第82話 再挑戦
次の日、【フォッダー】にログインすると、【A−YS】のダンジョンの中……ではなく、入り口まで戻されていた。
これも【A−YS】の攻略サイトに記載されていた仕様で、ダンジョン内でログアウトする場合は野営用のアイテムを消費してセーブしないといけないらしい。
今回はダンジョン攻略を協力してくれる【パーティ】を結成するためにも外に出るつもりだったので、手間が省けてありがたい。
ダンジョンから帰還するためのリソースが必要なのはハクスラの定番だからね。昨日は探索に必須のアイテムも調べておいたので、これからは完璧!【アイテムマスター】として、そういったアイテムは切らさないようにしないとね。
「あれ、昨日とは雰囲気が違いますね!なんだか人がいっぱいですっ」
灑智の言うとおり、昨日とは大違いの景色だ。まるで大人気MMORPGのように人の往来が途切れることなく流れ、プレイヤーたちがそれぞれ活動している。もちろんボクたちが挑んだ【A−YS】のダンジョンに潜ろうとする人たちもいて、昨日はただの田舎に見えた風景が、今は大都会のように思える。
少なくとも最初にこの世界を訪れたときに見たゴーストタウンみたいな景色と比べれば、明らかに活性化しているのは間違いない。今ならあそこも人がたくさん集まっているのだろうけど……
「これなら【パーティ】メンバーはすぐ集まりそうですね」
現在のフレンドを確認すると、明日香さんはログイン中、めりぃさんはいまだ失踪中の様子。おっさんはフレンドリストにはいないけれど【A−YS】側でログインしているのかもしれない。
どうせ【パーティ】を組むなら【A−YS】ガチ勢と組みたいですよね。ガチ勢は【科学塔】に集まっているはずだ。そんな根拠のない推測のもと、ボクたちは塔に向かう。
しかしこれだけ多くのプレイヤーが街を行き交っているような状況で、廃人プレイヤーの総本山とも言える【科学塔】が空いているはずもなかった。
まるで安売りセール中のガジェットストアのように、人だかりが【科学塔】にたむろしている。
とはいえ勘は間違っていなかったようで、そこには多くの【A−YS】プレイヤーと思しき人たちがそれぞれの場所で研究成果を発表している。
なぜ【A−YS】プレイヤーだとわかったかというと、答えは簡単だ。プレイヤーの頭上に名前が表示されていないのだ。
【フォッダー】プレイヤーなら一目見ただけで頭上に浮かぶネームプレートで確認できるから、表示がないと違和感がすごい。周囲のどのプレイヤーが【A−YS】からのログインなのか、一目でわかる。
そんな【A−YS】プレイヤーたちを一通りチェックしていると、見つけた。おっさんだ。
「——というわけで、この方法を使えば【A−YS】のアカウントで【フォッダー】に行くことができるわけだ」
「おっさーん!」
「お、子虎ちゃんじゃないか。今なら【パーティ】を組めるよ。どする?」
「【A−YS】側から【フォッダー】に行く方法が見つかったんですね?」
「ああ、イージーな話だったよ。【フォッダー】のプレイヤーが開いた【闘技場】に相乗りすればいいみたいだね。向こうの世界に行けば【メニュー】などのシステムも解禁されるみたいだから、それからは自前で【闘技場】を召喚できる」
「なるほど、マップIDの理論で言えば、【A−YS】から闘技場に入って、出れば【フォッダー】の世界に行けるわけですね」
「そゆこと。これだと戻ってくるのに手間がかかるから、いずれは別のバッチグーなメソッドを用意したいところだけどね」
向こうの世界に行けばシステムが解禁される、ねぇ……。バグとは到底思えない、あからさまな実装だな。
「それならダンジョンを一緒に潜りましょうか。あっ、こちらは妹の灑智です」
「灑智ですっ!よろしくおねがいします!」
「ああ、配信はチェックしてたから知ってるよ。夜露死苦」
がしっと握手を交わす灑智とおっさん。おっさんにしては比較的おちゃらけが少ない、まともなやりとりだ。やはり【A−YS】補正がかかっているのだろうか。
「これで【パーティ】メンバーは3人。ゴブ蔵はシステム的にはメンバーに含まれないですし、あと3人ですね」
「【パーティ】のシステムで言えばそうなんだけど……【A−YS】の深層は【レギオン】が前提だよ」
「【レギオン】……?」
「6人【パーティ】を最大で24連結できるシステムだ」
「【計算:6×24=144】……深層はそんなレベルなんですか……?」
「そんなレベルだよ。まあ144人集まったことはないけどね。あいにくの過疎だ。30人がいいところだね」
「144人想定のバランスで30人はきついですね——けれど。」
「——そう、次の深層攻略は間違いなくフル【レギオン】が成立する。まあ、新規プレイヤーにも【A−YS】に慣れてもらわなきゃいけないからまだまだ先の話だけど。それまでは6人【パーティ】でモーマンタイだよ」
「じゃあっ、あと3人ですねっ!!お姉様のお友達を呼びましょう!」
「漆黒さんと純白さんはー……ログインしてるけど、伝言が残ってますね。現在調査中につき応答できず、とか。ゆうたさんはパスするとして、とりあえず明日香さんに声をかけてみましょうか」
「呼びましたか?おねえさま♥」
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>出待ちしてたのかな?
>さすが妹(非公認)
>ゆうたさんかわいそう
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というわけで、明日香さんは快く【パーティ】に加わってくれた。あと2人はどうしよう?
「じゃあ、俺の知り合いでいいかな?テトリスを引っ張ってくるよ」
「テトリスさんなら心強いですね!あとは……」
めりぃさんもどうやらログインしている様子だ。〘Multa〙を利用したお兄さんの件は無事解決したのだろうか。
チャットを送ってみると、参加できるとのこと。
それから少ししてめりぃさんがやってきた。テトリスさんもすでに現地に来ている。
「おまたせー!しばらくログインしないうちに随分変わったねー。異世界に行けるなんて。面白いなー」
「お兄さんの件は解決したんですか?」
「うん、大丈夫。生み出された人格を制圧してコントロールすることに成功したんだって」
「めりぃさんのお兄さん強そう」
「よろしくね。ダンジョンにこんなに潜ってくれる人がいるなんて夢のようだよ。いや、もしかして夢なのかな?」
「テトリスさん、現実ですよ!ほっぺた引っ張りましょうか?」
そんなこんなで6人の【パーティ】を結成し、ボクたちは再びダンジョンに挑むことになる!まあ【A−YS】ガチ勢の引率が2人もいれば楽勝でしょ!




