第84話 地獄のデスレース
「ドロップを回収して次へ行くよ!この【パーティ】なら30層までは行けるだろうからね」
「そこからは【レギオン】ってことですか♥」
アイテムを回収していると、モンスターハウスの端に宝箱が置いてあることに気づいた。これも罠を意図的に踏んだためだろう。開けると兜が出てきたのでゴブ蔵に装備させて先を急ぐ。30層まで行く予定ならこんなところで立ち止まっているわけにはいかないからね。
【マーカー】を罠に貼り付けながらダンジョンを進む。つるはしはもう使っていない。戦闘中に悠長に罠解除なんてしていられないから、【マーカー】で対処できるならそれに越したことはないらしい。
それならばと、ボクもできる限り効率的に【マーカー】を貼れるように動作を最適化していく。最初は罠に同じ【マーカー】を貼るだけだったけど、隠れているモンスターにも【マーカー】を貼ってみたり、いろいろ工夫しているのだ。
【マーカー】を貼る機械と化したボクをサポートしているのは明日香さんだ。【ギフトパス】で借り受けた【クレヤボヤンス】のおかげで、ダンジョンの壁を無視して俯瞰視点から周囲を確認できて、本当に助かっている。その状態では歩きづらいので、手を引いてもらっている。
【マーカー】は壁を貫通して視認できるので、壁越しに周囲を観測できる【クレヤボヤンス】とは大変相性が良いようだ。
めりぃさんはボクらが通らない道に精霊を先行させて、挟み撃ちに遭わないように敵を片付けていく。
ボクらが通る道の敵は灑智とゴブ蔵の出番だ。灑智は妨害にかかっているほど威力が上がる【ナイト】のスキル、【ディジーズブラスト】を覚えたらしく、槍と合わせてとことん遠隔攻撃を極めていくらしい。
ゴブ蔵は以前大会で使われたこともある闇属性スキル【対価契約】を覚えて、最大HPを犠牲に火力を引き上げる方針のようだ。
相手の攻撃を食らったら即座に死亡してしまうほどHPを捧げているようなのだけど、ゴブ蔵はすぐに再召喚できるから問題がない。
「召喚モンスターって職業を獲得できるのー!?うちの精霊もできるかな?」
めりぃさんに聞かれたので【女神像】を出してあげると、精霊さんも職業を獲得できることがわかり、それからは精霊さんたちからカラフルな魔法の嵐が飛び交うことに。
……これ、【シャーマン】ぶっ壊れじゃないですか……?
何はともあれめりぃさんの急激な強化と役割の分担によって凄まじい速度でダンジョンを潜っていき、わりとあっけなく30層の階段に着いた。
そこまでの道のりには確定即死を使う【イービルアイ】だとか罠を周囲にばらまく【悪魔小僧】だとか初見殺し極まりないやつらが出てきたけど、それぞれテトリスさんの持ってきた鏡とつるはしで完封しました。たぶんテトリスさんがいなかったら余裕で詰んでたと思う。
「さて、ここからは僕らでも死にかねない領域だ。注意してくれ」
「30層は【レギオン】が前提だからね。【パーティ】ならここからは死闘の連続だ。全員の力を合わせないとあっという間にばたんきゅーだよ」
「30層ってそんなに危険なんですかっ?どんな敵がいるんですか?」
「30層に関して言えば……知覚範囲が無限なんだよ。こっちが30層に入った瞬間から相手は僕らがいる場所を常に把握している。さらにあらゆる攻撃を3回まで無条件で防いでくるんだ。まあ、後者についてはなんとかなるけどね」
「めりぃさんの精霊なら手数で攻めるタイプですし、3回くらいならすぐ削れますもんね」
「そうそう。だからめりぃさんは周囲から襲い来るやつらに3回ずつ攻撃を与えることに集中してほしい」
「りょーかいだよー!」
「で、3回削った後なんだけど、おっさんがモンスターを妨害してくれるからできる限り多対一でぼこる感じで。もし無理だったらトレインさせてまとめてから、卍さんに範囲魔法で削ってほしい」
「わかりました。特別に危険なモンスターとかはいますか?」
「30層には10種類のモンスターがいるけど、危険なのはそのうちの10種類かな」
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>草
>ギャグかな
>全部危険定期
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「おねえさま、私と妹さんは【S.T.シンクロ】でおねえさまの炎属性ELMを共有できます。範囲魔法は気にせず巻き込んでください♥」
【S.T.シンクロ】
[アクティブ][自身][キャラクター][支援][専用]
[味方][キャラクター]の[任意]の[ステータス]1つを[自身]と[共有]する。
[ステータス]は高い側の[数値]を[参照]する。
「便利なスキルですよねっ」
「俺たちも炎属性の耐性装備はつけておくからモーマンタイだよ。めりぃにも耐性装備を渡しておく」
「わ、ありがとー!これで卍さんも100%の力が使えるねー!」
そんなこんなで作戦会議は終わり、死闘が幕を開ける。
50層に挑むってのに30層で詰んだら話にならない。突破を目指して全力で行きますよ!
階段を降り、30層に突入すると、警告音のような電子音が周囲に響き渡る。これが『知覚範囲無限』の表現なのだろう。
想定通り、目の前の通路から金属製のドラゴン——【ソードラグーン】がその体躯に見合わない俊敏な動きで軽やかに駆けてくる。
めりぃさんの精霊がすかさず攻撃を叩き込むと、そのすべてが半透明のバリアによって弾かれる。しかし3発目でガラスが割れるような音がしてバリアが砕け散った。
そこにおっさんが接近して【ファストチェンジ】によって杖を取り出し、勢いよく叩きつけると、ドラゴンの防御能力が低下する!
「«獄炎»【フラムブレット】!」
おっさんが妨害をかけた瞬間にボクの炎弾がうなりを上げながらドラゴンを狙う。
それに対してドラゴンはぐるりと体を反転させ、鋭い刃のような尻尾で【フラムブレット】を薙ぎ払わんとする!
巻き添えになったおっさんは尻尾に弾き飛ばされてこちらに戻ってきたが……。
「グオォ!?」
尻尾に当たった炎弾は激しく炸裂し、尻尾ごとすべてを焼き尽くす!
「ボクの【フラムブレット】を物理ではじけると思わないでくださいよ?」
「私が炎属性ELMを下げたおかげですよ♥」
尻尾に気を取られているドラゴンに対して弾丸のような速度で接近して【ソウルフレア】で追い打ちをかけると、地面に倒れて粒子に変わっていく。
「アイテムは走りながら拾って!」
【フォッダー】と違って【A-YS】では自動で【ストレージ】にアイテムが収納されないのが不便ですね。と思いつつもドラゴンが落とした金属製のお肉を拾って先を急ぐ。可能な限り早く動かないと延々と襲い来るモンスターを相手にする羽目になるからだ。
地面に散らばる罠を【マーカー】でチェックし、分岐では、モンスターの少ない方を選んで進む。
けれど、モンスターは前方だけから襲ってくるわけではない。後ろからごろごろと転がる大岩のようなモンスターが迫ってくる。
そして前方にも2本の剣を携えた人形の黒い騎士……【ブラックナイト】が1体。
「後ろは押さえるよー!」
めりぃさんが精霊を【人馬一体】で強化し、後方から接近する大岩を受け止めさせる。精霊で押さえ込めるのならば、巨体が壁になり、背後からは攻め込みづらくなる。これで前方の騎士に集中できる!
精霊が【ブラックナイト】に光線を撃ち込むと同時に、今度は灑智が2本の槍を投擲する。
「【ディジーズブラスト】!」
さらに【ナイト】の数少ない遠距離対応攻撃も重ね、3連撃だ。どす黒い色をした衝撃波が槍に追従しつつ中空を駆け抜ける。
【ブラックナイト】は2本の槍をなんとか弾き飛ばしたが、【ディジーズブラスト】をその身に受けてしまう。その瞬間、灑智が仰向けに倒れた。
「【オートカウンター】だよ。あいつは4発目の攻撃を攻撃者に返すんだ」
「先に言ってください!」
ボクは慌てて【ファストリカバー】で灑智を回復させる。
その間におっさんが妨害をかけようと近づくが、【ブラックナイト】が剣をめちゃくちゃに振り回し、いくつもの斬撃を飛ばしておっさんを的確に狙う。
「【エアジャンプ】!」
そんな斬撃を宙へ跳んで華麗にかわしたおっさんは、コツンとナイトを杖で叩く。反撃として剣を振るう【ブラックナイト】だが、突然、後ろから鋭い衝撃を受けて転倒してしまう。
うつ伏せに転んだ【ブラックナイト】を再び放たれた2本の槍が貫いた。
「不意打ちは私の得意技ですので♥」
「ありがとうございますっ!明日香さん!さすが名誉お姉さまの妹です!」
「いえいえ、灑智さんにはかないませんわ♥」
「そんな話してる場合じゃないよー!」
めりぃさんの叫びに後ろを振り返ると、巨大な大岩にひびが入っている。めりぃさんの精霊は現在VIT特化のはずだから……背後のモンスターが邪魔な岩を破壊しようとしているのだろう。あの大岩もモンスターだったはずなんだけどね?
「急ぎましょう!」
モンスターが押し寄せてくる前に休む暇もなく移動を再開すると、ゴブ蔵が少し遅れてボクらに追ってくる。
「早く早く!」
「ゴブー!」




