第71話 繋がる世界
「ここが異世界……って現代じゃないですか!」
確かに【フォッダー】の視点で見れば異世界だけど、ボクらにとっては異世界でもなんでもないですよ?
青白く発光するカプセル型の〈魔導〉テレポーターも、上空にふわりと浮かぶウェザーコントローラーも、現代では見慣れた光景だ。
けれど、現代で珍しくないからといって、この状況がおかしくないわけではない。
「なんで【フォッダー】の世界に現実世界があるんですか……?」
もちろん実際の現実世界にVRからダイブしているというわけではない。本来なら多くの人々で賑わっているであろう現実と違い、今この場所は人っ子一人いないゴーストタウンだ。
極めて近いのに、致命的に何かが欠けている。しんと静まり返った景色が、じわりと恐怖を呼ぶ。
大空を飛び回る魔車も完全な無人飛行だ。上辺だけをなぞった、意味も目的もない背景にすぎない。
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>ホラーかな?
>試しにビルとか壊してみようぜwwwwwwwww
>ここでビルを壊すと現実のビルも崩壊する仕様だったらどうするんだ!!
>どうやったら作れるんだよその仕様
>藁人形的な感じで再現した対存在を破壊できるんだぞ
>やべえよやべえよ
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「そういえば、漆黒の翼。先日【ストレージ】から出てきた時はゲーム機のようなものを装備していたようだったが」
「ククク……そういうことだ。ここで仕入れたゲームをプレイしていたのだ」
ゲーム内でゲームが手に入って、しかもプレイできちゃうんですね……。ゲーム内の独自ゲームなのでしょうか?あるいは著作権の切れた昔のゲームの移植という可能性もありますけど。
ボクも、ちょっと触ってみたくなる。
「ここがどういう場所かはわかってるんですか?」
「それについては純白の翼が調査しているのだが……」
そんな時、タイミングよく純白の翼さんがやってきた。ビルの陰から姿を現すと、こちらに向かって駆け寄ってくる。
「おっ!みんな来てんね!あーしも調べものバッチリだよ!」
親指を立てて『いいね!』ポーズで感情を示す純白の翼さん。今日は厨二病モードじゃないんですね。
「まず、【闘技場】から出た時にここに来れた理由についてだけど、先のたとえで言うなら【闘技場】はID:2。【ストレージ】はID:3だからID:1との差は2。だからID:0であるこの都市に来れたんよ」
「は???」
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>闘技場はID:2←まあわかる ストレージはID:3←これもわかる
>だからID:0に来れた←!!???!??????
>通常はマップIDを1との差分だけ差し引くことで元のエリアに戻れるけど、【ストレージ】は闘技場より後のIDだからバグが起きた?
>なんでそんな意味わからない内部処理してるの???
>なんで素直にID:1を指定しないんだよ
>調べたってどういうことだよ。逆コンパイルでもしたのか
>ストレージから闘技場に行けたってことは闘技場を開く時は直接ID:2を指定してるんですよね??なんでおんなじ事ができないんですか???
>ユーキちゃんとかいう最悪のクソコーダー
>こんなクソプログラマーに仕事発注した奴が悪い
>1億歩譲ってバグはそういうものとして認めるけどなんでこんなマップがあるの?
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「で、このエリアと同じ風景の場所が現実のどっかにないか調べたけど、オリジナルみたいね」
「現実の都市構造を転写したわけじゃないってことですか。没マップか何かなんでしょうかね」
没マップの割にはずいぶんな力の入れようですけれど……。漆黒の翼さんの話だと、ゲーム用の機械とかもこのエリアにあるんでしたっけ。
「探せばおもしろいアイテムを回収できそうだな」
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>銃とか手に入ったら笑う
>割とありそうで草
>前回の大会無駄になるなw
>このマップ知ってる気がする
>俺もゲーム機欲しい。ゲームしたい
>これってもしかしてA-YSじゃね?
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コメント欄を眺めていると、なにやらこの場所に心当たりのある視聴者さんがいた。
「……【A-YS】?」
どっかで目にした単語ですね……どこでしたっけ。
「かつてのクソゲーオブザイヤー受賞作品だったか? ネットで耳にしたことがある。」
「あー。その辺はボクの守備範囲外ですね……。クソゲーをわざわざ探してプレイしようとは思いませんし。」
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>まあフォッダーは大賞確実なんだけどな
>世界で一番遊ばれてるクソゲーすごい
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「その【A-YS】ってゲームと、マップが似てるんですか?どういうことなんでしょう。偶然?」
「さすがにあーしもゲーム内マップまでは捜索範囲外……」
謎のゲーム、【A-YS】については気になりますが、あくまで似ているだけでしょう。
マップについての考察は置いておき、ひとまず探索を始めよう。
とことこ街を見て回っていると、おもしろいことに気づいた。
街中には人はいないけれど、建物の中にある店は営業しているのだ。
もちろん店員は人間でもAIでもない。店内の中央に配置された怪しげな機械が商品の精算を担当している、いわばオートレジらしい。
これも現代ではわりとありふれた、商品を持って店を出ようとすると自動で精算してくれる便利な装置ですね。
そして品ぞろえを見ると、現代的な世界にふさわしくない剣やら槍やら、さまざまな装備が販売されている。ここは武器屋なんでしょうかね。
なにかおもしろい装備とかないかな?と手分けして物色していると、ボクの後ろから声がした。
振り向くと、そこに見覚えのない男性の姿があった。この世界における初めてのボクたち以外のプレイヤーですね。配信を見て異世界観光に来た人だろうか?
「あれ?新しいプレイヤーさん?『VRステーション』が欲しいのかな?」
「はい?」
「…………もしかして、このゲームの常連か?」
「まあ、常連って言えば常連だね。【A-YS】のことはなんでも聞いてよ。初心者のサポートもしちゃうよ?」
【A-YS】のサポート? このゲームは【フォッダー】ですよね?まるで別のゲームのプレイヤーみたいな……。いや、もしかして——。
「——もしかして、本当に異世界につながっちゃいました?」




