第83話 水属性の真髄
再びダンジョンまでやってきた。すると、テトリスさんが巨大なつるはしのようなものを取り出し、周囲の地面を手当たり次第にたたく。
「あれは罠を解除できるエンチャントのついたつるはしだね。テトリスは消音効果付きのチョベリグな装備を持ってるんだよ」
「ほえー」
おっさんの解説を聞いて思わず感心してしまう。これがガチ勢のダンジョン探索なのか。罠1つに大苦戦していたボクとは大違い。
聞くところによると、テトリスさんは【パスファインダー】ではないのだけれど、広範囲の罠を解除できるつるはしを連続使用し、感知に関係なく罠を無視する探索スタイルらしい。
いきなり【パスファインダー】の利点が奪われてしまった感があるけれど、別のところで差別化していけるのかな?
先導してくれるテトリスさんのあとを、ボクたちはとことこついていく。
罠がないならさすがに第1層のモンスターに負ける要素はない。灑智とゴブ蔵に経験を積ませてもらいながら、最適なルートを通って宝箱を開け、ボス部屋にたどり着いた。
「時間をかけるのも面倒だし、今回は僕が片付けるね」
そう宣言してテトリスさんが大部屋に入ると、巨大な魔法陣が形成され、【ダイゴブリン】が召喚された。同時に、テトリスさんの投げた短剣が突き刺さる。
「グギャアァァァ!!」
ゴブリンは一撃で地面に倒れ伏し、ボクたちは呆然とする。えっ、すごくないですか!?
短剣を回収して戻ってきたテトリスさんが装備の性能を見せてくれた。
悪鬼殺しの鬼神殺しの鬼退治の聖なる猛毒の短剣
・それはゴブリンに対して200%のダメージ補正を加える。
・それはゴブリンに対して250%のダメージ補正を加える。
・それはゴブリンに対して250%のダメージ補正を加える。
・それは攻撃時に光属性の追加ダメージを与える。
・それは攻撃時に重力属性の追加ダメージを与える。
「まさにゴブリンを殺す短剣そのものですね」
「あたしたち、見てるだけになりそうなんだけど大丈夫かなー」
「もうちょっと深層に行ったらこういう搦め手が通じなくなるところがあるから出番があるよ。それに、今回は体験コースみたいなものだからね?」
完全に足手まといになっている感覚だけど、テトリスさんはあくまでボクたちの【A-YS】体験のために付き合ってくれているらしい。いずれ来る【レギオン】による深層攻略のためにも、新規プレイヤーたちに【A-YS】での生き方を教えてくれるつもりなのだろう。
ならばその期待に応えてあらゆる情報を吸収しなくては!
「特定の相手に特化したメタ装備。けっこう簡単に手に入るものなんですか?」
「ここまで同じエンチャントが複数備わってるのはなかなかないかなー。これは3か月ぐらい【ダイゴブリン】だけを狩り続けて出したんだ」
「あっ、無理ですね」
情報は収集できたけど再現はできないね!
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>廃人ならそれくらいやるよね
>どんな状況にも対応できる最強装備ならそれくらいやるけどゴブリン特化だぞ?
>ところどころで常識外れの精神力を感じさせるA-YSガチ勢
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何はともあれボス部屋を抜けて続く第2層。第1層と雰囲気に違いはないけれど、新たな罠やモンスターがいるらしい。
「卍さん。この近くに罠ってある?」
「罠ですか?ああ、魔法陣みたいなのがありますね。つるはしで壊さないんですか?」
「この階層はその魔法陣に乗るとショートカットできるんだ。踏むとモンスターハウスに飛ばされるけどそっちのほうが近い」
「……なるほど」
魔法陣のようなものの場所を【マーカー】で示す。この【マーカー】も【A-YS】側のシステムで、特定のキャラクターやアイテム、位置などに印を付けることができるものだ。
当然その印はほかの【パーティ】メンバーにも開示されるので、罠のある場所を示したり、倒すモンスターを定めたり、さまざまな用途に用いられる。
ボクの示した【マーカー】をテトリスさんが踏むと、踏んだ瞬間、【パーティ】全員が強制的に転移させられる。
周囲には大量の【ゴブリン】やら【ハウンドドッグ】、それから新規モンスターである【ブルーサハギン】や【ゴーレム】がぐるりとボクたちを取り囲んでいる。
「よし、灑智!ゴブ蔵!頑張ってください!」
「えっ!?こんなにたくさんの敵と戦えませんっ!!」
「大丈夫だよー。【タウント】!」
めりぃさんがスキルの発動を宣言しながらモンスターの群れに突っ込んでいくと、周囲のモンスターたちは一直線にめりぃさんに集まっていく。
モンスターたちはめりぃさんを狙って我先にと言わんばかりに押し合いへし合い。ボクたちを完全に無視している状態だ。
大群に囲まれためりぃさんは、棍棒でたたかれたり、かみつかれたりしつつも、完全にそれを無視してラーメンを食べている。
「今なら行けますよ!頑張って!」
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>最悪の絵面で草
>新手のプレイかな
>強い
>呪いの儀式みたい
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「よ、よしっ!行きます!!とりゃっ!」
2本の槍を持ってとことこモンスターに近づき、無防備な背中を槍で刺突する灑智。
ゴブ蔵はその場でゆっくりとスキルの詠唱を始めた。
「〈ゴブブゴブブゴブ〉【ゴブブゴブブ】」
闇属性【メイジ】にとっての始動キーである【深淵たる叡智】。そして矢継ぎ早にさらなる詠唱を続ける!
「ゴブブゴブブブゴブブゴブブゴブ【ゴブゴッブブ】!」
ゴブ蔵が手をかざすと同時に、真っ黒に染まった大量の水が魔法陣から湧き出し、すさまじい勢いでモンスターに迫る。
当然、槍で敵を突いていた灑智も【ダイダルウェイブ】の範囲内だ。
「えっ、ちょっと待ってっ!!あわわっ!」
ざぶんと黒い波に飲み込まれる灑智だけど、彼女はダメージも衝撃もまったく受けていない。
しかし、モンスターは別だ。闇色の水を受けたモンスターたちは、大きなダメージを受けて押し流されていく。
そう、これこそが水属性の性質。炎属性が命を燃やし、風属性が速さを尊ぶならば、水属性は敵味方を識別するのだ!
自分がまったく被害を受けないことに気づいた灑智が水に流されるモンスターに追い打ちをかけると、瞬間的に槍が蒼く染まり、威力が大幅に増した一撃が放たれる。
己の敵のみを滅ぼすと同時に、味方には加護を与える。それが水属性の真髄!
灑智が槍を振り回して敵を片っ端から突いていくと、あっけなくモンスターたちは全滅したのだった。
【ダイダルウェイブ】
[アクティブ][投射][水属性][攻撃][魔法]
消費MP:12 詠唱時間:20s 再詠唱時間:30s 効果時間:30s
効果:[敵][キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。[味方][キャラクター]の[攻撃時]に[敵]に[水属性]の[ダメージ]を[与える]。
詠唱:大いなる水の暴威をその身に受けよ
卍荒罹崇卍の一口メモ
一般的な投射魔法に見えますが、攻撃範囲が横に広いです。複数の敵を巻き込みつつ、味方に被害は与えません。物質干渉力が高く相手を押し流す事もできるので、後衛から撃ってるだけで相手はイライラする事間違い無し。癖の強い魔法が各属性に溢れてる中、水属性の魔法は安牌を拾っている感が凄い。




