第74話 罠(トラップ)だらけのダンジョン探検
ゆうたさんなんか知りません。ボクはもう見捨てました。漆黒の翼さんも純白の翼さんもそれぞれ検証や考察に忙しいご様子。
「しょうがない!行きますよ、おっさん!ダンジョンを攻略しに行きましょう」
「えっ、嫌だけど」
「なんで?(殺意)」
「俺は【A-YS】側から【フォッダー】に移動する方法を探さなきゃいけないんだよ」
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>卍さん完全にぼっちで草
>お友達いないの?
>だれか一緒に冒険してやれよ
>かわいそう
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「いいですもん!明日香さんとめりぃさん呼びますから!女子会ダンジョン攻略しますよ!」
メニューから【フレンド】リストを開き、2人にチャットを送ろうとして——いない!ログインしてない!
屠神 明日香[ログオフ中]:TRPGのセッションに行ってきます♥
めりぃ[ログオフ中]:お兄ちゃんがMultaに侵されてしまったので病院に連れて行きます
そっか、明日香さんはTRPG業界の人だから仕方ないよね……。めりぃさん……身内が〘Multa〙キメてしまったらゲームしてる暇なんてないですよね……。
「ま、まあボクの圧倒的才能があれば、ソロでのダンジョン攻略なんて簡単なこと。チョロいもんですよ」
こうなったらボク1人でダンジョンに挑みますからね!そう決意したボクは、おっさんにダンジョンの場所だけは聞いて単騎で特攻することにしたのであった。
【科学塔】から徒歩5分。そこには大口を開けて冒険者を待ち構える巨大な大穴があった。街の至る所にこういった大穴があり、例外を除けば、ほとんどが1つのダンジョンに繋がっているらしい。
そして、そのダンジョンを攻略することこそが【A-YS】の最終目的。
現在の最前線を走っているテトリスさんたちでも50層で行き詰まっている状態なのだとか。このゲームのためにさまざまな技術を研究して、【科学塔】なんてものを建てて試行錯誤を続けているプレイヤーたちでも突破できない50層という大きな壁。
さすがに新参者のボクがそれを打ち破ってやろう!だなんて大それたことは言えないけど、その入り口を拝むくらいはしてみたいよね?
「というわけで、目指すは50層!速攻で攻略していきますよ!ソロで!」
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>これは死んだな
>卍さんさようなら
>清々しい死亡フラグ
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うん。わかってます。わかってはいるけど、配信者としては勝つにしても負けるにしても大言壮語のほうが美味しいんですよね?
でも、だからといってそう簡単に脱落するつもりはありませんよ?行けるところまでは全力で潜っていきましょう!
とことことダンジョンの内部に足を踏み入れるボク。入る前は真っ暗なダンジョンしか見えなかったのだが、境界線を踏み越えると途端に内部構造が見通せるようになった。逆に〈ストリームアイ〉で背後を確認すると真っ暗な空間が広がっており、外の様子はうかがえない。
【グレイブウッド】と類似した現象ですね。ダンジョンは外と隔絶した別の世界ということなのでしょう。
第1層はオーソドックスな迷路で、コンクリートめいた素材の壁が進路を妨げる。その光景は、あからさまに人工の建造物を思わせるものだった。
さすがにこんな序盤で恐ろしい敵が出てくるはずもないだろうと、警戒もせずにダンジョンを進んでいくと……足元でがしゃり、と音がした。
「ん?」
ふと視線を落とすと……ボクの足に金属製の歯のような物体が食いついている!
思わず足を持ち上げようとするも、歯はビクともせず、すっぽんのようにボクの足に食らい付き続ける。すっぽんってよく知らないけど!
とりあえずしゃがみ込んで素手でどうにか歯を無理やりこじ開けようとしていると、後ろからモンスターが接近してくるのが〈ストリームアイ〉で捉えられた。
嘘でしょ?序盤でこんなコンボしてくるダンジョンゲームあります?
杖だけを後ろに向けて【フラムブレッド】で犬のようなモンスターを攻撃する。さすがに序盤のモンスター。一撃で倒れてくれたけれど、戦いはまだ終わらない。
後方からは同系統の犬型モンスターが群れをなして迫ってきた。
「わわっ、【フルバーニング】!」
ボクに近づくのを見計らい、範囲魔法で一掃を試みるが、あまりにも数が多すぎる。範囲外にはまだ多くのモンスターが残っている。
「〈次元の狭間より世界を駆けろ〉【テレポート】!」
【テレポート】によって襲い来るモンスターから離れるとともに、罠からなんとか抜け出したボクは、後方にバックステッポで距離を取りながら【ブレイズスロアー】で牽制しようとして……がしゃん。
「がしゃん?」
足元を見ると、そこにはまたもや同じ罠の姿が!!
「ちょっ、待って!【フルバーニング】……は再詠唱時間待ち!もしかして1層で詰むの?マジですか!?……いや、あれがあった!」
すかさず【ストレージ】を開き、中から1本の杖を取り出し、スキルの宣言とともに、力強く振るう!
「【チェインボム】!」
多勢に無勢とはいうけれど、この【連爆の杖】の前では通用しない!
杖から放たれた赤い光線が前線を走るモンスターに命中すると、激しい爆発の連鎖がダンジョン中に響き渡る。
モンスターたちのHPは一瞬で全損し、群れはたちまち崩壊した。
「……助かったぁ……。さすがに1層で終わったら視聴者さんにぽんこつ荒罹崇ちゃんとかバカにされるところでしたよ」
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>苦戦してる時点でポンコツの誹りは免れないぞ
>控えめに言って罠の配置がうんちすぎたからしゃーない
>1層から全力で殺しに来てるな。諦めて戻ったほうがいいのでは
>これは硬派なダンジョンRPG
>ダンジョンで油断とか許されざるよ
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「そ、そうですね!本当はもうちょっと潜れるような気がしますけど?ソロってのはさすがに舐めてましたね?うん。戻りましょうか?本当は行けるけどね?うん」
視聴者さんに完璧な言い訳を続けながらダンジョンの出口へと戻ることにした。やっぱり【パーティ】メンバーがいないと無理だよね。そろそろ配信を見て【フォッダー】から他のプレイヤーが来る頃ですし、その人たちと【パーティ】を組んで——がしゃん。
「ん?」
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>草
>帰るまでがダンジョン探索である
>トラバサミ密集配置されてそう
>なんで引っ掛かるまでトラップ見えないの?
>透明化の魔法がかかってるんだぞ
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