバリアを取り除いた。
そこからHP回復を兼ねて【アブソーブ】を重ねようとして——後方からおっさんの叫び声が聞こえた。
「攻撃パターンが変わるぞ!」
その声と共に、【聖雷様】が腕を高く掲げると、ダンジョンの天井付近にいくつもの黒い雲のようなものが発生する。
そしてその雲がピカッと輝いたかと思うと、稲妻の一撃が地上に向けて無差別に放たれた。
事前に話は聞いていた。自動的に雷属性の攻撃を乱射する設置スキルだ!
これまでは【聖雷様】が自前で撃っていた雷の攻撃が、雲を通じて何倍もの数に膨れ上がる!
そしてその大量の雲から生じた稲妻がボクをめがけて放たれる。もちろんボクだけではない。明日香さんもテトリスさんも、全員それぞれをめがけて雷が狙い撃ってくる。
「【サイキックプロテクション】♥」
そんな稲妻の一撃に対して明日香さんは身を挺してボクを庇う。その瞬間、明日香さんを取り囲むように薄い防御膜のようなものが現れた。
明日香さんのHPは【フルバーニング】に巻き込んだことで余裕がある。ならば【ライトニングウルフ】を仕留めるべきだ!
「«五月雨突き»!」
目にも止まらぬ速さで6回の刺突を行う。それによって6つの【アンプルアロー】が同時に杖から生じ、接近していた1体の狼に突き刺さる!
6つの爆薬が同時に炸裂し、6回の炎属性ダメージを与えたが、【ライトニングウルフ】は止まらない。1体の狼はボクの右足首に勢いよく食らいつく!もう1体は遠距離から魔法を放つつもりのようだ。口を大きく開き、エネルギーを溜めているのが見て取れる。
「くっ!」
みるみるうちに減っていくHP。体当たりと違って噛みつき攻撃はノックバックを伴わないため、吹っ飛ばされて逃げることはできない。けれど、ボクには新たな回復魔法がある。
「【アブソーブ】!」
宣言とともに右足に噛みついていた狼からHPを大幅に吸収し、ボクのHPへと加える。力を失って牙を離したところで明日香さんのメガトンキックが決まり、HPを全損させた。
もう1体は、いまだチャージ中。速攻で仕留める!
そして【フラムブレット】を撃ち込もうとしたそのとき、上空の雲から放たれた雷が再びボクを狙う。明日香さんは再び【サイキックプロテクション】を張ろうとした。
いや、狙いはボクたちじゃない!?
狙われたのは敵ではなく、味方だ。【ライトニングウルフ】をめがけて盛大に雷の一撃が落とされようとしている。
「【テレポート】!」
とっさに最悪の可能性を察知したボクは【テレポート】によって【ライトニングウルフ】の頭上に瞬間移動し、雷の一撃から狼をかばう。
そのまま落下と同時に狼にがっしりとしがみつき、【ソウルフレア】で焼き尽くす!
そしてボクは【ソウルフレア】のコストを支払うことができず、HPを全損させ——。




