第80話 地形嵌め
というわけで先ほど通ったばかりの迷路を抜けてボス部屋の前にやってきたボクたち。
今度はボクがボスを召喚するために部屋の中央へとことこ歩みを進める。
すると先ほどと同じように魔法陣からモンスターが生成され始めたので、【テレポート】で即座に部屋の入口へ戻って、通路へ下がる。
やがて粒子が一点に集約され、巨大なゴブリンとして形成される。
ゴブリンはこちらを見据えると、どしんどしんと地響きを立てながら迫ってくる。
思わずごくりと唾を飲み込む。そしてゴブリンはボクたちの前に仁王立ちし、大木みたいな棍棒を振り下ろすと……!
ボクたちの両側にあるダンジョンの壁に阻まれ、攻撃は弾かれた。
「ふう……よし、やってやりなさい!2人とも!」
「わかりました!えい!とりゃ!」
「ゴブゴブー!」
こちらに攻撃ができない巨大なゴブリンを2人がかりで一方的に攻撃する。
そんな絵面最悪の地形嵌め狩りが始まった——。
30分もの死闘の末、やがてゴブリンはゆっくりと地に倒れ伏す。
「倒しました!お姉様、やりました!!」
「お、おめでとう!……おそらくはこの戦い方が正攻法のようですね」
一方的に嬲り続けてなお撃破に30分もの時間がかかる超耐久のボス。そんなのとまともにやり合えるはずがない。あるいはゴブリンを無視して次の階層へ向かうなど、方法はいくつかありそうだが、いずれにしてもガチバトルは想定されていないのだろう。
そしてゴブリンは再び粒子に姿を変え、一点に集約されていく。
とは言っても新たなモンスターに変わるわけではない。これはボスモンスターを撃破した報酬。つまりアイテムを形成しているのだ。
やがてゴブリンのいた場所に現れたのは真っ黒な鎧。光を飲み込む深淵を想起させる漆黒の鎧には、以下の効果が付与されていた。
混沌を喚ぶ大地に君臨する城塞の鎧
・闇属性に25%の補正を加える
・防御時に土属性の追加ダメージを与える
効果の付与数は2つ。1層のボスならこんなものだろう。そして付与効果的にはボクたちとシナジーする要素もない。装備をいくつも入手して厳選していくゲームである以上、必ずしも当たりの装備が出るわけではないということはわかっていたけれど、少々寂しい。
【ストレージ】にしまい込もうとすると、ゴブ蔵が騒ぎ出す。
「ゴブゴブー!」
「ん、もしかしてこの装備がほしいの?」
そうだ、と言わんばかりに首を縦に振るゴブ蔵。巨大なゴブリンのドロップ品だったから、何か思うところがあるのだろうか。
「きっとゴブ蔵に似合いますよっ!」
「といっても、性能的には今着けてる装備のほうが強いんですけどねー。でもいっか。はいゴブ蔵、あげますね」
ボクが鎧を渡すと急いで着替え始め、ドヤ顔で装備した姿を披露するゴブ蔵。
そして次に【女神像】を要求してきたので【ストレージ】から出してあげると、頭をひねりながら取得スキルを考え始めた。
「闇属性を扱える職業と言えば【メイジ】か【ナイト】ですね」
【メイジ】には炎属性や水属性などの各種属性魔法がある。しかし闇属性だけは単独で成立する魔法がないのだ。
「【メイジ】の場合は既存の魔法を闇属性に変換するスキルを採用することになりますね」
【深淵たる叡智】
[アクティブ][自身][闇属性][支援][魔法]
消費MP:2 詠唱時間:2.5s 再詠唱時間:10s
効果:次に[発動]する[スキル]に[闇属性]を[追加]する。
「たとえば炎属性に特化した型であれば炎属性のスキルをメインに覚える必要がありますが、闇属性の場合はあらゆる属性のスキルを使えるのがメリットです」
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>面白そう
>いろんなスキルに属性強化を乗せられる訳か
>深淵たる叡智を毎回挟まなければならない所でバランスを取ってるのかな
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「あとは【ナイト】の場合についてですが……。おっと、終わったみたいですね。この話は後にしますか」
やがてスキルを獲得したのだと、身振り手振りで伝えるゴブ蔵を見て、ボクは【女神像】をしまう。
「じゃあ、無事に1層は突破できましたし、そろそろ今日は終わりにしましょうか」
「あれ、まだ少し早いのでは?」
「ネットで【A-YS】の情報を調べないといけませんからね」
さすがにこの難易度のダンジョンに手探りで挑むのは難しい。少しくらいは予習しておかないと、延々と死に続けながら試行錯誤しても突破できない可能性すら考えられますからね。
それに日を置けば現状の【A-YS】ショックも落ち着いてダンジョン攻略に挑むプレイヤーも増えてくるはず。【A-YS】のことは知らないけど【フォッダー】は6人【パーティ】制なのだから、できればフルメンバーで挑みたいよね!
「というわけで今回の配信はここまでにします!今日もきゅーてくちゃんねるを見てくれてありがとうございました!できればみなさんも【A-YS】に来てください。またねー!」
「お疲れ様でしたー!!またお会いしましょう!!」
「ゴブー!」
そしてボクはゲームからログアウトし、現実へと帰還する。
「おかえりなさい、お姉様」
「ただいまー、って……さっきまで一緒にいたのに改めて挨拶するのはなんだか面白い気がする」
「私としてはゲームの中に入っていた、という感覚ではなかったですしね」
そう語る灑智の前には大きなARの仮想モニターが浮かんでいる。どうやらまだログイン中のようで、そこには【A-YS】のダンジョンの様子が映し出されていた。
そしてゴブリンの姿も見える。召喚者がログアウトしても残ってるものなんだね。召喚には効果継続時間があるからすぐにいなくなってしまうのだろうけど。
「私はもうちょっとレベル上げをしてみる予定です。お姉様は調べ物を頑張ってくださいね」
「ゴブゴブー!」
灑智の言葉にゲーム内のゴブ蔵もやる気を出しているようだ。
今日は灑智と久々に遊べて楽しかったな。そして、きっと灑智ももっと遊びたいと思ってくれているのだろう。それならお言葉に甘えて明日に向けて情報を調べないとね!
まずは【フォッダー】の情報サイトを開いて今日起こった出来事の確認だ。今日は1日【A-YS】にいたから【フォッダー】側の情報も見ておかないといけないからね。
ネットで【フォッダー】についてのまともな情報は期待できないけれど、あまりにも大きな事件についてはさすがに拡散されていく。今回でいうならば異世界についての情報なんかも騒ぎになっているはず。あるいはそこから【A-YS】について深掘りしていくこともできるだろう。
そう思って開いたボク一押しの情報サイト『イースポマニュアル』には、異世界の話題と同規模で急速に拡散されている1つのニュースがあった。
「『最狂のプロゲーマーを育成する!転式学院』……?」
テクニックその55 『地形嵌め』
地形嵌めはゲーム界の普遍テクニック!モンスターが動けなくなったところを一方的に倒すあらゆるゲームに存在するといっても過言ではないテクニックです!
MMOでは『地形嵌め』は規約違反行為である、という定義している事もありますね。まあ、ダメージを受けずに一方的に攻撃できたらどんな格上のモンスターでも倒せますし、バランスが壊れちゃいますから。




